内部通報を甘くみてはいけない
おはようございます。弁護士の檜山洋子です。
昨日、大学で企業倫理を教える先生と軽く話をする機会がありました。
先生曰く、最近は企業不祥事が後を絶たないので、教材に困ることがない、いやむしろ事例を紹介していたらそれで講義の時間が終わってしまうほどらしいです。
これほど、コンプライアンスやSDGsやコーポレートガバナンスや内部統制という言葉がビジネス界に広がり、毎年のように法律の制定や改正で縛りを厳しくしても、それでもなお増え続ける企業の不祥事・・・
どうしたら防ぐことができるのでしょうか。
不祥事が起きる1つの理由
外部のコンサルに高いお金を払って内部統制を構築し、コンプライアンス教育をしているのに、不祥事が起きてしまうのはなぜなのでしょうか。
どれだけコンサルにお金を払っていても、不祥事が起きて叩かれるのは企業とその経営者自身です。
内部統制の構築やコンプライアンス教育には時間と労力もかかります。
それなのに、やってもやっても不祥事が起きる・・・
その理由は、体制だけ整えて魂が入っていないからなんですが、なぜ魂が入らないのかを考える必要があります。
経営トップが魂を入れていない、つまり、形だけ整えて満足しているとか、決められたことだからやっているだけだと、体制に魂が入るはずがありません。特に上場企業は、内部統制の構築が義務付けられているため、やらされ感を強く持っている経営者もいらっしゃることと思います。そんな経営者は、まずは自身の考え方を改めることが必要です。
他方で、経営トップは魂を入れようとしているのに体制に魂が入らない、つまり現場のやる気がないケースは多々あります。
この場合は、従業員一人一人が主体的に行動できる能力をつけてあげる必要があります。
言われなければできない、言われてもできない従業員がたくさんいる職場で魂のこもった体制を作ることは難しいです。
不祥事の問題点
しかし、いくら魂を入れても、人間ですからミスをすることはあります。
また、日常業務にはバッファも必要ですから、ガチガチにルールを定めて行動を規律することは不可能ですし適当でもありません。
そのため、不祥事をゼロにすることなど不可能であることを前提に組織運営をすることが必要です。
不祥事が大きな問題になってしまうのは、不祥事の種を見つけることが可能であったにもかかわらず、怠慢や無知や故意でそれを放置していたからです。
さらに事態を悪化させるのは、大きくなった不祥事を見つけたのに、それを隠蔽する行為です。
ひき逃げが重く罰せられるのと同様に、わかっていながら隠したり逃げたりする行為は強い非難を受けます。
早期発見のために必要なこと
つまり、企業不祥事で会社が大きなダメージを被らないようにするには、不祥事の種が小さいうちに見つけて適切に対処することが大切ということになります。
不祥事の種が小さいうちに見つけるのは、そう容易なことではありませんが、1つの方法として考えられるのは内部通報制度の活用です。
企業不祥事が発覚する多くのきっかけは、会社内部の者からの告発であると言われています。
業務上不正が行われている時に、直属の上司に直訴して改善を求めることは精神的なハードルが高いことが多いので(特に不祥事を実行している職場では、上司への陳情を好意的に受け止めてもらえる可能性は低いので)、いけないことだとわかっていてもついつい我慢してしまいます。
そのような不祥事の種をすくい上げるために、内部通報制度は役に立つツールであるということができます。
内部通報ゼロでいいの?
ところが、内部通報制度を作っただけで適切に機能していない会社が少なくありません。
今月の内部通報の数はゼロでした!で満足していてはいけません。
内部通報は、どんなに細かいことでも現場の従業員が疑問に感じたことを通報してもらい、それを検証することで初めて不祥事の種を見つけることを目的とした制度なのです。
せっかく内部通報制度を作っているのに、誰も利用しなければ意味がありません。不祥事の事実が社外に出て大事になる前に社内で対応して解決しなければならないのに、誰も内部通報できなかったために不祥事がどんどん手の付けられない状態にまで成長してしまったら、あとは社外に出て大きな事件になる末路が待っているだけです。
まずは内部通報制度を作ることが大切ですが、作った後は、内部通報制度が社内に周知されているか、使うことを躊躇されていないかなどを確認してみましょう。