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労働施策総合推進法における事業主の義務

 おはようございます。弁護士の檜山洋子です。

 今日から本格的なゴールデンウィークが始まりましたね。

 昨年に引き続きどこにも行けないので、たくさん本を読んで過ごしたいと思います。

 さて、今日は、雇用政策の基本法である労働施策総合推進法において、事業主にどのような義務が規定されているか見てみたいと思います。

労働施策総合推進法の目的

 労働施策総合推進法は、「雇用対策法」という名前で1966年に制定されました。

 その後、大改正を含む数回の改正を経て、2018年の働き方改革関連法によって、「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」(略して「労働施策総合推進法」)という名前に変わりました。

 労働施策総合推進法の目的は、以下のように定められています。

(目的)
第1条 この法律は、国が、少子高齢化による人口構造の変化等の経済社会情勢の変化に対応して、労働に関し、その政策全般にわたり、必要な施策を総合的に講ずることにより、労働市場の機能が適切に発揮され、労働者の多様な事情に応じた雇用の安定及び職業生活の充実並びに労働生産性の向上を促進して、労働者がその有する能力を有効に発揮することができるようにし、これを通じて、労働者の職業の安定経済的社会的地位の向上とを図るとともに、経済及び社会の発展並びに完全雇用の達成に資することを目的とする。

 続いて、同条第2項で、以下のように定められています。

 この法律の運用に当たっては、労働者の職業選択の自由及び事業主の雇用の管理についての自主性を尊重しなければならず、また、職業能力の開発及び向上を図り、職業を通じて自立しようとする労働者の意欲を高め、かつ、労働者の職業を安定させるための事業主の努力を助長するように努めなければならない。

 同法の基本的理念は以下のように定められています。

 (基本的理念)
第3条 労働者は、その職業生活の設計が適切に行われ、並びにその設計に即した能力の開発及び向上並びに転職に当たっての円滑な再就職の促進その他の措置が効果的に実施されることにより、職業生活の全期間を通じて、その職業の安定が図られるように配慮されるものとする。
2 労働者は、職務の内容及び職務に必要な能力、経験その他の職務遂行上必要な事項(以下この項において「能力等」という。)の内容が明らかにされ、並びにこれらに即した評価方法により能力等を公正に評価され、当該評価に基づく処遇を受けることその他の適切な処遇を確保するための措置が効果的に実施されることにより、その職業の安定が図られるように配慮されるものとする。

 労働者が、どのような能力を必要とされるのかを明確にし、公正な評価に基づく処遇を受けることによって、職業の安定が図られなければならないということです。

事業主の努力義務

 この法律には、事業主の努力義務が規定されています。

 「努力義務」というのは、できるだけしてください、という種類の義務ですので、従わなくても違法にはならないのですが、法律がお勧めてしている義務ですから、従った方がいい(もちろん、事業主にとってもいい結果をもたらす)ものです。

 労働施策総合推進法に定められた事業主の努力義務は以下のとおりです。

① 雇用する労働者の労働時間の短縮その他の労働条件の改善その他の労働者が生活との調和を保ちつつその意欲及び能力に応じて就業することができる環境の整備に努めなければならない。

② 事業規模の縮小等に伴い離職を余儀なくされる労働者について、当該労働者が行う求職活動に対する援助その他の再就職の援助を行うことにより、その職業の安定を図るように努めなければならない。

③ 外国人(※1)が我が国の雇用慣行に関する知識及び求職活動に必要な雇用に関する情報を十分に有していないこと等にかんがみ、その雇用する外国人がその有する能力を有効に発揮できるよう、職業に適応することを容易にするための措置の実施その他の雇用管理の改善に努めるとともに、その雇用する外国人が解雇(※2)その他の厚生労働省令で定める理由により離職する場合(※3)において、当該外国人が再就職を希望するときは、求人の開拓その他当該外国人の再就職の援助に関し必要な措置を講ずるように努めなければならない。

