横山悠太の自由帳

試訳、日記などの雑記。著書:『唐詩和訓』(大修館書店)/『小説ミラーさん』『小説ミラーさんⅡ』(スリーエーネットワーク)/『吾輩ハ猫ニナル』(講談社)

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マガジン

  • 留学生にすすめたい短歌

    留学生にすすめたい短歌を集めています

  • 宋詞和訳

    詞とは、歌にのせるものとして作られた詩の一種で、今でいう歌詞のようなものです。宋代に隆盛を極めました。その「宋詞」を日本語の歌詞風(演歌風?)に訳してみようかと思います。

  • 郁達夫 『楊梅酒』

    1930年作の短篇小説。郁達夫(1896-1945)、浙江省富陽県出身。代表作『沈淪』、『春風沈酔の夜』など。

  • 廃名『菱蕩』

    1927年作の短篇小説。廃名(1901-1967)、湖北出身。代表作『橋』、『莫須有先生伝』など。

最近の記事

『えーえんとくちから』 笹井宏之

留学生にすすめたい短歌シリーズ 15冊目は、笹井宏之『えーえんとくちから』(ちくま文庫) なんだかよくわかりませんが、なんだかおもしろいです。 どういう発想でこんな歌ができるのでしょうか。 こちらはなんとなくわかります。 最後の「野菜を食べる」の7音がいいですね。 生き物が出てくると、たいていおもしろいです。 「名前」が使われているところが、絶妙ですね。 凡人は「美しい」を「姿勢」の修飾語として使いたくなりそうですが。 意外性があり、動きがあり、反芻してしまう3首

    • 『LONESOME隼人』 郷隼人

      留学生にすすめたい短歌シリーズ 14冊目は、郷隼人『LONESOME隼人』(幻冬舎) ただならぬ歌です。 この作者は24歳で渡米し、1984年に殺人罪で終身刑となり、今もカリフォルニアで服役中という。朝日歌壇の常連だったようです。 なまなましい。 トイレ2首。刑務所のトイレにグッピーとは、意外すぎます。 こんなかわいい歌もあります。 「バリトン」だけなら思いつきますが、そのあとの施錠の「ソプラノ」にははっとさせられます。 今も短歌を詠まれているのでしょうか。

      • 『夏の領域』 佐藤モニカ

        留学生にすすめたい短歌シリーズ 13冊目は、佐藤モニカ『夏の領域』(本阿弥書店) 歌集の名前にもなっている「夏の領域」という表現が秀逸です。 「背を向ける」というのが二重の意味になっているようで、おもしろいです。 看護師さんのユーモアでしょうか(笑) あと、とらえどころのない話し方をする医者っていますよね。 コンビニって、寝巻きでも行けたりしますからね。 ストレートな歌で、いいです。 食べ物や料理に関する歌にいいのが多かったので、続けて紹介します。

        • 『オールアラウンドユー』 木下龍也

          留学生にすすめたい短歌シリーズ 12冊目は、木下龍也『オールアラウンドユー』(ナナロク社) とても繊細で微妙ながら、共感できるこの感じ。「わずかに」「そっと」「やや」などの語彙が効いています。 こちらは、春に「なんて」を使う意外性がありますね。 アニメ的で、バカっぽくていいですね(笑) 「明朝体のような横顔」というのがいいですね。「前髪を耳にかければ」というのもいい。パーツがぜんぶいいです。 そんな母親が入院中に、チキンラーメンばかり煮る父(笑) こういうのが木

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        • 留学生にすすめたい短歌
          15本
        • その他
          4本
        • 宋詞和訳
          17本
        • 郁達夫 『楊梅酒』
          8本
        • 廃名『菱蕩』
          6本
        • 老舎『断魂槍』
          14本

        記事

          『あしたの孵化』 辻聡之

          留学生にすすめたい短歌シリーズ 11冊目は、辻聡之『あしたの孵化』(短歌研究社) いいなと思った歌を並べてみたら、最後が終止形(日本語教育では辞書形)の動詞で終わるものが多かった。 終止形はもっともプレーンの状態に近く、情感が薄いのがいいのかもしれない。 淡々としていて、そこに意志があるのかないのか、はっきりしないのもいい。 この辺は読みやすくていいです。 まさに「いい絵」です。 い・ろ・は・すの柔さっていうのが絶妙です。 次の2つはよくわからないんだけども、なん

          『あしたの孵化』 辻聡之

          『もしニーチェが短歌を詠んだら』 中島裕介

          留学生にすすめたい短歌シリーズ 10冊目は、中島裕介『もしニーチェが短歌を詠んだら』(角川学芸出版) 歌集はまずこの歌から始まります。入学式で言ってみたいですね。 疑うことと、立つこと。この両立が難しい。 恋人と別れ、孤独だと涙を流した学生もいました。 留学生は、孤独の練習生でもあるようです。 そう! 欲望が足りないんですよ。 そんな人になりたいものです。 それな。 そして、この歌集は次の一首で締めくくられます。

          『もしニーチェが短歌を詠んだら』 中島裕介

          『あかるい花束』 岡本真帆

          留学生にすすめたい短歌シリーズ 9冊目は、岡本真帆『あかるい花束』(ナナロク社) これは留学生あるあるかもしれない。近所の安いスーパーの存在に気づいてなかったとか。 「小さな部屋」と「玉座」の取り合わせがいいですね。一人暮らしのお気に入りの椅子は、きっとその部屋のなかの最もいい場所に置かれているはずですから、それは紛れもなく「玉座」です。 これ、電車好きの留学生の口から実際に聞いたことがあります。 これも留学生の心情に重なりそうです。 じわじわおもしろいです。

