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黄金色の化け物を、静かに強く愛する人

小さな頃、田舎育ちの私は田んぼのあぜ道や、清流が美しい川のほとりで、全身をどろんこにして遊んでいた。

サワガニを捕まえたり、ザリガニを釣ったり、ドッジボールをしたり、我らの秘密基地を探す冒険をしたり。そりゃ、もう毎日「この日が私が生きる最後の日」みたいに遊んだ。


そんな私が一番恐ろしかったのが、夕焼けだ。太陽が傾き目に飛び込んでくる黄金色の光は、そろそろ家へ帰らなければいけないサイン。無我夢中に遊んでいた子供の意識を、あっという間に現実に戻す。そう、服をどろどろにして日が暮れても家に帰らなかったときに見せる、母の目がつり上がった顔、を連想させる。

夕焼けを見るたび、スターを食べたあとの無敵タイムがもう終わることを知る。憎き、黄金色の化け物め。



−−−

時は...、かなり流れてしまった。

今はどろんこで遊ぶことはなくなったし、門限もないし、母親の顔色もうかがわなくてもいい。いや、むしろ夕焼けは夜が来たことを教えてくれる吉報だ。働く多くの人が一旦の休息を迎える夜。街へ繰り出し、泥ではなく美食とお酒にまみれる時間だ。

不思議。

太陽は毎日上がって沈んで。でもその光の意味は大きく変わってしまった。完全に日が落ちると、さみしいけれどホッとする。日中キラキラと輝やいてみえる、手が届かないあの人のところにも平等に暗闇がやってくるからだ。


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ハノイでは今、日が落ち始めた。

なんて、美しいんだろう。

今夜はどんな夜になるんだろう。

無敵の、私の夜。


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南洋子
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