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先行研究探し番外編2 「生成系AIを使えばいいんじゃない??」- MBA生の研究tips(8)
(画像は、Chat GPTに自画像を描いてもらったものです。ちょっと陳腐ですね・・)
MBA生が先行研究探しする正攻法について書きました。ステップ1とステップ2は本当にしっかりやろうと思うとフルタイムで数年間かかり、ステップ3はステップ1、2がしっかり身に付いていれば比較的にすばやくできますが、時間がなくてステップ1、2を省略するほど苦しむことになります。
ここで、先行研究探しなんて、生成系AIに聞けば一発で答えてくれるんじゃない?と思う人がいるかもしれません。先行研究探しに生成系AIは使えるでしょうか。
私は、Chat GPTが登場してから、AIの進歩をチェックするために、定期的に先行研究レビューをやらせてみていますが、最初の頃はそれはもうひどくて、AIは一行目から息をするように嘘をついていました。ハルシネーションと言いますが、ありもしない論文を創造して、もっともらしくレビューするのです。
最近は、かなり進歩して、回答全部ねつ造というようなことは減りましたが、それでも、嘘を言う癖は抜けきっていません。生成系AIは、言葉の穴埋め問題を解くことから発展してきたという歴史的経緯があるので、足りない情報の穴埋めとして、ありもしない論文を創ってしまうようです。これは困りますね。他の用途でも、生成系AIの言うことは必ず裏をとらないと恥をかくことになります。
ハルシネーションでなくて、一応根拠(引用元)があったとしても、生成系AIは、誰でも検索可能なオープンアクセスの情報源しか参照できないという問題があります。学術論文は、一部オープンアクセスのものもありますが、まだまだ圧倒的に有料データベースに入っているもののほうが多いです。学生や教員は、大学が出版社と契約している有料データベースを使えますが、生成系AIには入り込めないのです。分野にもよりますが、少なくとも経営学では、それなりに定評のある学術雑誌はオープンアクセスでないことが多く、オープンアクセスの論文だけで文献レビューをすると情報源が偏ってしまいます。学会ではほとんど評価されていない論文がアクセスの容易さのためにAIに重要な論文だと認識されてしまうかもしれません。
将来、技術が進歩して、論文のオープンアクセス化が進展すれば、これらの問題はある程度解決するかもしません。しかし、もっと本質的な問題があります。論文レビューは、網の目のように複雑に絡み合っている先行研究の森をどのような方向から見ると新しい視野が開けるかを示す創造的な行為です。創造的な論文レビューとは、その分野の研究に携わる人々の間では歴史的にどのような見方がされてきたかという共通感覚としての常識に、どのような視点を加えれば、研究が理論的に進展するかを示すことです。その論文レビューが理論を進展させる貢献をしているかという価値判断も、その分野の研究に携わる人々に委ねられていています。人間の共通感覚としての常識と、価値判断をAIに委ねてよいのか(しかも、AIは思考過程は基本的にブラックボックスの中にあります)という問題があります。
先行研究探しに生成系AIを使って良いかという質問には、ステップ1とステップ2を十分に経ていない初学者はやめておいたほうがよいというのが私の答えです。MBA生の大多数は、ステップ1とステップ2を十分に経ていないので、ハルシネーションにだまされたり(これは引用元を確認すればよいだけですが)、オープンアクセス論文に偏ったレビューになってしまうおそれがあります。さらに、先行研究レビューに関する共通感覚が十分に身についていないので、AIの出した答えを参考するときにピント外れの判断をしてしまう可能性があります。
MBA生は、生成系AIに「これこれのテーマの先行研究レビューをして」と単純に頼むのはやめておいたほうがよいですが、大量の論文から自分に必要な論文を探す過程で、あたりをつける際の補助として、論文の要約や翻訳を頼む程度ならばよいのではないかと私は思います。ただし、自分の論文に引用する論文は、最終的には原著論文を確認し、自分の言葉でレビューすること。AIを完全に信じたり、任せきってはいけません。
ステップ1とステップ2を十分に経て、その分野の共通認識が身に付いて、研究者としての価値判断ができるレベルになれば、もうAIの言うことを丸呑みすることはないので、生成系AIをはじめとした情報ツールを積極的に活用してよいと思います。論文の出版数は近年爆発的に増加しているので、プロの研究者も先行研究の把握には苦しんでいます。オープンアクセスでない論文も引用情報はオープンにされていることが多いので、先行研究の引用関係のネットワーク関係を図示し、研究者の新しい発見を促すようなツールも出ています。多くの論文を効率的に整理し、把握するために特化したツールは、これからもっと発達するだろうと思います。
MBA生の研究活動のtipsを書いています。
書くこと
読むこと
理論との付き合い方
先行研究探し
そもそもなんでMBAに入るの?