解雇予告をしないでした解雇の効力

 おはようございます。弁護士の檜山洋子です。

 うちの法律事務所は、今月末に新しい場所に移転する予定なのですが、オフィスの賃貸借契約を解除するには数ヶ月前に解約の申し入れをする必要があります。

 ですから、思い立ったその日に解約、という訳にはいかず、計画的に解約を進める必要があります。

 貸す側も借りる側も、生活や事業の基盤となっている賃貸借契約をいきなり終了されては困るからです。貸す側は次の借主を探す必要がありますし、借りる側は移転先を探す必要があります。

労働契約における解雇予告義務

 労働契約も同様に、雇う側も雇われる側も、いきなり契約が終了すると困ります。

 特に、労働者側は、労働契約が生活の基盤となっていますので、突然解雇されると困ってしまいます。

 そこで、労働基準法(20条1項)は、使用者は労働者を解雇しようとする場合は、少なくとも30日前にその予告をしなければならないこととしています。

 即時解雇をしたい時は、平均賃金30日分の予告手当を支払う必要があります。

 ただし、「天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合」や、「労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合」には、解雇予告は不要とされています(労働基準法20条1項但書)。

予告義務違反の解雇の効力

 解雇予告義務に違反すると、6月以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられることがあります。

 しかし、これはあくまでも刑事罰です。

 民事的な効力、つまり、予告義務を果たさずにした解雇は無効なのかどうかという点は、別問題です。

 解雇予告せずにした解雇は誰がなんと言おうと無効!(絶対的無効説)ということになれば、解雇通告された労働者は、元の職場に復帰しなければなりません。

 解雇予告手当さえもらえれば良かったのに・・・ということもあるでしょうが、絶対的無効説だと、そういう選択肢もありません。

 また、労働基準法は、解雇予告義務に違反した場合は、労働者の請求があれば、裁判所が、予告手当のみならずそれと同額の付加金の支払いを命じることができるとしています(114条)。絶対的無効説だと、予告手当の支払いが認められることもありませんから、この条文の存在意義が謎です。

 そこで、解雇予告をせずに解雇した場合、使用者に予告手当の支払い義務が生じ罰則も科せられるものの、解雇自体は有効としたらどうか?とする説(有効説)もあります。

 しかし、それでは、労働基準法の他の規定が労働者の保護のために厳しい規定をおいていることとのバランスがとれません。予告義務違反の解雇は法律違反で、他の法律違反の行為は無効になるのに、なぜ予告義務違反の解雇だけ有効になるのか?ということです。

 そこで登場したのが、相対的無効説です。

 この説は、予告義務違反の解雇は、使用者がどうしても即時解雇したい場合でなければ30日後に解雇の効力を生じることにし、どうしても即時解雇したい場合は解雇通告後に30日分の予告手当を支払えば、その時に解雇の効力を生じる、とするものです。

 しかし、使用者の気持ち次第で解雇の効力が決まることになれば、労働者が解雇予告手当をもらおうと思って労務の提供をしないでいたら、使用者が30日後の解雇の方を選択してしまって、その間労務の提供をしなかったため30日分の賃金をもらえないことになった、ということになってしまいます。

 そこで、労働者が、解雇の無効を主張するか、解雇を有効とした上で予告手当の請求をするかを選択させようとする説(選択権説)が出てきました。

 裁判例には、相対的無効説をとるものと選択権説をとるものがあります。

解雇は計画的に

 このように、解雇予告義務を果たさずにその場の勢いで解雇してしまうと、後々その効力を巡って争いが生じる可能性があります。

 賃貸借契約や婚姻関係と同じように、契約関係を一方的に終わらせようとするときは、相手が被る不利益を十分に念頭においた上で計画的に進めていくことが求められます。

 

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