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退職時の誓約書

 おはようございます。弁護士の檜山洋子です。

 うちの事務所は年賀状を廃止しているので、年賀状はプライベートな付き合いをしている人との間だけでやりとりをしているのですが、今年の年賀状には、「note読んでるよー」というコメントがたくさんありました。

 知っている人に読まれているというのは少し照れるんですが、同時にみんなに支えられていることを実感して、正月早々ジーンときています。

 うちの事務所は今日が仕事始めです。

 今年も力の限り仕事して、力の限り勉強して、力の限り推し活して、健康に留意してやっていこうと思います。

 今日は、退職する従業員に対職後の競業禁止を書いた誓約書にサインしてもらおうとしたら拒まれてしまったときどう対処すればいいか、ということについて考えてみたいと思います。

 なお、この問題についても過去に書いたことがあるので重複しますが、よく問題になるので何度でも書きます!

従業員の競業避止義務

 従業員が、会社の業務と競合して使用者の利益に著しく反するような他社の業務に就くことについては、その従業員が会社に在職している間は制約できることに疑問はないでしょう。従業員には使用者に対する誠実義務があるからです。

 しかし、退職後はそうはいきません。

 退職後は、労働者には職業選択の自由があるので、従業員が在職中であってもその人の退職後の就職先までコントロールすることは基本的にはできないのです。

 ただし、法的な根拠と合理性があればそれも可能であると考えられています。

 競業を禁止する方法としては、①退職金の減額・没収、②競業行為の差止め、③損害賠償請求などがありますが、それぞれについて法的な根拠と合理性が求められるのです。

 まず、①退職金の減額・没収については、退職金規程にその旨の規定があることが大前提で、退職後の競業制限の必要性・範囲(期間・地域等)、競業行為の態様等に照らして、その退職金の規定が合理的かということと、当該ケースに適用できるものかということを検討します。

 次に、②競業行為の差止めができるかどうかについては、競業制限の合理的理由があり、期間や活動内容が合理的な範囲内に止められた競業制限特約がある時には、それが可能です。

 ③損害賠償請求については、合理的な競業制限特約に基づいて行ったり、民法の不法行為に基づく損害賠償請求として行ったりすることが可能です。

誓約書への署名強制の可否

 このように、退職後の競業行為を制限しようとすれば、特約を結んでその内容を誓約書などとして作成しておくことがとても大切になるのです。

 もちろん、この誓約書の内容は労働者の職業選択の自由を過度に制限することのない、合理的な内容であることが必要です。

 しかし、合理的な内容の誓約書を作成して署名してもらおうとしたのに、従業員がこの誓約書への署名を拒否することがあります。

 そのような時に、誓約書への署名を強制することはできるのでしょうか。

 もちろん、ペンを握らせて嫌がる従業員を押さえ込んで無理矢理署名させることはできません。

 できるとすれば、「署名しないと退職金はないよ」とか、「署名しないと懲戒解雇にするよ」とか、そういうマイルドな脅迫で署名に追い込むくらいです。

 しかし、誓約書は、あくまでも労使間の合意内容を書面にしたものです。
 ですから、使用者側の一方的な意図でこれを成立させることはできません。労働者側の納得が必要です(労働者が進んで(喜んで)署名することまでは必要ないですが、せめて自分の意思で署名することが必要です)。

 ですから、上記のようなマイルドな脅迫で無理矢理署名させることはできませんし、その脅迫にもかかわらず署名しなかったことを理由に退職金を不支給としたり懲戒処分を下したりすることはできません。

誓約書がないときの競業禁止の可否

 退職予定の従業員に誓約書の提出を求めたところ、曖昧な対応をされたまま退職日を迎えてそのまま連絡が取れなくなり、誓約書を提出してもらってないままだった、なんてこともあります。

 そういうときでも、就業規則に退職後の競業禁止についての合理的な規定があれば、禁止することはできます。

 また、就業規則の規定がなくても、使用者にわざと損害を与えるような行為については、民法の一般不法行為として損害賠償請求をすることはできます(過失行為については、競業避止義務の根拠規定がないと難しいかもしれませんね)。ただし、故意の存在や損害の有無・程度等や因果関係を立証するのはかなり難しいでしょうし、あくまでも事後対応なので、会社の損害拡大を食い止めるには限界があるでしょうね。

 就業規則の規定内容を確認し、もし退職後の競業避止義務規定がなければ、誓約書を書いてもらうように説得しましょう。
 それもできないなら、「去る者追わず」の精神で乗り切るほかないかもしれませんね。

 

 

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