エスカルゴ日記
エスカルゴと聞くと、まさに反応は真っ二つ。好きな人と嫌いな人!
好きになった理由はあのソースだと思う。
嫌いな理由は殆どが食わず嫌いであると察する。
実は私も日本ではエスカルゴを食べたことがなかった。でも<かたつむり>という言葉を知らずに、<高級フランス料理でよく前菜としてサーヴィスされる一品>と言われれば喜んで食べていたかも。
と言うのは、今ではレストランで食事をするときにエスカルゴが目の前に出てくれば何の躊躇いもなく喜んでいただく。しかもあのソースをパンで拭って食べる美味しさといったら…。
しかしながら食べにくさは認める。
右利きの場合は左手であのトングをしっかり固定させて、右手で小さなフォークを使って塊を突き刺して引っ張り出して食べる…、これが慣れていないと容易ではない。下手するとソースが飛び散って洋服についたりする。バターのソースだから取れなくて大変な事に。
素敵な高給レストランでデートの際には気をつけたほうがよい一品である。
また、フランス旅行で食事付きツアーの場合は必ずと言ってよいほど前菜として出てくる。そうすると特に女性は「やだ〜私カタツムリなんて食べない!」などと言う方が少なくない。
しかしながら一度口に入れてみると、そのもの自体に実は味はさほどないと納得する。
歯ごたえは意外としっかりしていてサザエほどではないが貝類そのものだと思う。
そこで、先程からソースソースとしつこい様だが、そのソースの正体を明かそう。
↑上のイメージの真ん中の塊がそうである。ひと呼んで<エスカルゴバター>。
柔らかくしたバターにニンニクのみじん切り、そしてパセリをあわせるとこの様になる。
エスカルゴでなくても、他の魚介類でも肉料理にでも使え、またサランラップに包んで冷凍しておけば何時でも役に立つ。
エスカルゴは歴史的には古代ローマ時代から食されていたそうであるが、現代のような食べ方ではなかったそうだ。エスカルゴバターを発案したのはどうやら19世紀、かのビッグシェフ、アントナン・カレーム(1784-1833)らしい。
カレームは美食家で知られている外交官のタレーランのもとで料理人として働いていたが、それだけではなく料理界にとってなくてはならない人物であった。
彼はタレーランのもとで料理に関することの考案に没頭し、コック帽やソースなどを発案し、やがて「19世紀のフランス料理術」などのフランス料理レシピの百科事典的な本を完成させている。
最初にシェフと呼ばれた偉大なる人物なのだ。
「ではどうしてカレームがエスカルゴバターを?」
答えは、パリの聖フローランタン邸にロシアの皇帝アレクサンドル一世を招いたディナーの際にタレーランがカレームにエスカルゴ料理を依頼したからだそうだ。
そこでカレームは例のエスカルゴバターとエスカルゴを貝殻の中に詰めて調理した。
それ以来この一品は高級料理と認められ、コース料理の前菜としてサーヴィスされる様になったということだ。
現在では特にレストラン、ビストロ等で通常は食べられるが、メニューにない時もある。それでも「エスカルゴがどうしても食べたい」という時にお勧めなのがパリの1区、モントルグイユ通りにあるレストラン、その名も<エスカルゴ>である。目印は.上の写真では見づらいかもしれないが、金のエスカルゴ。
もちろんエスカルゴ以外の品も注文出来る。全体的に値段は決して安くはないが、先日店の前を通った時にアルドワーズという黒い黒板が掛かっていたのが目に止まった。ランチメニューだと前菜プラスメインディッシュ、あるいはメインブラスデザートで20ユーロもしないセットを発見。それぞれ3つの選択肢があって、前菜には必ずエスカルゴが選べるようになっている様だ。ただし常にエスカルゴバターを使った<ブルゴーニュ風>とは限らない。
とにかくお得である事には間違いない。
実はエスカルゴには色々な味わい方がある。
先日近所で行われた産地直売マルシェには<ボルドー風>というのがあって、トマト、ポーク、にんにく、エシャロット、パセリ、玉ねぎに塩コショウをしたものがあった。
シャラント風やプロヴァンス風というのもあって、フランス内でもエスカルゴ自体と同様、各地で様々なんだなと感じた。
また、クリスマス市の様なイヴェント的なマルシェでも必ずと言って良い程スタンドでエスカルゴを見かけるが、大抵はエスカルゴバターを使ったブルゴーニュ風である。
既にエスカルゴバターが詰められていて、食べる直前にオーヴンで熱するだけである。こうしてみると気軽に食べられる物の様であるが…。
因みに日常のマルシェではエスカルゴはあまり見かけない。
さて、せっかくだからエスカルゴとワインのマリアージュを楽しんでみよう。
今回のお勧めは<アリゴテ>。アリゴテとは白葡萄の品種である。ブルゴーニュ風のエスカルゴと合わせてみよう。
エスカルゴ料理はソースによって味わいが全然違うので、当然相性の良し悪しも異なってくる。
が、ブルゴーニュ風はバターのこく、にんにくの強烈さ、そしてパセリのフレッシュさが混ざり合っているので、白ワインでもあまりにもサッパリしすぎていても、またコッテリしすぎていても後悔する事が多々ある。キレのある酸味がポイントなのだ。樽の香りもあまり無い方がいいと思う。それがこのアリゴテをお試しいただきたい理由だ。
一見地味な白ワインに見えるかもしれないが、意外にエスカルゴと合わせて見て欲しいワインである。
勿論シャンパーニュでもイケると思うが、今回はアリゴテというブルゴーニュの白葡萄品種で行ってみよう。
勿論両方試してみるのも大歓迎。
ブルゴーニュ地方の白ワインというとどうしてもシャルドネという品種が頭に浮かんでくると思うが、ここではアリゴテをお勧め。
ホームパーティー等、気取らずにワイワイ楽しむ場合にはトングなしで直接片手で貝殻を固定させて利き手で爪楊枝か何かを使って食べてもいい。残ったエスカルゴバターソースをパンにつけて残さず皿をキレイにするのをお忘れなく。