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ディングルの石たち
2009年3月11日~21日 アイルランド紀行23
3月18日 晴天
Killarney - Dingle Peninshura - Dublin②
きらめくInchの浜辺を惜しみながらディングル半島の奥へと進む。半島と同じ名前の街を抜ける。とてもかわいらしい街だ。
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途中、野焼きをしているのか、丘の斜面からモクモクとあがる白煙に春ののどけさを感じているうちに、すっかり道に迷ってしまった。
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道案内を見落としたようで、行きつ戻りつ迷いながらも、なんとか有名な石造りの礼拝堂へ到着することができた。
ガララス礼拝堂……
チケットが売られている小屋を通過してしばらく歩くと、三角おにぎり2個を横並びに合体させたようなユニークな形の建造物が、青空をバックにポンっと立っているのが見えてきた。
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石と石を積み上げて造られたシンプルな構造で(もちろん往時にしては緻密な技術であろう)、7~9世紀当時の姿を留めているらしい。
これが礼拝堂なのかと思うくらい、十字や塔などの教会らしいシンボルは何もない。唯一、建物向かって左横に佇む、十字を崩したようなデザインが描かれた80CMほどの石柱が、教会の雰囲気を醸し出していた。
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外観をカメラにおさめながら半周すると、裏側の壁一か所にだけ明かりとりの窓があった。とても小さな窓だ。覗き込むと、中で写真を撮っている夫と目が合い、お互いに手を振った。
「相当、暗そうね。」、「うん、かなり。」
実際に内部に踏み込むと、想像したよりもさらにひんやりと寒く、うす暗かった。
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ここで日々祈っていたのか。
晴れている今日ですらかなり暗いのだから、雨だったら凍えるほどに寒くて暗かろう。スケリッグ・マイケルの修行僧たちが孤島で燃やした神への情熱をここでも感じた。奥に入れば入るほど、その情念がいまなお暗い隅っこに宿っていそうである。
居心地の悪さを感じて、サクサクと一通り見て出てくると、遠くスマーウィック湾のやわらかい薄青色が緑野に映える。
湾の左手には「The Three Sisters(三姉妹)」と呼ばれる、連続したのこぎり波形のような崖が三つ並んでいて、とても印象的で親しみやすい風景をつくりだしていた。
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この特徴的な崖はなんらかの海蝕の具合で出来上がったらしいが、まるで神様が風景にアクセントを付けようと、ひょいと手びねりして創ったようにもみえる。
暗い石に囲まれた中で祈るより、のどかな風景の方がより神様を見出しやすいような気がする。この半島にはそう思わせる神の美しい造形物・自然がそこかしこにあった。
次に向かったのは、12世紀半ばに建てられたトラディショナルなアイリッシュ・ロマネスク様式の建築物で有名なキルマルケダル教会。先の標識の見落としに懲りたので、ガララス礼拝堂の土産売り場のお兄さんにしっかりと道を尋ねて、こんどは15分で到着した。
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最初に目をひいたのは 、墓地の中ほどに佇む、中空を見つめる白亜のマリア像だった。雨ざらしで表面がところどころ剥げかけているが、一心に祈る姿はたおやかでとても美しい。そして信者が捧げたのであろう、彼女の腕に抱かれたバラの赤が白い像をさらにひきたてていた。
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その近くにお目当てのオガムストーンと、石の日時計を探し出すことができた。
線の本数や位置によってアルファベットを示すオガム文字が刻まれたオガムストーンは、そのひょろ長い石の上部に使途不明の穴が空いており、なにやら原始宗教の名残を感じさせる。
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石の日時計も興味深く、墓地に降り注ぐ午後の陽光を受けて、穴に差し込まれた棒が時計の針となる影を作りだしていた。
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キルマルケダル教会自体は、すでに屋根は落ちてなく、外壁だけの状態。アーチ型の入り口をくぐって天井のない内陣を見てまわったが、どれがアイルランド・ロマネスクの特長なのかさっぱりわからない。
建築様式の勉強をすればとヨーロッパに来るたびに思うのだが、相変わらず不勉強である。
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ブラブラしていると、ふと内陣手前の石が気になり、立ち止った。線だけの簡易な十字架が刻まれた石標は「アルファベット石」といわれ、その側面にアルファベットらしき文字がある。
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素朴な味わいがよく、思わず見入ってしまった。確立された様式より原始的装飾についつい惹かれるらしい。
どうしてキルマルケダルの敷地には、ロマネスク様式教会やマリア像というキリスト教関係のものと、アルファベット石・オガムストーンや日時計など原始的なものが混在するようになったのだろうか。
そのちゃんぽん加減が不思議であり、おもしろく感じられた。
※この旅行記は以前に閉じたブログの記事に加筆して、2023年春にnoteに書き写してます。
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