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不当な動機・目的による配転命令その2

 おはようございます。弁護士の檜山洋子です。

 今日は、昨日に続き、配転命令が不当な動機・目的によるものであるために無効とされた裁判例を紹介します。

 以下に紹介するフジシール事件は、退職勧奨に応じない従業員に対して、屈辱的な業務をさせて職能資格や職務等級を引き下げたことが無効とされた事案です。

フジシール事件(大阪地方裁判所平成12年8月28日判決)

【事案】

 被告は、各種包装資材、包装用機械、その付属品等の製造、販売等を目的とする株式会社であり、事業所として東京本社、大阪本社、札幌営業所、名古屋営業所、広島営業所、九州営業所、大阪工場、名張工場、筑波工場を置いています。また、国内における関連会社として、株式会社フジアステック、株式会社フジアルファ、株式会社フジタック等がありました。
 原告は、昭和55年被告に雇用されて主に開発業務を担当し、平成元年9月に副参与職(副部長)となり、平成5年3月から平成7年12月まで、被告のグループ会社の一つであるフジアステックに出向しました。その後、商品開発部商品開発一課長を経てソフトパウチ部の部長となり、平成9年4月、右開発部の業務内容が別会社化されフジアルファとなったのに伴って同社に出向し、同社のソフトパウチ部長として、ソフトパウチの技術開発に従事してきました。

 原告は、平成10年に退職勧奨を受けましたが、これを拒否したところ、得意先への訪問を禁止され、この後、期間の定めのない自宅待機命令を受けました。

 自宅待機命令の3日後、原告は、年明けからの筑波工場への転勤命令の告知を受け、「印刷センター筑波駐在インキ担当」とされました(本件配転命令1)。原告は年明け1月12日に筑波工場に赴任しましたが、同月29日、副参事職への降格処分を受けました(本件降格処分)。

 原告は、本件配転命令1を不服として筑波工場に勤務する雇用契約上の義務のない地位にあることを仮に定めることを求めて仮処分を申立て、平成11年7月15日、右仮処分申請は認容されました(本件仮処分決定)。このため、被告は同月21日、原告に対し、期限を定めない自宅待機命令を出すとともに、同年8月12日、C課長を通じ同月17日付けでフジタック奈良工場への出向を命じ(本件配転命令2)、同日より原告は奈良工場で勤務していました。

 原告は、本件配転命令1及び2についての業務上の必要性がないとしてその有効性を争うと共に、本件降格処分が懲戒処分としても人事権の行使としても無効であるとして、自己の被った損害の賠償請求をしました。

【判決】

1 本件配転命令1の有効性について

 裁判所は、以下に述べる事情を総合考慮して、「証拠上筑波工場の生産量の増大、これに伴う設備投資の増加は認められるものの・・・、当時筑波工場でのインク担当業務に原告を従事させなければならない業務上の必要性があったものとはいえず退職勧奨を拒否した直後に従前の開発業務とは全く異なった業務に従事させていること、原告が担当した業務がその経験や経歴とは関連のない単純労働であったこと等に照らせば、本件配転命令1は、退職勧奨拒否に対する嫌がらせとして発令されたものというべきで権利の濫用として無効であるといわざるをえない。」としました。

・・・本件配転命令1は、原告を「印刷センター」の「筑波駐在インキ担当」とするものであったが、これは本件配転命令1により初めて作られたポストであった。印刷センターの業務は印刷を行うにあたっての技術的な支援を行う部署であり、外注先との折衝やインキの改良等の業務を担当する部署であるが、原告が筑波で現実に担当した業務は、15、6キロもあるインクの缶を倉庫の棚から下ろし、台車で印刷作業所まで運び、同作業所において運んできたインクを配合表に従って重量を量り、混ぜ合わせ、竹の棒でこね回し、有機溶剤を加えて一定の粘度にし、印刷機のところまで運ぶという肉体労働であった。当時原告は54歳であったが、同僚は20歳から40歳前後であった。このインキ担当業務は、ことさらに経験を必要とするものではなく、筑波工場において経験の浅い原告でも、20数年以上というベテランとその実績においてさほど差がないといった単純作業であった。また筑波工場で原告と同じ仕事に従事している他の者は筑波工場の「印刷グループ」に所属しているが、原告は印刷センターの所属のため、「印刷グループ」の職場会議にも参加していない。さらに原告には、インキ担当としての経験はなく、かつて製造本部に在籍し品質管理部門を兼務していたときに、名張工場で、常時顧客から持ち込まれるクレームの分析・研究及びそのための資料整理、その検討のための工場長主催の諸会議への出席というスタッフ(技術)職の経験があるのみである。
 そして、本件配転命令1の後、平成11年1月29日、原告に対し、懲戒処分として本件降格処分がなされた。
 さらに本件仮処分決定後、原告が筑波を離れて以後、同じポストには誰もついていない。

2 本件配転命令2の有効性について

 裁判所は、以下の理由で、本件配転命令1に続く本件配転命令2も権利濫用として無効であるとしました。

・・・先の本件配転命令1の効力が訴訟で争われており、その有効・無効が確定しない間に、「暫定的」な配置をすることは、労働者の労働条件を著しく不安定にするものであるうえ、原告が奈良工場で従事している業務は、工場の製造ラインから排出されるゴミ(梱包材料のゴミ、不良品、製品をとった残りかす)をゴミ置き場から回収し、手押し台車に入れ、工場全(ママ)の屋外に設置されているゴミ回収車の荷台に入れる作業等であって、従前嘱託社員が行っていたものであり・・・、原告をかかる職場に配置する業務上の必要性はないものといわざるをえない。

3 本件降格処分の有効性について

 裁判所は、本件降格処分は懲戒処分として行われたものであるとした上で、被告の就業規則上、いかなる場合に降格処分となるかという要件が定められておらず、本件降格処分は規定に基づかないものであって無効であるとしました。

 人事権行使の裁量の範囲内の降格処分であるという被告の主張に対しても、被告の就業規則上、副参与職は、「職能」資格であり、これは、労働者が、一定期間勤続し、経験、技能を積み重ねたことにより得たものであり、本来引下げられることが予定されたものでなく、これを引下げるには、就業規則等にその変更の要件が定められていることが必要であるところ、被告では、職能資格の変更についても就業規則上規定があるが、本件降格処分では、右定められた要件、手続が遵守されていないとして、被告の主張を採用しませんでした。

報復人事は許されない

 一時期、「窓際族」という言葉が流行しました。

 高度成長期に大量に雇用した人たちが中高年になった時に、退職させることも解雇することもできないため、実質的な仕事を与えずに「窓際」で閑職に付かせることが多発し、その人たちが「窓際族」と呼ばれるようになったのです。

 バブルが崩壊して会社に経済的な余裕がなくなり、早期退職制度の導入などで窓際族は次第になくなっていったようです。最近ではすっかり「窓際族」という言葉を聞かなくなりましたね。

 今日取り上げた裁判で問題となったケースは、窓際族と同じようなものでしょう。ただし、それが退職勧奨を受け容れなかったことに対する報復(裁判所の言葉でいうと「嫌がらせ」)として行われたものである点で、権利濫用として無効とされたものです。

 減給が伴っていた点も問題だったといえるかもしれません。

 やめさせたい従業員がいるとしても、法的に正当な理由がなければ一方的に辞めさせることはできませんし、退職に追い込むような人事権行使も許されませんので、注意しましょう。

 

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