空を行く道
2009年3月11日~21日 アイルランド紀行16
3月15日 曇りときどき晴れ
Cong - Conemara - Galway③
雨がポツポツとフロントグラスを打ちはじめた。
車はひたすらコネマラ半島の奥、スカイロード(Sky Road)を目指す。
曇った空に尖塔がそびえるクリフトゥン(Clifton)の教会裏から、標識を頼りにスカイロードに進入。その名の通り、本当に空へ続いていきそうな道で、小高い丘の峰が突端へと続いていく。例えてみるならスキーのジャンプ台!そのまま空へ飛び立っていけそうな勢いだ。
進むにつれ、どんどん道幅が狭くなっていった。
対向車が来たら交差不能、かつバックも難度高な道の細さで、さすがの夫も運転するのが怖いらしい。
しかし景色はすばらしく、下方には入り組んだ入り江と、はるかに開けていく大西洋の雄大な景色がのぞめた。ダイナミックで、日本にはない景色だ。
ビューポイントで駐車をして車外に出たら、ものすごい強風。吹き飛ばされそうな勢いだ。2分としないうちにさくさくと車内に戻る我々を、石塀の向こうで身を寄せ合う牛たちが見つめていた。この寒風の中、なんとたくましいのだろう。牛からすれば、人間が根性なしなのかもしれない。
ガイドに、『周遊12キロとドライブでは短いので、レンタサイクルで回るのがベスト』とあった。たしかに夏場の晴れた日にのんびりと自転車でこの景色を堪能したら、極上の一日となるだろう。
道をくだって、いくつかの分岐点を適当に選んで進むと、小さく穏やかな浜辺に出た。下ったせいか、風が先ほどより吹きつけない。白と黒が入り混じる砂は細やかで、そこここに澄んだ海水が水たまりを作っていた。分厚い雲の一部から、すでに傾きかけた太陽の光が洩れ、大西洋に反射している。
なぜだろう。昔から思うのだが、大西洋はやさしい……。
太平洋のようにドドーン、世界一の大洋でっせ、みたいな大将的なはつらつさはなく、独特な色のやわらかさやにぶさを感じる。それがあたたかくもあり、さみしい感じもする。大西洋が父性なら、母性のような包容力を連想させる。
私は浜辺でしばし貝や石を拾ったり、夫は一眼レフで写真撮影とそれぞれの時間を過ごした。側に車が止まっていて、運転席からただ海を眺めている男性がいた。
ゆっくりと日は落ち、海面の青が夕闇と溶け合いはじめたころに出発することになった。その車はいつの間にか立ち去っていた。彼の思索を邪魔しなかったろうか……浜辺で子供のようにはしゃいでしまったのが、後から気になった。
帰りの登り道でついに対向車と鉢合わせた。
ここの住人なのか、ギュイーンとわずかに道幅が膨らむところまでバックし、すれすれで交差。素晴らしいハンドルさばきだった。
Sky Roadから一般路に戻り、コネマラを抜けて一路ゴールウェイ(Galway)へ。今日こそB&Bに泊ろうと、お目当てのB&Bを目指したが、なかなかたどり着けない。ゴールウェイはアイルランド第3の都市で、規模も大きく、道も入り組んでいる。薄緑色のゴールウェイ大聖堂の横を数度通過し、そのうちどっちの方角に運転しているのかすらわからなくなった。
そのB&Bをあきらめて郊外を探すも、街中に夕飯を食べにいくことを考えると、レストランもパブもぜんぶくっついているホテルに泊まるのがやっぱり楽だとなり、郊外にあるホテルに宿泊が決定した。ホテルの外壁がまたもやオレンジ色なので相性もよかろうと。つくづく、B&Bにご縁がない。
ホテルのレストランでさっくり夕飯を食べ(もちろんギネスも飲み)、寛いだ時間を部屋で過ごすことになった。旅中盤になって、自分もかなり疲れていることに気付いた。スプリングのきいたベッドで、またたく間に眠りに落ちた
※この旅行記は以前に閉じたブログの記事に加筆して、2023年春にnoteに書き写してます。
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