「エフェクチュエーション」ってなーんだ?
皆さん「エフェクチュエーション」っ言葉聞いたことありますか?
サラス・サラスバシー教授が中心となって研究、発見された思考様式で、近年少しずつその考え方が認識され始めているようです。
と言うのも、このそもそもこの「エフェクチュエーション」はサラスバシー教授が米国の成功した起業家リストの掲載者でかつ、「個人・チームを問わず、1社以上を企業し、創業者としてフルタイムで10年以上働き、最低でも1社以上を株式公開した人物」を対象とした意思決定実験を実施した中で発見されたものだからです。
簡単に言うならばエフェクチュエーションとは「近年の成功者が多く共通して用いる思考様式」なのです。
§エフェクチュエーションとは?
普通、企業が新しく事業やプロジェクトを実行する際には、まずは目的を設定し、そのために最適な手段を考えようとします。そのような思考様式をサラスバシー教授はコーゼーション(因果論)と呼びます。
営業や経営を始める際に事前に成功するかどうかを正確に予測することはかなり困難です。こうした不確実性に対処するためにリーダーは追加的な情報を収集、分析してそのリスクをヘッジしようとします。コーゼーションではまず行動する前にできる限り詳しく環境分析を行い目的に向かうための最適な手段を探し、計画を立てることが重視されます。
それに対してエフェクチュエーションとは
「目的ではなく手持ちの手段から生み出せる効果(effect)を重視する」
こうした思考様式のことになります。
先ほど述べた起業家リストの挙げられた起業家たちの多くは最初から市場機会や明確な目的が見えていなくても自分たちがすでに持っている「手持ちの手段(資源)」を活用することで「なにができるか?」というアイデアを発想する、と言う意思決定のパターンを持っているとの研究結果が得られています。
こうした「目的手動」ではなく「手段手動」でなにができるかを発想する思考様式をサラスバシー教授は「手中の鳥の原則」と名付けています。
そしてこの「手中の鳥の原則」を含めエフェクチュエーションは5つの原則から成立しています。次のセクションで5つの原則についてご紹介します。
§5つの原則
エフェクチュエーションは5つの原則が存在します。それらは以下の通りです。
手中の鳥の原則
許容可能な損失の原則
レモネードの原則
クレイジーキルトの原則
飛行機のパイロットの原則
なんだか名前だけ見てみるといかにも外国の理論を無理矢理日本語に翻訳したんだなあ・・・(笑)と感じてしまいますが、とりあえず一つずつ見ていきましょう。
1.手中の鳥の原則
目的では無く手段に注目して物事を考えるのがエフェクチュエーションであると繰り返し述べてきましたが、「手中の鳥の原則」において考えるべきことは3つの手段についてです。
❶私は誰か?
自分の特性や興味、能力など自分のアイデンティティの構成要素を指します。
❷私は何を知っているか?
自分の知識やスキル、経験、信念などを指します。
❸私は誰を知っているか?
自分の交友関係、社会的なネットワークを指します。
上記の3つに加えて「余剰資源」も手段として考慮しておくことが有効であるとサラスバシー教授は述べています。組織や社会からあまり必要とされていないもの、無駄や非効率とされている資源など、自分がそれを使用する事が容易な状態の人員や設備、資源などは自分の「手段」として考えて良いのです。
2.共用可能な損失の原則
従来のコーゼーションに基づく発想ではプロジェクトの判断基準が「期待利益の大きさ」によるものでした。
ところが不確実性が極めて高い、全くの未知の分野に踏み出す新商品開発などに対する投資局面などにおいては、どれほど詳細に期待利益を予測しようとしてもその保証は得られるものではありません。
そのために優れた企業かは事前に予測された期待利益ではなく、逆にマイナス面、うまくいかなかった際に生じる損失可能性に基づいて判断を行う傾向が強いとされています。
彼らは予期せぬ事態は避けられないことを前提として最悪の事態が起こった場合の損失をあらかじめ見積もり、それが許容できるなら実行すれば良い、と言う基準で行動しています。
3.レモネードの原則
先ほどの「許容可能な損失の原則」でも述べたように現実世界においては予期せぬ出来事は不可避的に起こることを前提とした思考様式であればその起こった出来事を前向きに、テコとして活用することを考えた方が合理的です。
「人生が酸っぱいレモンを与えるならば、レモネードを作れ」
(When life gives you lemons, make lemonade.)
