先行研究探しのステップ3 「自分の小枝」- MBA生の研究tips(6)
先行研究探しのステップ1は、専門分野(森)の中で、授業のトピックや教科書の章を参考に、その森の主要なトピック(林)を把握することでした。
ステップ2は、林の中で、研究課題に関係がありそうで、しかも重要な研究潮流(木や大枝)を見つけることでした。
ここまでくれば、林のだいたいの地図が頭に入ってくるので、自分の研究(葉)をどのあたりの小枝に生やすかを決めることができるようになってきます。同じ小枝に生えている他の葉、つまり、自分の研究課題に関連が非常に深い研究はすべて読むことが望ましいです。
自分の小枝に生えている他の葉を探すのは、ステップ1,2をしっかり踏んでいる人にとっては比較的容易です。
第1に、自分の研究課題に関係深い専門用語や専門雑誌名、専門研究者名をある程度知っているので、学術文献データベースで最初の頃よりははるかに適切に絞り込むことができます。ステップ1,2で読む論文は、分岐の元になる論文であるため古い論文が少なくないのですが、ステップ3で小枝の論文を読むときは、最新の論文を多く読むことになります。
第2に、同じ小枝の上に生えている他の葉を見つけたら、その論文の先行研究レビューの節をチェックして、同じ小枝の葉を次々に見つけることができます。
第3に、第1第2の方法で探した論文の中に、レビュー論文(先行研究レビューだけで成り立っている論文)を見つけたら、ラッキーと言えます。必ず入手しましょう。レビュー論文は、先行研究探しの網羅性と整理の仕方の創造性で勝負している論文ですから、研究課題に関して、徹底的に論文のありかを示してくれます。
同様に、博士論文の先行研究レビューの章も、役に立ちます。(レビュー論文以外の)一般的な学術雑誌論文は、字数が限られているため、その研究に直結するポイントしかレビューされていません。しかし、博士論文は字数制限がなく、そのテーマに関する先行研究はかなり深くレビューするのが通常です。自分の研究課題に近く、年代が比較的新しい博士論文があれば先行研究の章をチェックしてみましょう。博士論文は公開されることになっているので、比較的新しい博士論文は全文が電子的に手に入ります(国内の学位論文ならば、CiNii Dessertations)。
第4に、google scholarなどを使えば、ある論文を引用している論文も検索できます。第2第3の小枝論文の参考文献には、その論文より過去の論文しかありませんが、この方法を使えば、その論文より未来の論文も検索できます。
ステップ1,2では絶望的に遠い道のりのように思えた先行研究探しも、ステップ3に入ると急にはかどるようになるので、心配いりません。ただ、ステップ1、2を正攻法で十分にやろうと思うと、フルタイムで研究に時間を費やして数年かかるのが普通です。(研究大学院で修士+博士の1年目ぐらい。学部の最後の方から真剣に研究すれば、もっと早まる。)
フルタイムで研究に没頭できず、研究期間も限られているMBA生が現実的にできるのは、ステップ1とステップ2を非常に急いで出来る範囲で学び、準備不足で苦しみながらも、何とかステップ3を進めることです。当然、限界があるのですが、私は、ステップ1からステップ3までの流れをある程度なぞってみることは、世界規模で行われている知的生産プロセスの一端を体験することであり、研究者を目指さない人であっても、意味があると考えています。すべてのMBA生に勧めるわけではありませんが、興味がある方はチャレンジしてみてください。
なお、先行研究探しを、森→林→木→大枝→小枝→葉のアナロジーでうまく表現しきれないところがあります。それは、木は独立して生えているわけではなく、相互に交わっていることがしばしばあり、また、枝葉もいろいろなところにつながって、複雑なネットワーク状になっていることです。林や森ですら、時代の流れの中で生き物のように変化していきます。したがって、自分の小枝は1つの大枝、木、林に属しているとは限らず、複数の起源を持っていて構わないのです。
ますます複雑になってきました。先行研究探しは大変に厄介であることは確かです。だからこそ、研究する人の創造性が試されるプロセスであると言えるのです。
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