転校生 37 紗希 2024年10月30日 05:22 高2の時、クラスに転校生が入って来た。席は私の隣り。「小川波瑠はるです。よろしく」礼儀正しく彼女は、そう挨拶をした。「こんにちは。私は、北野未來みくこちらこそ」私が自己紹介をしただけで、彼女は嬉しそうな顔を見せた。幼馴染みにでも会ったかのように。波瑠は、地味でも派手でも無く、けれど存在感のある人だなと感じた。成績も、私と同じ中の上くらいで親近感を覚えた。派手では無いと言ったが、それは自分から、目立とうとはしていないと意味である。女子校にありがちな、美しい顔を持つ波瑠を、やっかむ生徒も、ちらほらいたのは確かだ。(整形したんじゃない)ヒソヒソ噂しているのを、私は知っていたし、たぶん波瑠自身もそうだろうと思う。けれど彼女は全く気にしていない。「頼もしいな」そう思った。理由は分からないが、特別なものを何も持たない私に、彼女は興味を抱いているように見えた。何となくだが、そんな気がしてた。1ヶ月、2ヶ月と経つ内に、私と波瑠は、仲良くなっていた。波瑠のことを先輩のようだと思ったり。ううん。姉みたいに感じることが多かった。何故なんだろう。この頃、私は不思議なと言うより、奇妙な出来事に合うことが多くなっていた。父が帰るなり、驚いた様子で「未來、何で家にいるんだ。横浜駅のホームで並んでいるのを、電車の中から見たばかりなのに」同じことが数日後にも合った。「昨日、町田を歩いているのを見かけたよ」ある日、友達にそう言われた。「え、わたし町田には行ってないよ」そう言うと、「そうなの?すっごく未來に似てたから、声をかけようか迷ったくらいだったのよ」世界には、自分とそっくりな人間が3人いると、訊いたことがある。それだとしたら、随分と近くにいるわけだ。私も会ってみたいな。そんなことを思ったのが、よくなかったのか。今度は私自身が、不可思議な体験をしてしまった。デパートで、服を見ていた時のことだ。洋服売り場の横にある、エスカレーターに乗っている自分がいたのだ!その人は、私から見て横を向いている。髪型や背格好、そして顔。一番は。その時、その人が私を見ようとするのが分かった。私は慌てて視線を変えた。そして急いでデパートから外へ出た。デパートの壁の向こうから、今もその人が、自分を見ているのが分かり、震えが止まらない。あの人は私だ。そう確信した1番の理由。それは着ていた服が同じだったことだ。たまたま同じ服を買うことは、あり得ない。何故なら、このチュニックは自分で作った一点ものなのだ。エスカレーターに乗っていた、あの自分は、この世界と違うところにいる自分だと、強く感じた。ドッペルゲンガー「ねぇ來未。次の土曜日に、流星群を観に行こうよ」ある日、波瑠に誘われた。「流星群?いいけど、どこに行くの」「キャンプ場にあるコテージを借りて、夜中に星を見るの」「楽しそうだね。行く行く」そして私たちは、流星群を観に行くことにした。夕食は、コテージの外で、バーベキューをしながら、話しをした。「2人用のバーベキューセットも用意してくれるんだから、手軽に来れるね」「うん。それにお肉も野菜も、新鮮で美味しい」そしていよいよ真夜中になった。波瑠と私はキャンプ場の芝生に寝転び、星空を観ていた。怖いくらいの星の数で、鳥肌が立った。波瑠が静かに私に話しかけた。「未來はまだ、2020年に居るの」「……」何故、知っているの。波瑠とはまだ出会っていなかったし、今もあのことは、話していない。私は中1の時、レイプされそうになったことがあった。未遂で終わったものの、この時の恐怖を今だに忘れられずにいる。犯人は地元の大学生数名だった。私の叫び声に気づいた人が、通報してくれて助かった。「戻っておいで。2024年の今に」「戻る?」「そう。魂を置いて来てはいけないから」私は波瑠に訊いた。「何故、知ってるの」「繋がっているから」「繋がって」波瑠は、私の方を見て微笑んだ。「もうすぐ未來にもわかるよ。入り口まで来てるから」なんのこと。「いま來未が体験していること。それも全部繋がっていたことが分かる時が、もう目の前に来てる」全てが……繋がっている?この夜、波瑠が言ったことは、難しくて私には分からなかった。流星を、観ているだけで。ただ、私が波瑠を姉のように思えたり、懐かしく感じたりすることと関係している。そんなことを考えていた。次の週、私が学校に行くと、クラス中が大騒ぎになった。「未來、退院おめでとう!」「良かったよ。心配したんだから」退院?「未來が突然入院したって訊いた時、本当に驚いたけど、こうして、また学校に来れるようになれて、良かったね」入院、私が。何もいえずに、とにかく席に座り、隣を見た。「波瑠は、まだ来てないんだ」「波瑠?誰のこと」「この席に座ってたじゃない。転校して来た波瑠のことよ」クラスの皆んなが、顔を見合わせている。「未來、大丈夫?」「クラスに転校生なんて来てないよ。この席はずっと空いたままだけど」何で。そんなことあるはずない!皆んなは自分の席から、私のことを見ている。混乱したまま、私は鞄を開けた。すると、封筒が入っていた。震えながら取り出すと、それは波瑠からだった。中から便箋を出し読んだ。 來未へあなたが来るのを待ってる。昔、一緒に過ごしたみたいに、先でも会えるのを楽しみにしてるから。いい未來。地球での長い夏休みの残り。私から未來に贈る言葉だよ。 【遊べ遊べ遊べ!】 了 ダウンロード copy いいなと思ったら応援しよう! チップで応援する この記事が参加している募集 #旅の準備 8,244件 #短編小説 #旅の準備 #パラレルワールド 37