※1 日本国籍を有しない者。ただし、外交または公用の在留資格で在留している者と特別永住者は除く。 
※2 自己の責めに帰すべき理由によるものを除く。
※3 事業主の都合による離職。

 厚生労働大臣は、③の事項に関し、事業主が適切に対処するために必要な指針(外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針 (平成19年厚生労働省告示第276号))を定め、これを公表しています。

 この指針には、「外国人労働者の雇用管理の改善等に関して必要な措置を講ずるに当たっての基本的考え方」が以下のように示されています(法律の記述は一部省略しています)。

 外国人が我が国で安心して就労し、企業や地域社会の一員として活躍するためには、事業主による関係法令の遵守や適切な待遇の確保、日本人との相互理解等を通じた魅力ある職場環境の整備、職業生活上、日常生活上又は社会生活上の適切な支援等が重要となる。
  また、労働者の国籍にかかわらず、労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律、職業安定法、労働者派遣法、雇用保険法、労働基準法、最低賃金法、労働安全衛生法、労働者災害補償保険法、労働契約法、労働組合法、短時間・有期雇用労働法、男女雇用機会均等法、健康保険法、厚生年金保険法等の労働関係法令及び社会保険関係法令は適用されるものであり、事業主は、外国人労働者についても、これらを遵守するとともに、その在留資格の範囲内で、適正な労働条件及び安全衛生の確保や、雇用保険、労働者災害補償保険、健康保険及び厚生年金保険の適用、人事管理の運用の透明性及び公正性の確保や生活支援等を通じ、その有する能力を有効に発揮しつつ就労できる環境が確保されるよう、この指針で定める事項について、適切な措置を講ずるべきである。

 努力義務とはいえ、外国人にも同じように日本の法律が適用されるので、その点においては事業主が法的義務を負うということを大前提として、適切な措置を講じるべき努力義務があるということを忘れないようにしましょう。

事業主の具体的な義務

 以上の努力義務の他に、労働施策総合推進法は、事業主の具体的な義務を定めています。これらの義務は努力義務ではなく、本当の義務ですから、し従わないことは違法です。

① 募集及び採用における年齢にかかわりない均等な機会の確保

第9条 事業主は、労働者がその有する能力を有効に発揮するために必要であると認められるときとして厚生労働省令で定めるとき(※1)は、労働者の募集及び採用について、厚生労働省令で定めるところにより、その年齢にかかわりなく均等な機会を与えなければならない。

 この義務に違反した場合は、都道府県労働局長による助言・指導または勧告の対象となりますが(33条、37条)、罰則はありません。

※1 次の各号に掲げるとき以外のときとする(労働施策総合推進法施行規則第1条の3)(←つまり、以下に該当する時には、年齢によって募集・採用に差を設けてもいい、ということです)。

一 事業主が、その雇用する労働者の定年の定めをしている場合において当該定年の年齢を下回ることを条件として労働者の募集及び採用を行うとき(期間の定めのない労働契約を締結することを目的とする場合に限る。)。
二 事業主が、労働基準法その他の法令の規定により特定の年齢の範囲に属する労働者の就業等が禁止又は制限されている業務について当該年齢の範囲に属する労働者以外の労働者の募集及び採用を行うとき。
三 事業主の募集及び採用における年齢による制限を必要最小限のものとする観点から見て合理的な制限である場合として次のいずれかに該当するとき。
 イ 長期間の継続勤務による職務に必要な能力の開発及び向上を図ることを目的として、青少年その他特定の年齢を下回る労働者の募集及び採用を行うとき(期間の定めのない労働契約を締結することを目的とする場合に限り、かつ、当該労働者が職業に従事した経験があることを求人の条件としない場合であって学校教育法第1条に規定する学校(幼稚園及び小学校を除く。)、専修学校、職業能力開発総合大学校を新たに卒業しようとする者として又は当該者と同等の処遇で募集及び採用を行うときに限る。)。
 ロ 当該事業主が雇用する特定の年齢の範囲に属する特定の職種の労働者(「特定労働者」)の数が相当程度少ないものとして厚生労働大臣が定める条件に適合する場合において、当該職種の業務の遂行に必要な技能及びこれに関する知識の継承を図ることを目的として、特定労働者の募集及び採用を行うとき(期間の定めのない労働契約を締結することを目的とする場合に限る。)。
 ハ 芸術又は芸能の分野における表現の真実性等を確保するために特定の年齢の範囲に属する労働者の募集及び採用を行うとき。
 ニ 高年齢者の雇用の促進を目的として、特定の年齢以上の高年齢者(六十歳以上の者に限る。)である労働者の募集及び採用を行うとき、又は特定の年齢の範囲に属する労働者の雇用を促進するため、当該特定の年齢の範囲に属する労働者の募集及び採用を行うとき(当該特定の年齢の範囲に属する労働者の雇用の促進に係る国の施策を活用しようとする場合に限る。)。