          『あかるい花束』 岡本真帆

          『水に沈む羊』 山田航

          留学生にすすめたい短歌シリーズ 8冊目は、山田航『水に沈む羊』(港の人) 産道は光ファイバー。妄想が広がります。 高級ホテルのソファとか、連想しますね。 文語体の短歌も多いですが、語彙はほとんど現代語なので、読むのはそれほど大変ではないと思います。 それって短歌のこと? って思ったり。 情景が目に浮かぶ。妙にリアル。 空き缶を蹴ったときの音。懐かしい。 つい最近、試験監督をやりました。そして、何度もきびすを返しました。 掃除道具のロッカーとか?  たしかに

          『水に沈む羊』 山田航

          『了解』 平出奔

          留学生にすすめたい短歌シリーズ 7冊目は、平出奔『了解』(短歌研究社) コンビニなんて、そんな商品ばかりですね。カップ惣菜とかも、割高なのについ買ってしまうことがあるもの。 そういうことなんですよね。 その発想はなかった(笑) この辺もじんわりとおかしくて好きです。 これはどういうことだろう。わかるような気もする。とてもおもしろいです。 どうってことない心のつぶやき。これも短歌になるんですね。 次のも。

          『サイレンと犀』 岡野大嗣

          留学生にすすめたい短歌シリーズ 6冊目は、岡野大嗣『サイレンと犀』(書肆侃侃房) あれ、初めて「体験」したとき、ビビったのを憶えてる。 あれが鳴りっぱなしの地獄なんて、行きたくないね。 批評的な鋭いツッコミ。 自分が好きなことは素直に好きでありたい。そう思わせてくれます。 こんなのもあります。 これはもはや短篇小説ですね。

          『サイレンと犀』 岡野大嗣

          『紫のひと』 松村正直

          留学生にすすめたい短歌シリーズ 5冊目は、松村正直『紫のひと』(短歌研究社) こういう光景、確かにあります。言葉の並びがうつくしく感じるのはなぜでしょうか。淡々とした描写の妙でしょうか。 映画でも、その俳優に見惚れるのは、むしろ感情を失くしたような顔をのぞきみたときかもしれません。 「いいな」と「いいね」の違いを考えるのにもいいね。 詩情が濃く、鮮やかです。 「放置自転車撤去作業車」が口に楽しい。 これは私がいつも留学生に対して思っていることです。

          『紫のひと』 松村正直

          『コンビニに生まれかわってしまっても』 西村曜

          留学生にすすめたい短歌シリーズ 4冊目は、西村曜『コンビニに生まれかわってしまっても』(書肆侃侃房) 繊細ながら平易で、留学生に向いていると思う。 ああ、返してないね。 言葉遊びが巧みでおもしろい。 なんか否定するばかりで、悲しくなってくるというか、むなしいというか、そんな感じですよね。 タイトルにもなっている歌はこれです。

          『コンビニに生まれかわってしまっても』 西村曜

          『イマジナシオン』 toron*

          留学生にすすめたい短歌シリーズ 三冊目は、toron*『イマジナシオン』(書肆侃侃房) 見立てがとてもいいんです。 これだけでなく、見立ての短歌で溢れています。 そうそう、あれは疲れたときにダイブしたくなるようなフォルムと色だ。 そういえば、最近電車の広告で、「北海道チーズ蒸しケーキ」のぬいぐるみクッションなるものを見た。 これも共感。 おもしろい。 たしかに「死」が螺旋階段を上るイメージだったっていいし。西洋人はそうだったりするかも。 以下の2首は、個人的に共感

          『イマジナシオン』 toron*

          『新しい猫背の星』 尼崎武

          留学生にすすめたい短歌シリーズ 2冊目は、尼崎武『新しい猫背の星』(書肆侃侃房) 自虐的で、おもわず笑ってしまうような歌が多い。 後半の2首はどちらも「〜のに」が使われている。 これ、ときどき私もやる(笑) 身も蓋もないけど、こういうのもいいね。 この歌は一瞬ドキッとさせられるけど、よく読むと、「赤ちゃんがおなかにいますバッジ」がひとつながりの名詞になっていることにあとで気づく。技ありの一首。 あるある(笑)

          『新しい猫背の星』 尼崎武

          『サラダ記念日』 俵万智

          話の流れで、日本には短歌という定型詩があって、例えばこんなものがありますよ、と『サラダ記念日』の何首かを留学生に紹介することがあるが、あまりいいリアクションはない。 例えば、これは歌集のタイトルにも使われている代表的な一首だが、あまりピンときてくれない。 でも、千人に一人ぐらいは、「短歌、おもしろいかも」と思う学生もきっといるんじゃないか。そして、これぐらいの、あるいは、これより更にとっつきやすい歌が百、二百と並んでいたら、どうだろうか。日本語の勉強にも、短歌が一役買って

          『サラダ記念日』 俵万智

          教科書に!?

          小野小町 与謝野晶子 井伏鱒二 大岡信 俵万智 と来て…… 思わず、妻と2人で爆笑してしまいました。 大修館書店から出ている今年の高校の教科書です。