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事業場外労働のみなし制が適用されるのはどんなとき

 おはようございます。弁護士の檜山洋子です。

 新スタイルのnoteのベータ版が使えるということで早速使っています。使いこなせるかな・・・

 さて、以前、Twitterか何かで、雇用主である弁護士が、労働時間外の事務員に平気で電話をしてきて業務上の指示を出す、これってどうなの?という投稿を読んだことがあります。

 昔は携帯電話なんてものはありませんでしたが、最近では携帯電話を持っていない人を探すのが難しいくらい普及しました。
 携帯電話のお陰でいろんなことが便利になったことは間違いありませんが、逆にいつでもどんな時でもつながりを要求されることにもなっています。かえって不便を感じる時もあるんですよね・・・

 事業場外労働のみなし制においても、携帯電話を持たせたことでトラブルになったケースがあります。

事業場外労働のみなし制

 労働者が出先に直行し自宅に直帰するような時、タイムカードに記録をしてもらうことができません。

 そこで、労働基準法は、以下のような事業場外労働のみなし制を設けています。

第三十八条の二 労働者が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定し難いときは、所定労働時間労働したものとみなす。ただし、当該業務を遂行するためには通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる場合においては、当該業務に関しては、厚生労働省令で定めるところにより、当該業務の遂行に通常必要とされる時間労働したものとみなす。
 前項ただし書の場合において、当該業務に関し、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定があるときは、その協定で定める時間を同項ただし書の当該業務の遂行に通常必要とされる時間とする。
 使用者は、厚生労働省令で定めるところにより、前項の協定を行政官庁に届け出なければならない。

 つまり、(1)労働者が事業場外で業務に従事すること、(2)労働時間を算定することが難しいこと、という2つの要件かあれば、事業場外労働のみなし制を使うことができます。
 そして、通常の所定労働時間を超えて労働する場合は、その業務の遂行に通常必要とされる時間だけ労働したものとみなすことができますが、その場合には労働組合や過半数代表者との書面による協定を定めて、その定めた時間を“業務の遂行に通常必要とされる時間”とすることができます。

 (2)の“労働時間を算定することが難しい“と言えるには、事業場外の労働場所に、時間を管理する権限のある人がおらず、会社が具体的な労働時間を把握することができないことが必要です。

 行政通達(昭和63年1月1日基発1号)は、次の場合のように、事業場外で業務に従事する場合にあっても、使用者の具体的な 指揮監督が及んでいる場合については、労働時間の算定が可能であるので、み なし労働時間制の適用はない、としています。

① 何人かのグループで事業場外労働に従事する場合で、そのメンバーの中に労働時間の管理をする者がいる場合
② 事業場外で業務に従事するが、無線やポケットベル等によって随時使用者の指示を受けながら労働している場合
③ 事業場において、訪問先、帰社時刻等当日の業務の具体的指示を受けたのち、事業場外で指示どおりに業務に従事し、その後事業場にもどる場合

携帯電話で遠隔管理?

 最近は、ポケベルを見かけなくなりました(私は、ポケベルを持ったことも使ったこともなくて、どんな形をしているのかも知りませんから、もしかしたら会社によっては従業員にポケベルを持たせているところもあるのかもしれませんね・・・)。

 その代わり、誰でも携帯電話やスマホを持っていますし、会社から仕事用にと携帯電話を支給したりしています。プライベートな携帯電話やスマホの電話番号やメールアドレスやLINEのアドレスを上司が知っていて、業務連絡に使っているという会社も多いと思います。

 では、そのように会社からいつでも業務連絡ができる状態になっているとき、「無線やポケットベル等によって随時使用者の指示を受けながら労働している場合」(②)として、事業場外労働のみなし制を使うことができなくなるのでしょうか。

 これが問題となった裁判例に、ヒロセ電機事件(東京地方裁判所平成25年5月22日判決)があります。

 この事件で、原告は、出張・直行先での「作業中常に携帯電話を所持しており、随時被告から電話で指示を受けながら業務に従事していた。具体的には、当日朝に業務内容を指示する電話があり、また昼頃に進捗状況を確認する電話もあった。その他、随時指示を出す電話もかかってきた」事実などを挙げて、「出張先でも被告の具体的な指揮監督が及んでいた」と主張しました。

 これに対して裁判所は、「原告は、作業中常に携帯電話を所持しており、随時被告から電話で指示を受けながら業務に従事していたと主張する。しかしながら、本件において、原告が随時、被告から電話で指示を受けながら業務に従事していたと認めるに足りる証拠はない。」として、原告の主張を退け、事業場外労働のみなし制の適用を認めました。

 つまり、携帯電話を持っていただけでは「随時使用者の指示を受けながら労働している」とは言えず、具体的に電話で指示を受けながら業務に従事していることが必要なのです。
 したがって、タイムシートを作成させて始業時刻と終業時刻を把握した上、電子メール等によって業務上の連絡を密に行っていたような場合には、「随時使用者の指示を受けながら労働している」とされる可能性が高く、事業場外労働のみなし制の適用は否定されます。

 

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