② 事業縮小等に際しての再就職の援助等

【再就職援助計画】

 (再就職援助計画の作成等)
第24条 事業主は、その実施に伴い一の事業所において相当数の労働者が離職を余儀なくされることが見込まれる事業規模の縮小等であって厚生労働省令で定めるもの(※1)を行おうとするときは、厚生労働省令で定めるところ(※2)により、当該離職を余儀なくされる労働者の再就職の援助のための措置に関する計画(以下「再就職援助計画」という。)を作成しなければならない。
2 事業主は、前項の規定により再就職援助計画を作成するに当たっては、当該再就職援助計画に係る事業所に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合の、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者の意見を聴かなければならない。当該再就職援助計画を変更しようとするときも、同様とする。
3 事業主は、前二項の規定により再就職援助計画を作成したときは、厚生労働省令で定めるところ(※3)により、公共職業安定所長に提出し、その認定を受けなければならない。当該再就職援助計画を変更したときも、同様とする。

※1 経済的事情による法第6条第2項に規定する事業規模の縮小等であって、当該事業規模の縮小等の実施に伴い、一の事業所において、常時雇用する労働者について1箇月の期間内に30人以上の離職者を生ずることとなるもの。
※2 同項に規定する事業規模の縮小等の実施に伴う最初の離職者の生ずる日の1月前までに、様式第一号で作成しなければならない。
※3 再就職援助計画の作成又は変更後遅滞なく、再就職援助計画(様式第一号)に当該再就職援助計画に係る事業規模の縮小等に関する資料を添えて、当該事業所の所在地を管轄する公共職業安定所の長に提出することによって行わなければならない。ただし、当該再就職援助計画が産業競争力強化法に基づく認定事業再編計画に従って実施する事業再編若しくは同法の認定特別事業再編計画に従って実施する特別事業再編又は農業競争力強化支援法に基づく認定事業再編計画に従って実施する事業再編に伴う離職に係るものであるときは、当該資料については、当該産業競争力強化法に基づく認定事業再編計画若しくは当該認定特別事業再編計画又は当該農業競争力強化支援法に基づく認定事業再編計画の写しをもって代えることができる。

【大量雇用変動届】

(大量の雇用変動の届出等)
第27条 事業主は、その事業所における雇用量の変動(事業規模の縮小その他の理由により一定期間内に相当数の離職者が発生することをいう。)であって、厚生労働省令で定める場合(※1)に該当するものについては、当該大量雇用変動の前に、厚生労働省令で定めるところ(※2)により、当該離職者の数その他の厚生労働省令で定める事項(※3)を厚生労働大臣に届け出なければならない。

※1 一の事業所において、一月以内の期間に、自己の都合又は自己の責めに帰すべき理由によらないで離職する者(天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつたことにより離職する者を除く。)の数が30以上となる場合。
 ただし、次の各号のいずれかに該当する者及び既に法第27条第1項又は第2項の規定に基づいて行われた届出又は通知に係る者は除く。
 一 日日又は期間を定めて雇用されている者(日日又は6月以内の期間を定めて雇用された者であって、同一の事業主に6月を超えて引き続き雇用されるに至っているもの及び6月を超える期間を定めて雇用された者であって、同一の事業主に当該期間を超えて引き続き雇用されるに至っているものを除く。)
 二 試の使用期間中の者(同一の事業主に14日を超えて引き続き雇用されるに至っている者を除く。)
 三 常時勤務に服することを要しない者として雇用されている者

