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一番アイルランドらしい風景

2009年3月11日~21日 アイルランド紀行18
3月16日 曇りときどき晴れ
Galway - Cliffs of Moher - Killarney

モハーの断崖をあとにすると、再びなだらかな緑地となり、あの断崖があったのが嘘のようだ。おそらくあの近辺だけが地形的に隆起しているのだ。いったいどのような地殻変動で形成されたのだろうか。

やがて大西洋の波が幾重にも押し寄せる海岸が急に開けた。波が詩うようで、飽かず美しい。

Spanish Point Beach

きっと知る人ぞ知る地元の避暑地で、夏になると多くの人が訪れるにちがいない。その証にオフシーズン閉店中のB&Bがそちこちにある。帰国後に調べたらSpanish Point Beachというところらしい。次にアイルランドに来るときは、ここでのんびり避暑をしたいものだ。

やがて緑がどんどんと濃くなり、道の両脇にどこまでも牧草地が続く。突如、ウサギが車の前に飛び出してきた。まるでピーターラビットの絵本から抜け出してきたような茶色いウサギだ。そのウサギは逃げようとまっすぐ走るので、ずっと我々の車に追っかけられることになってしまった。その必死に逃げるさまがとてもかわいい。

この日、2羽のピーターに出会った。もう一羽のピーターは膝丈くらいの草地を自由に飛び回っていた。ここクレア州は、風景も動物も牧歌的で、ほっとするあたたかみがある。イメージしたアイルランドにもっとも近い風景だった。

尻尾をフリフリしながら離れなくて、とても人懐っこいワンちゃんでした。

目指す宿泊地キラーニー(Killarney)は直線距離だと100キロ程度だが、クレア州とケリー州の間に深く入り込む海がそれを阻んでいた。アイルランド西岸はいくつもの入江が深く陸に入り込んでいるのだ。
なんとか旅程を短縮できる方法はないかと昨日ホテルで調べたら、KillimerからTarbertまでのカーフェリーを利用すれば、かなりのショートカットになることがわかった。

冬場は1時間に1便しかないフェリーにちょうど乗り込むことができた。
土地の人が仕事の利便のために開通させたのだろう。乗用車よりも業務用の車やトラックが目立つ。

ゆるやかに進むフェリーの波紋が水面に広がり、離れていくクレアの緑野に雲間のにぶい太陽の光が当たる。時が止まったような平和な半時間を甲板で過ごしたのち、無事ケリー州に上陸した。

キラーニーは訪れたどの街よりおしゃれだった。どこか垢ぬけた雰囲気が漂う。石畳の街路に立ちならぶ店のショーウィンドーは、しゃれた飾りつけで目をひいた。

堀淳一氏の著作を帰国してから読んだが、それはキラーニーを形容するのにぴったりだった。

『どす黒く薄汚れていながら歴史の風格のどっしりと重い裏路地もロンドンに似ているけれども、どことなく埃っぽく野暮ったい感じの漂うダブリン。黒と鼠と灰色の底に沈んだような、エディンバラを想わせるスライゴー。黄や赤の窓枠、看板にも、静かな不気味さの漂う裏通りの雰囲気にもスペイン風のおもむきの濃いゴールウェイ。アイルランドの町はそれぞれ個性ゆたかだが、キラニーはまた、グンと軽やかで、シックなのだった。……キラ二―にはアメリカ人についで、フランス人の観光客が多いようだった。……街並みの南仏的明るさ、商店のシックさも、フランスとの結びつきの強さを思わせる。』(ケルトの島・アイルランド 自然と遺跡 堀淳一著 筑摩書房)

たしかにキラーニーはどこかパリの街角を思わせる。
そして他の町の表現も非常に的を得ている。街の真ん中にある大聖堂と、入り組んだ街並みのせいだろうか。ゴールウェイはスペイン・アンダルシアのセビージャを彷彿させた。

メイン通りを下ったつきあたりの食堂風レストランの前で、夫のおいしいものセンサーがピコピコーンと動いた。扉をくぐると、真っ赤な布張りの椅子が目立つ店内で、ウェイターはとてもフランク。居心地のいい店だ。

海老のカクテルから始まり、またまた海鮮に舌鼓みをうった。
食後のアイリッシュコーヒーは、コングとは違って甘みが強かったが、これもコーヒーとお酒とクリームの配合が絶妙だった。
同じアイリッシュコーヒーでも、作り手によってオリジナルな個性があふれていた。

※この旅行記は以前に閉じたブログの記事に加筆して、2023年春にnoteに書き写してます。

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