甘い果実を期待していたのに、酸っぱいレモンしか手に入れられない現実を嘆くよりも、そのレモンは美味しいレモネードを作る原料になると考えるべきだ
第3の原則は英語のこの諺から命名されたようです。
予期せぬ事態を活用して大きな成功を手にした事例としてはブドウ球菌を培養していたシャーレに別の細菌が入り込み青カビが発生したことがきっかけとなって
「ペニシリン」が開発されたことなどが有名ですね。
粘着力が弱くて接着剤としては使い道のなかったモノが後に「ポストイット」として世界的なヒットになった3Mの逸話などもレモネード的な発想だと言えます。
4.クレイジーキルトの原則
様々な人との出会いによってプロジェクトが推進していくことを指して「クレイジーキルトの原則」と名付けれています。
コーゼーションのように予め、明確な目的を持って動き出すプロジェクトだと誰が顧客で誰が強豪であるかは明確です。なぜならば、顧客に対するアプローチ、競合に対する対抗策は事前にすべて組み込まれた上で実行に移されるからです。
それに対してエフェクチュエーション的な発想だと手段を通じて知り合った人間関係は役割が曖昧なまま関係性が続きます。資金の提供やアイデアの提供、販売経路の提供、業務の委託など、偶然によってその関係性が広がっていくことも変容していくことも多々あります。
そうしてお互いが「何ができるか」の方向性と実効性に対して大きな影響力を持ちながら成長していく傾向があります。ただし、その際に注意すべき点として、パートナーが自発的にその関係を保とうとしている。と言う点が挙げられます。
その理由としてはやはりプロジェクトの行末が不確定要素が多いと言う点が挙げられます。なんらかの見返りや報酬を期待してパートナーに加わった場合、プロジェクトが困難状況に陥った場合、その関係を継続することに大いなる苦痛を感じることになるからです。
プロジェクトの目的や結果よりもそのプロセスや手段に共感してくれるパートナーとの出会いがエフェクチュエーション的な思考方法と言えるかもしれません。
5.飛行機のパイロットの原則
最後に登場するその思考様式を一言で説明するなら
「コントロール可能な活動に集中し、予測で無くコントロールによって望ましい結果に帰結させる」
となります。
ここまでで述べた4つの原則をすべて包括するような考え方となります。
コーゼーションの思考によると「予測できる範囲において我々は未来をコントロールできる」の考えを前提として、不確実な未来をなんとか予測しようと努力することで望ましい結果を得ようとします。
一方、エフェクチュエーション的な思考によると不確実な未来に対して「コントロールできる範囲において、予測は不要である」ことを前提として未来は自分たちの行為の結果として現れると考えます。故に自分たちの行動に集中して、その行動を守ってして望むべき未来の姿を得ようとします。
例えるなら、世の中に存在しないカテゴリーの商品を開発した場合、コーゼーション的な思考を持ちうると、まず、その商品にニーズがあるのか?といった市場調査から始まり、ありとあらゆる未来への予測を立て始めます。
しかし、エフェクチュエーション的な思考だと、「まず、この商品を最初に買ってくれるお客さんになりそうなのは誰だ?」と自分は「誰を知っているのか?」から思考は始まり、とりあえずその思いついた人間に電話をかけることから始めます。
コントロール可能な自分の手段を使ってとにかく動き始めるのがエフェクチュエーションの特徴といえます。
§まとめとして
ものすごく簡単に「エフェクチュエーション」と言う聞きなれない思考様式について書いてみましたがいかがだったでしょうか?
読んでいて
「言葉の意味はわからんけど、言ってる内容は自分の仕事のやり方とおんなじや!」
と感じた方も沢山いらっしゃると思います。そして当たり前ですが、今回紹介したエフェクチュエーションが良くて、従来のコーゼーションが良くない、と言うお話でもありません。どちらの思考様式も状況によって使い分けることこそが重要なのです。
その為には、言語化して自分の頭の中の「ぼんやりとわかっているんだけど・・・」の部分をきちんと言葉にして捉え直しておくのも大事なのではないかと思いまして、今回書いてみました。
今回の記事を書くにあたっては参考文献として以下の本を参照しております。
もっと詳しく知りたい方はぜひそちらもご覧ください。
本日もありがとうございました。
「エフェクチュエーション 優れた起業家が実践する「5つの原則」
著者 吉田満梨 中村龍太 出版社 ダイヤモンド社」