コストパフォーマンスとMBA
大学の学部で教えていたとき、学生があの授業はコストパフォーマンスよい、悪いということをよく口にしていました。それを聞くたびに私はもやっとしていました。
大学で学ぶときのコストパフォーマンスとは何でしょうか。コストは学費であったり、授業や課題、研究にかける時間と労力であったりするでしょう。そこは私も異論はありません。問題は、パフォーマンスです。
学部生が授業のコストパフォーマンスと言うとき、パフォーマンスはたいてい単位のとりやすさを指しています。単位だけではないにしても、せいぜい、教員が楽しませてくれて、90分間座っていても苦痛ではない授業であるかどうか。
少しでも偏差値の高い大学を出ているほど就職に有利であると学生が考えるのは社会の現実として無理もないのですが、どこそこの大学を出たという事実のみが最終的なパフォーマンスとすると、個々の授業のパフォーマンスは究極的には単位が取りやすくて苦痛ではない授業になってしまうわけです。
私が現在教えているMBA生はそれなりに社会人経験を積んだ大人なので、教員に面と向かって言うことはあまりありませんが、学部生と同じような考え方を感じるときが時々あります。MBAを資格のように捉えて、MBA修了資格取得をパフォーマンスだととらえる考え方です。
しかし、残念ながら、MBA修了資格が転職や昇進に直結するかは、中の人が言うのも何ですが、正直、少々あやしいです。外資系や新興IT企業などでは学歴としてそれなりに評価してもらえるかもしれませんが、トラディショナルな日本企業では、MBA修了の資格よりも、学部の学校歴のほうがはるかに効くと思います。
私は、大学での学びのパフォーマンスは、学部でもMBAでも同じで、卒業・修了した段階で自分自身に何が身に付いているかだと思います。入学したときよりも、広い視野で検討できるようになったとか、深く論理立てて考えられるようになったとか、違う意見を持った人と建設的に議論ができるようになったとか、自分自身に起きた変化の幅と深さがパフォーマンスなのです。
私自身、今までの人生で起きた困難を救ってくれたのは、いつも自分の身に付いたことでした。芸は身を助く、と言いますが、学びは身を助く、だと思います。暗記するような知識とは違って、一度身に付いた学びは、一生自分を助けてくれるのです。