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【美しい装丁をレビュー】リチャード・ブローティガン詩集『ここに素敵なものがある』(装丁:鈴木成一デザイン室)

 先日の投稿で、リチャード・ブローティガン詩集『ここに素敵なものがある』は、内容だけでなく、本の装丁が素晴らしいことをご紹介しました。

 手に取った時から、やさしい紙の質感といい、手になじむ大きさといい、カバーデザインといい、「これは普通の装丁ではない…!」という感じで、とにかく物質としてのパワーが凄い。持っているのが嬉しくなるようなブックデザインに、心が躍りました。

 それもそのはず。この本は装丁家として有名な、鈴木成一さんの手がけたものでした。

 そこで、元グラフィックデザイナーとして、この何時間でも愛でていたくなる“神装丁”について、以下に解説いたします。


▶装丁:鈴木成一デザイン室

出版界で「本をヒットさせるなら、あの人に頼むべし」と言われる男がいる。装丁家・鈴木成一。読者の目を引き、手に取らせる見事なデザインで、年間700冊を世に送り出す。依頼を受けた月60冊分の原稿を日々読み込み、決して妥協を許さず、「コレしかない」というデザインをひねり出す。ベストセラーを陰で支える職人の、仕事の流儀に迫る。

NHK「プロフェッショナル 仕事の流儀 装丁家 鈴木成一の仕事 誇りは自分で創(つく)り出す」
DVDの商品説明より
https://amzn.to/4aX02An

 上記は、2007年5月22日放送のNHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」DVD版にある説明文です。
 また下記は、鈴木成一著『装丁を語る。』まえがきからの引用です。

 装丁には正解がある、と私は思っていまして、原稿を読めば、「本としてこうなりたい」というかたちがやっぱりあるわけですよ。個性をちゃんと読み込んで、かたちにする。飾りで読者の気を惹くのではなく、その本にとっての一番シンプルで必要なものを明確に演出する。そのときに、いかに自分が新鮮に思えるか、わくわくできるか、ですね。そうやって作られたものって、やっぱりちゃんと伝わりますから。

鈴木成一著『装丁を語る。』まえがきより
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 …はい、ちゃんと伝わってまいりました!

 この『装丁を語る。』を読み、『ここに素敵なものがある』を読み、あらためて感じたのは、鈴木成一さんの、本の内容を読み取る力のすさまじさ。詩集であろうが小説であろうが、読み取って、ビジュアルとして再構築する咀嚼力のすごさです。『ここに素敵なものがある』の帯には、「かなしくて さびしくて 優しい人に。」とありますが、「なるほど、そういう詩集なのね」という程度の認識で装丁をしようと思ったら、このような素晴らしいものに仕上げることはできないと思います。この詩集の世界観を、質感や色合いも含めた総合的なデザインで見事に表現した装丁だと感じます。


▶カバーは、人形作家 高橋昭子さんの人形

帯を取って、人形がよく見えるようにしました。

 これは多分、鈴木成一さんが、「高橋昭子さんの作成した人形を撮影してカバービジュアルに使いたい」ということで、わざわざ撮影されたものではないでしょうか。
 上記『装丁を語る。』にも書かれていますが、鈴木さんは日頃からいろいろな作家(イラストレーター、写真家、彫刻家等)の個展に、積極的に足を運んでおられるようです。そして、編集者から装丁の依頼が来た時に、「あの作家さんの作品を使わせてもらおう」となるのだとか。その、日頃のアンテナの高さと引き出しの多さがすごいですよね。
 この本『ここに素敵なものがある』も、「カバーによくぞこのお人形さんを選んでくださった」と思うほど、絶妙なチョイスです。おおかみ(犬?)の着ぐるみ帽子をかぶった女の子と、リチャード・ブローティガンのさみしくも温かい世界観が、ぴったりリンクしているように感じられます。


▶仮フランス装の製本

仮フランス装。表紙内側の様子。
表紙の紙は、ファーストヴィンテージ(アッシュ)かな?
本の天側はアンカット(切り揃えていない)。
地の側は切り揃えてあります。

 仮フランス装とは、表紙の紙(柔らかい紙)の天地左右が内側に折り込んである製本のこと。単なるソフトカバー(並製本)より表紙の強度が高くなりややしっかりした印象になるものの、ハードカバー(上製本)よりは柔らかく優しい印象になります。

 また、仮フランス装では天(本文用紙の上辺)を切り揃えないことが多く(アンカット)、『ここに素敵なものがある』もアンカットです。おしゃれですよね~~。


▶帯の紙がリバーシブル

帯。紙はクラフトペーパー デュプレN?

 こんなところまで!と思ったのが、帯の紙。クラフト系の紙で、表が白(晒)、裏が茶色(未晒)です(クラフトペーパー デュプレN?)。表の白い面にもクラフト紙の風合いが感じられて、カバーの紙が一般的な白い紙である分、ナチュラルな落ち着き感が引き立ちます。


▶見返し、別丁扉、本文の紙のチョイス

見返し。紙はビオトープGA(カカオビーンズ)?
別丁扉。紙はNTラシャ(グレー20)?

 見返しは、表紙側の紙を表紙に糊付けしていない状態。二つ折りの紙が挟み込まれた格好になっています。紙の色選びがとても素敵で、見返しの赤茶色、別丁扉の薄いグレー、本文用紙の明度低めの白、このリズムが最高に美しいです。

 それと、手に取って「おや?」っと思ったのは、本の厚みの割には軽いこと。本文用紙にエアリーな紙(わら半紙・再生紙・更紙っぽい紙)を使用しているからかもしれません。この“ふんわり感”まで設計のうちかな…?(すごい!)


▶ノンブル、柱、本文のバランス

 この本の一つの特徴は、訳注が豊富にあること(上の画像の「*アッティラ大王~~」の部分)。この訳注をうまく収めつつ、ノンブル(ページ番号)、柱(上記画像の「セクション3から」の部分)を入れるとなると、う~ん!、私ならどう配置しただろう…胃が痛くなりそうです(笑)。しかしご覧ください、見事な配置ですよね。
 オールド明朝系の書体も、大変美しいです。

▶補足:楽しい紙見本について

竹尾のミニサンプル

 今回、紙の特定に、株式会社竹尾(紙の専門商社)の紙の見本帳(ミニサンプル)を参照しました。竹尾さんのウェブストアから購入できます。見ているだけでも楽しいのでご紹介しました♪


▶『ここに素敵なものがある』ご購入はこちら

 このように素晴らしいリチャード・ブローティガン詩集『ここに素敵なものがある』、ぜひお手に取っていただければと思います。
 当店では、翻訳者の中上哲夫さんの詩集とご一緒にご購入できます。中上さんの詩集が、これまたいいんです!ぜひショップに見にきてください☆


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