けん責処分における弁明の機会
おはようございます。弁護士の檜山洋子です。
昨日で仕事納めでした。
とはいえ、やることはまだまだ続くよどこまでも。
さて、今日は、弁明の機会を与えずにしたけん責処分が、些細な手続的瑕疵にとどまるとはいえないとして無効とされ、損害賠償請求まで認められた裁判例(テトラ・コミュニケーションズ事件(東京地方裁判所令和3年9月7日判決))を紹介します。
事案の概要
原告は、平成30年5月14日以降、情報通信技術に関するコンサルティング業務等を目的とする被告会社の、期間の定めのない従業員でした。
原告は、被告から、以下のけん責処分を受けたことがありました。
① 令和元年5月29日
令和元年5月24日に、原告が被告のグループウェアに職務と関係のない被告又は被告代表者を批判する内容の書込みをしたことを理由に、けん責処分。
6月4日に始末書を提出。
② 令和元年7月2日
けん責処分。
このけん責処分については、令和元年11月13日の労働審判事件期日において、取り消す旨の調停が成立。
原告は、令和2年4月20日、被告のアドミニストレーショングループの担当者であるPから、被告の企業年金の確定拠出年金への移行(「DC移行」)に係る必要書類の提出を求められ、Pに対し、関連資料の送付を求めた上、「この件で、私が不利益を被ることがありましたら、訴訟しますことをお伝えします。」とのメッセージを送信しました。
このメッセージに対し、被告代表者は、令和2年4月21日、原告に対し、弁明の機会を与えることなく、メールで、「2020/4/20 アドミニストレーショングループPさんに対する「訴訟」という単語による強迫および非協力的な態度」が懲戒事由に該当するとして、けん責処分を下し、4月24日午後6時までに始末書を提出するように命じました。
原告は、令和2年6月15日、同月末日で被告を退職する旨の退職届を出しました。
その後、原告は、被告から違法無効な懲戒処分を受けたことによって損害を被ったとして、150万円の損害賠償を求めて訴訟を提起しました。
裁判所の判断
まず、弁明の機会を与えずになされたけん責処分が、懲戒権の濫用かどうかが争点となり、裁判所は以下のように述べて、懲戒権を濫用したものとして無効になる、としました。
次に、無効なけん責処分によって原告の被った損害については、以下の理由により10万円が相当であると判断しました。
弁明の機会の付与は重要!
この裁判例で明確にされたように、懲戒処分を下す際に、弁明の機会を与えることは非常に重要です。
たった少しの手間を省略しただけで、懲戒処分が無効とされ、損害賠償まで認められてしまうのです。
急がば回れ。
特に相手の権利を大幅に制約するときは、慎重に1つずつプロセスを踏むように気を付けましょう。