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出張の虚偽報告

 おはようございます。弁護士の檜山洋子です。

 ここ1、2年で、出張がすっかり減ってしまいました。

 会議がどんどんオンライン化されていき、おかけで人の移動に関する経費が少なくなったという話を聞きます。

 ただ、それでも、新幹線や特急に乗ればビジネスパーソンをチラホラ見かけますし、ホテルの予約も結構入っているようです。

 そこで今日は、出張にまつわる従業員の問題行動について検討してみようと思います。

出張の虚偽報告

 出張を初めとする事業場外労働の場合、従業員の労働時間を把握することが難しいことが多いです。

 そのため、事業場外労働のみなし制を採用して、一定時間労働したとみなすこととしている会社も少なくないでしょう。

 出張の場合は、事業場外労働のみなし制に加えて、出張報告書を提出させることがあります。

 では、この出張報告書に虚偽を記載していた場合、当該従業員をいかに処分すべきでしょうか。

 例えば、泊まりがけの出張に出かけた先で、仕事を昼過ぎには終えて午後は観光を楽しんでいたにも関わらず、終日仕事をしていたと報告したような場合です。

 このような虚偽報告についても、他の非違行為と同様に、行為の重大さや損害の程度、虚偽報告や他の非違行為の回数などを加味して、重すぎず軽すぎない相当な処分を選択することが大切です。

 修学旅行で生徒を引率していた私立学校の教頭が、ホテル待機中にゴルフに出かけ、学校の事情聴取にも虚偽の報告をしたとして懲戒解雇されたケースでは、大阪地方裁判所は、懲戒解雇は重すぎるとして無効としました。つまり、このケースでは、修学旅行中に事故もなく出張業務自体に支障はありませんでしたし、教頭はこれが初めての行為でこれ以外の非違行為もなかったので、戒告、減給や停職処分が相当であって、懲戒解雇は重すぎると判断されました。

 虚偽報告自体に関する処分は、このようにその重大性、損害の程度、頻度等の様々な事情を加味して決定するべきではありますが、出張の虚偽報告には、裏に社内不倫や他の非違行為が隠されていることがあります。

 そのような場合は、後々社内でのトラブルが発生する危険性がありますので、会社としては虚偽報告を絶対に許さない態度を示しておくことが大切です。

 また、近時は、コロナ感染が発覚すると濃厚接触者の特定のため、行動履歴や接触した人を申告する必要があるようです。虚偽申告をしていて感染すると、社会的に大きな問題になることもありえます。 

出張費用の水増し

 会社に申告した費用が水増しした金額であった場合も同様に、その程度や頻度によって、いかなる処分をするかを決めます。

 ただし、出張費用を水増しして、多めに会社に支払わせることは、会社に対する詐欺行為ですから、基本的には刑法犯であることを念頭におき、厳正な処分をすることが必要です。

 1回当たりの水増し金額は少なくても、長期間にわたって何度もくり返される場合にはトータル金額は多額に及ぶことがあります。合計額が200万円以上になった場合の懲戒解雇を有効とした裁判例もあります。

会社の体制・仕組み作り

 従業員の不正をなくすためには、会社の体制や仕組みを工夫することが必要です。

 従業員に不正しないようにと何度言ったとしても、嘘はばれないだろうと思われるようなゆるゆるの体制だと、自分自身をよほど厳しく律することのできる従業員は別ですが、犯罪傾向のない普通の従業員でさえついつい虚偽の申告をしてしまった、ということになりかねません。

 会社の信用と財産を守るだけでなく、従業員を違法行為から遠ざけて守るという意味でも、不正の起こりにくい仕組み作りをするようにしましょう。

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