※2 大量雇用変動がある日(当該大量雇用変動に係る離職の全部が同一の日に生じない場合は、当該大量雇用変動に係る最後の離職が生じる日)の少なくとも1月前に、大量離職届(様式第二号)を当該事業所の所在地を管轄する公共職業安定所の長に提出することによって行わなければならない。

※3 様式第二号に記載の事項。

 これらの義務に違反した場合も、都道府県労働局長による助言・指導または勧告の対象となりますが(33条、37条)、罰則はありません。

③ 外国人雇用状況の届出義務

(外国人雇用状況の届出等)
第28条 事業主は、新たに外国人を雇い入れた場合又はその雇用する外国人が離職した場合には、厚生労働省令で定めるところ(※2)により、その者の氏名、在留資格、在留期間その他厚生労働省令で定める事項(※1)について確認し、当該事項を厚生労働大臣に届け出なければならない。

※1 (外国人雇用状況の届出事項等)
★ 新たに外国人を雇い入れた場合における届出(番号は条文のまま)
一 生年月日
二 性別
三 国籍の属する国又は出入国管理及び難民認定法第二条第五号ロに規定する地域
四 資格外活動の許可を受けている者にあっては、当該許可を受けていること。
五 中長期在留者にあっては、在留カードの番号
六 特定技能の在留資格をもつて在留する者にあっては、特定産業分野
七 特定活動の在留資格をもつて在留する者にあっては、法務大臣が当該外国人について特に指定する活動
九 雇入れ又は離職に係る事業所の名称及び所在地
十 賃金その他の雇用状況に関する事項

★ 雇用する外国人が離職した場合(番号は条文のまま)
一 生年月日
二 性別
三 国籍の属する国又は出入国管理及び難民認定法第二条第五号ロに規定する地域
五 中長期在留者にあっては、在留カードの番号
六 特定技能の在留資格をもって在留する者にあっては、特定産業分野
七 特定活動の在留資格をもって在留する者にあっては、法務大臣が当該外国人について特に指定する活動
八 住所
九 雇入れ又は離職に係る事業所の名称及び所在地

※2 雇用保険被保険者については雇用保険の手続きと同時に、被保険者でない者については、外国人雇用状況届出書(様式第三号)により行う。
 外国人雇用状況届出は、新たに外国人を雇い入れた場合にあっては当該事実のあった日の属する月の翌月10日までに、その雇用する外国人が離職した場合にあっては当該事実のあった日の翌日から起算して10日以内に、当該事業所の所在地を管轄する公共職業安定所の長に提出することによって行わなければならない。
 ただし、被保険者でない外国人に係る外国人雇用状況届出は、当該外国人を雇い入れた日又は当該外国人が離職した日の属する月の翌月の末日までに、当該事業所の所在地を管轄する公共職業安定所の長に提出することによって行わなければならない。

④ パワハラ防止の措置義務

(雇用管理上の措置等)
第30条の 事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
2 事業主は、労働者が前項の相談を行ったこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。

 パワハラ防止の措置義務についての詳しい説明は、2020年12月11日のnoteをご覧ください!

努力義務を含め、義務を遂行しましょう

 努力義務は、あまり重要視しない事業主もいらっしゃいます。

 たしかに、まず行うべきは、法的な義務に違反しないことです。

 しかし、法的な義務に従えている状態になったなら、次はさらに一段上の努力義務にも配慮した会社経営をしていくことを検討していただきたいです。

 そうすることで、より高レベルな従業員満足を得られることになるからです。

 まずはやるべきことから。

 次にできることから。

 少しずつ着実にレベルアップしていきましょう!

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