長谷川博己・主演ドラマとコロナ禍の頃。
私は長谷川博己という役者が大好きである。
すでに終わってしまったが、「アンチヒーロー」という日曜夜の連続ドラマで主演を務めていた。
大ヒットドラマ「VIVANT」と同じTBSの枠で放送され、検察と警察の深い闇、冤罪という重いテーマを扱いながら第一級の法廷エンターテイメントになっていた。
私は毎週ワクワクしながらドラマを見た。
長谷川博己の役どころは、「あなたを無罪にして差し上げます」と言って被告人に近づく、ややダークな雰囲気の弁護士である。
ドラマの脚本も、「VIVANT」の流れを汲む4人体制で書かれており、緻密で、伏線と回収が見事に組み込まれたサスペンスに仕上がっていた。
主要キャストとしては、北村匠海、堀田真由、緒方直人、岩田剛典、野村萬斎等が顔をそろえて、見ごたえのある演技を披露していた。
中でも、長谷川博己の「アンチヒーロー」ぶりには、心を持っていかれた。
弁護士でありながら、勝つためには手段を択ばない。しかし、その奥には、強く揺るぎない正義感が存在し、大胆で、時に繊細とも言える表と裏の顔を演じていた。
私は、大の長谷川ファンとして傾倒しきっている訳だが、そのきっかけになったのは、NHK の大河ドラマ 「麒麟がくる」 である。
「麒麟がくる」は、織田信長を裏切り、本能寺で攻め入った明智光秀が主人公だ。
歴史ドラマでは、たびたび悪役として登場するが、「麒麟がくる」では、今までとは異なる、新しい視点で光秀の生涯を描いていた。
ドラマの中では、長谷川博己演じる明智光秀は、正義感に燃える好青年として登場し、常に世の中の平和を願い、自分の信念に忠実に生きようとした。そして、戦国の世の中で葛藤し、行動し、挫折し、苦しみぬいた。
私は、その生き方に共感し、毎回日曜日の夜になると、食い入るようにドラマに見入った。
ちなみに、脚本は池端俊策というトップクラスの実力作家を中心に執筆された。
池端作品は、他のどの大河ドラマよりも奥が深く、正しく生きることの力強さを教えてくれる。氏は私の大好きな脚本家だ。
「麒麟がくる」の放映中、世の中は、まさにコロナ禍で、ドラマ撮影も感染防止のために一時休止された。それに伴い、放映もストップした。
その間、私は放映再開を願うばかりだったが、主役を演じた長谷川氏も精神的に相当きつかったのではないかと、勝手に想像している。
この頃、タクシー業界も、大きな打撃を受けていた。
コロナが感染拡大し、街から人の姿が消えた。
会社や学校も、リモートで行うところが増えた。
外出や飲み会の機会がほとんど無くなった。
当然、交通機関の客が激減し、タクシーに乗る人もいなくなった。
街を流しても、駅につけても、無線でも、お客さんに乗ってもらえない状態。
ニュースでは毎日のように感染者、亡くなった人の数が発表され、じわりじわりと増えていく。
タクシー運転手の中にも感染した人が現れ、亡くなったと聞き、正直、乗務するのが怖くなった。
もちろん私自身の生活も大きな打撃を受けた。
毎日の売り上げが激減し、1日3500円という日もあった。
当然、給料も減り、1ヶ月の手取りが10万円いかない月もあった。
タクシーの仕事が、あまりに稼げなすぎて、辞めていったドライバーもたくさんいた。
今、思い返しても悪夢のような日々。
ひたすら耐え忍ぶしかなかった。
コロナ禍の期間中、毎月毎月支払いに追われた。いたるところから借金をして返済に回すという綱渡りの連続だったが、それでも何とか乗り切ることができた。
そして、その一番苦しい時期に見ていたのが、「麒麟がくる」だ。
さっきも書いたが、毎週日曜日が来るのが本当に楽しみだった。
話は「アンチヒーロー」に戻る。
今回、長谷川博己の久々の主演連続ドラマということで見たのだが、最後まで期待を裏切らず素晴らしい出来だった。
どんなにアンチを演じても、人間味と正義感が滲み出てしまう。
それが長谷川博己の魅力であり、その演技の真骨頂だ。
「アンチヒーロー」を見て、私の中に「麒麟がくる」がよみがえり、そして、改めてコロナ禍のタクシー生活が思い出された。
時期は違えども、毎週日曜の夜に夢と希望を届けてくれた二つの作品、そして、長谷川氏をはじめとする両ドラマ制作関係者全員に感謝したいと思う。
素敵なドラマをありがとう。
(写真は、明智光秀が築城した京都・福知山城)