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「令和黒蜥蜴」後日憚
令和黒蜥蜴
後日憚
先代の黒蜥蜴が炎と共に空へと昇っていった。
その数日後。
葉隠れ書房の店主はいつもの様に店に来ると、
扉の前に段ボールが置かれていた。
何も頼んではいないはずなので不思議に思いながらもそのまま店先で開けてみたところ、
そこには江戸川乱歩全集がぴっしりと収められていて、さらに不思議に思った。
その本の上に一枚のレター用紙が添えられている事に気づいて、手に取ってみる。
私の愛する素敵な古書店の貴方へ
「突然のお手紙失礼致します。私ちょっと込み入った事情がありまして、もうそちらにはお伺い出来なくなってしまいましたの、それで貴方に最初で最後のプレゼントを贈る事にします。乱歩全集なのだけれど、その中にね、特別な一冊があるのよ。黒蜥蜴の本の見開きをご覧になって、(店主書いてある通りに黒蜥蜴の本を取り出し頁を捲る)そう。サインが二つしてあるの。それは一つが乱歩先生のサイン。もう一つは私のご先祖様。初代黒蜥蜴のサインよ。当時、銀座ブランスウィックという飲み屋で初代黒蜥蜴が飲みに来ていた乱歩先生に声をかけられて、何度かご一緒するうちに仲良くなったものだからってついうっかりあれやこれや喋ってしまったそうなの、それで話しを聞いた乱歩先生は大層喜んで小説にされちゃったっていうのが事の顛末だと聞かされてきたわ。多分この二人が一枚の紙に署名をしたのはこれっきりだと思う。どう?貴方の喜んでいる顔が目に浮かぶ様だわ。ふふ。これを貴方にあげるわね。形見分けよ。分かってると思うけどくれぐれもこの話しは内密にしてちょうだい。言ったら殺しに行くわよ。お店これからも頑張って頂戴ね。最後になるけど、もしも私の後継者が店に来たらその時は宜しくお願いね」
令和の黒蜥蜴より
店主は大きな体躯をちぢこませて、
しゃがみこんで嗚咽しながら泣いてしまう。
「あの人だ。あの人が正真正銘の黒蜥蜴さんだったんだ」
涙が止まらない。
全身の力が抜けてしまい立ち上がる事すら出来ない。
その時、店の前にリムジンが停車した。
一人の女性が降りてくる。
グリーンとパープルのグラデーションカラーのドレス姿で光沢のある髪をアップに纏めていて、指先には宝石が散りばめられている。
光に包まれた、それはこの世の者とは到底思えない程の美しい女性であった。
「あの、貴方どうかなさって?」
the world is full of secrets
who is your hero?
世界は秘密で溢れている
あなたのヒーローは誰ですか?