懲戒処分をする際の事情聴取
おはようございます。弁護士の檜山洋子です。
昨日はとうとう大阪は過去最高の感染者を記録しました。変異株とかいうのもまん延しているそうで、いったいこれからどうなるのか不安ですが、手洗い、マスク、自宅勤務、自宅で食事など、できることをやるしかないですね。
さて、今日は、懲戒処分をする際にしなければならない本人からの事情聴取についてです。
弁明の機会
懲戒処分は、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効」とされます(労働契約法15条)。
まず、①客観的に合理的な理由があることが必要です。
これは、具体的な行為が就業規則に記載された懲戒事由に該当すること、ということです。
次に、②社会通念上相当であること、が必要とされています。
懲戒処分に社会的相当性があるといえるためには、具体的な行為の性質や態様その他の事情に照らして、重すぎないことが必要です。
同じようなことをしたのに、Aさんは見逃されて、Bさんだけ懲戒処分にされた、というのも、社会的相当性がないとされることがあります。ただし、それまでにもBさんは非違行為をくり返していたなど個別の事情がある場合には、Bさんだけを今回の行為で懲戒処分にすることが相当とされることもあります。
また、行為者には非違行為に至った何らかの事情があるかもしれませんから、その事情を無視した懲戒処分も、懲戒権の濫用として無効となる可能性があります。
その際に重要なのが、行為者本人に与える弁明の機会です。
刑事裁判で裁かれる際にも、被告人には十分な弁解の機会が与えられています(本当に言いたいことを言えているかどうかは分かりませんが、法律上の立て付けではそうなっています)。
刑事罰が国家が下す罰であるように、懲戒処分は会社(使用者)が下す“罰“ですから、本人の「言い訳」を聞いてあげる必要があります。
本人の言い分を聞いた上で、懲戒処分にするかどうか、するとしてどの種類の懲戒処分とするかを決めなければなりません。
本人から事情聴取できない場合
本人からの事情を聞き、弁明の機会を与えようとしても、本人が会社からの呼び出しに応じない時はどうすればいいでしょうか。
まずは、本人からの事情聴取以外の、集められる証拠(客観証拠)をできるだけ集めましょう。そして、客観証拠だけで十分に本人の非違行為の存在と内容が立証できることを確認した上で、本人に弁明の機会を与える旨、連絡をしましょう。
それでも本人が呼び出しに応じないのであれば、それは弁明の機会を自分で放棄したとみることができますので、懲戒手続きを進めて良いでしょう。
ただし、本人は、会社からの呼び出しを極度に恐れており、まさか弁明の機会を与えてもらっているとは思っていないようなこともありますので、呼び出しの際には、弁明の機会を与えるためであることを分かり易く伝えることが大切です。それでもなお呼び出しに応じない時に初めて、本人が自分の意思で弁明の機会を放棄した、ということができます。
後にトラブルにならないようにするためには、呼び出しの際に、弁明の機会を与えるためであること、そして呼び出しに応じないときは弁明の機会を放棄したものとみなすことを記載した通知書を送ると良いでしょう。
逮捕・勾留されている場合
いきなり従業員が逮捕されたので調べてみたら、逮捕事実とは別に会社の金を横領していた疑いが出てきた、というようなこともあり得ます。
就業規則には、犯罪行為事実を懲戒事由として規定することが多いのですが、逮捕されただけではまだ犯罪行為の存在が確定したわけではありません。
ですから、有罪判決が確定するまでは、犯罪行為を理由とした懲戒処分を下すことはできないのが通常です(逮捕・勾留の事実を懲戒事由と定めている場合は別です)。ただし、その場合でも、事実を確認することは、後の懲戒処分の是非や程度を判断するに当たって必要になりますから、本人の家族や担当刑事、担当検事から話を聞くようにしましょう。そして、接見が許される状態であれば、本人からも事情を聞いておくべきです。接見が無理なら、代わりに弁護人から話を聞きましょう。
では、逮捕された被疑事実ではなく、会社の金を横領したことを理由に懲戒処分とすることはどうでしょうか。
横領行為については、まだ疑いがあるだけの状態ですから、まずは客観的な証拠を固めることが必要です。
その上で、通常であれば本人からの事情聴取を行うのですが、本人が勾留されている場合は、警察署や拘置所に接見に行く必要があります。ただし、弁護人ではない一般の接見は時間が制限されていますし、係官の立会いもありますので、すぐに真実を聞き出すことは難しいかもしれません。何度か足を運ぶ必要が出てくるでしょう。
ちなみに、逮捕による留置中(逮捕から最大72時間(2泊3日))は、弁護人以外の人の接見は権利として認められていませんので、その間に客観的事実の収集をできるだけ進めておくと良いですね。
慌てないように事前の準備を
いざ懲戒事由が発覚すると、かなりの急ピッチで事実の把握と事情聴取をしなければならず、担当者は日常業務をこなすことができなくなります。
そうなると、会社はいわば二次被害を被ることになるわけですが、そうならないようにするためには、懲戒事由の芽は小さいうちに摘んでおくことが大切です。
従業員には、会社でのコンプライアンスを徹底すると共に、私生活においても法律を守る良き社会人として過ごせるような意識を持ってもらうよう、日頃から徹底した教育をするようにしましょう。
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