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結婚の決め手ってなんだっけ?

昨日、久しぶりに熱を出して会社を休んだ。

体調を崩すなんていつぶりだろうか?
どれだけストレスを貯めても風邪を引くなんて事はここ数年なかった。

僕が会社を休む事を妻に伝えると、
彼女は意外にも「じゃあ私も休むね」といって看病してくれる事になった。

まさかそんな対応をされるとも思っていなかったので面食らってしまった。

とりあえず寝ていろと指示され、
普段3人で寝ている部屋に1人で布団を被り、娘が支度して学校へ行くのを壁越しに聞きながら、
ぼーっとする頭で枕を抱えていた。
リビングからは朝のワイドショーの音が聞こえていた。

そのまま寝ていると、妻が部屋にやってきた。

片手にコップと、もう片方の手に瓶を持っていた。

コップの中身は白湯で、
瓶の正体は風邪薬だった。

僕はこの家に風邪薬がある事すら知らなかった。

僕が薬を飲む姿を見届けて、妻は部屋を出て行った。

「風邪なんてめずらしいね。」
「たまにはゆっくりしたら?」

なんて言ってた気がする。
他にも会話するでもない言葉を僕に投げかけていたけど、
久しぶりの熱で頭が回らず、まともに返事もできなかった。


それからも何度か様子を見にきているようだった。
部屋のドアを開けて、
確認したら閉めて、
リビングに戻っていく足音がなんだかとても心地よかった。


普段は娘のためだけに成り立っているような家庭の空気の中で、
僕は彼女の優しい一面をすっかり忘れてしまっていた。

僕に向けられる母性に、気遣いに、
正直驚いたし、「そういえばそうだったな」、
なんて思った。

妻は昔から面倒見が良かった。
僕みたいな間抜けとくっついたのも、今となってはその面倒を見るのが楽しかったからだったんだろうなと思う。
(自分でいうのもなんだが。)

彼女は母性が強くて、
弱ってる人を放っておけない人だった。

家庭を顧みない、ってきっと、
パートナーのこういう「好きだったところ」を忘れてしまうことなんだろう。



ついでに言うと、
僕はお礼の言い方も忘れてしまっていた。


熱が下がった夕方ごろ、
腹が減った僕はのそのそとリビングに向かった。


妻は夕飯の支度をしていた。

エビとブロッコリーを炒めた、名前のない料理を作っていた。


今の僕は、妻の気遣いや優しさに素直に感謝を示すことすらできない。

結婚当初、もっと自然に「ありがとう」と言えていた自分を思い出し、情けなさがこみ上げてくる。

恥ずかしさと後ろめたさと、何かの感情が邪魔して、
どうしても「ありがとう」のその一言が言えなかった。

所在なく、リビングに入ったところで髪の毛をくしゃくしゃしていると妻が振り返った。

「なにしてんの?」

真顔で聞いた後、彼女は笑った。

「お腹すいたんでしょ?
これ○○(娘)のだよ。」

アンタのは後で作ってやると付け加えられ、
もうすこし寝てるように言われた。


そこには、僕の愛する妻がいた。



僕はこの人のことが好きだったんだな、
と思った。


ろくに定職にも就かずにいた当時の僕は、
彼女と結婚するために就職した。


そして、
娘を宿した彼女をもっと幸せにしたくて、
少しでもお金の稼げる仕事に転職した。


人並みにお金を稼ぐことが、彼女を幸せにすることだと思ってた。

だから疲れても疲れても、遅くまで働き続けた。


でも、働けば働くほど、妻の心が離れて行った。

もっとお金を稼いだらきっと帰ってきてくれると思って、もっと働いた。


夜遅くまで働くことは、僕にとって苦じゃなかった。
彼女のことが好きだったから。

まるで免罪符のように働いていた。
不安から逃れるように。


もう気づいている。

働くきまくって、それでようやく人並み程度にお金を稼ぐことが、
妻にとっての幸せじゃない事に。


でも僕にはわからない。

何が彼女を幸せにする?

いつも甘えてきた。
彼女が僕の幸せを祈ってくれる事や、
僕の体を気遣ってくれる事に甘えて、

「それが君の幸せだろ?」と言わんばかりに。


育ち盛りの娘と、体調を崩した僕の夕飯を分けて作ってくれる君の後ろ姿に、今は触れる勇気すらない。

「ごめん」は簡単に言えるのに、

「ありがとう」が言えないんだ。


あの日の強張った君の対応がどうしても許せないんだ。



今日も大事をとって、会社を休んだ。

もう元気そうな僕をみて、妻はパートに出た。
また休んでくれないか、少し期待してた。

明日は出勤するつもりだけど、病み上がりだし、少し早めに切り上げようと思う。

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