「一生このまま・・・」④隔離生活が始まった
花梨は病院から帰って来ると、病院でもらった薬と、ミネラルウォーターのボトル、佐知が白髪染めに使う使い捨てグローブと、アルコールティッシュ、体温計、汚れものを入れるレジ袋、マスクを箱ごと持って、自室に籠った。
しばらくして、
「連絡はラインで。食事は部屋の前においてください」
とラインがあった。
「てか、大丈夫なの? 」
ラインで聞く。
「うん、大丈夫だよ。喉痛いのと咳だけだから。二人にうつしたくないから、私は部屋に籠る。あとお母さん、しばらく下のトイレ使ってくれる?」
「ええ? それは無理」
室井家は一階に男便所、三階に女便所があり、二階はリビングキッチンとなっていた。
一階のトイレはほぼ夫専用だ。もよおす度いちいち下まで降りるのも面倒だし、だいたい尿意を感じたときに一階まで駆け下りてたら、漏れてしまうではないか。
佐知は頻尿で、夜中にもトイレに起きた。寝ぼけて階段を下ったら、転げ落ちる可能性だってある。
「無理だから、用たしたら全部アルコールティッシュで消毒してくれる? 次亜塩素酸のスプレーもまいといて」
「はい」
「ドアノブも消毒して。あんたのせいで、せっかく入った仕事、飛んだんだからね」
「すみません」
嗚呼、お洒落してリッツも行きたかったのに・・・。イギリス人のCEOと、素敵な時間を過ごせたのに・・・。
やっとコロナが明けて外出もし始めた時だった。
ここにきてまた一週間の自粛?
しかも、自宅隔離だからスーパーにも散歩にも行けないのだ。佐知はネットスーパーとアマゾンを駆使して、この難局を乗り越えようと思った。
「・・・ま、慣れたもんか」
自粛の二年間で培ったスキルは、本当に一歩も出ないでスマホひとつで、全てを賄えるほどだった。
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