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転校生



高2の時、クラスに転校生が入って来た。

席は私の隣り。

「小川波瑠はるです。
よろしく」

礼儀正しく彼女は、そう挨拶をした。


「こんにちは。私は、北野未來みくこちらこそ」


私が自己紹介をしただけで、彼女は嬉しそうな顔を見せた。
幼馴染みにでも会ったかのように。


波瑠は、地味でも派手でも無く、けれど存在感のある人だなと感じた。

成績も、私と同じ中の上くらいで親近感を覚えた。


派手では無いと言ったが、それは自分から、目立とうとはしていないと意味である。

女子校にありがちな、美しい顔を持つ波瑠を、やっかむ生徒も、ちらほらいたのは確かだ。

(整形したんじゃない)
ヒソヒソ噂しているのを、私は知っていたし、たぶん波瑠自身もそうだろうと思う。
けれど彼女は全く気にしていない。

「頼もしいな」
そう思った。


理由は分からないが、特別なものを何も持たない私に、彼女は興味を抱いているように見えた。

何となくだが、そんな気がしてた。


1ヶ月、2ヶ月と経つ内に、
私と波瑠は、仲良くなっていた。

波瑠のことを先輩のようだと思ったり。
ううん。
姉みたいに感じることが多かった。
何故なんだろう。


この頃、私は不思議なと言うより、奇妙な出来事に合うことが多くなっていた。


父が帰るなり、驚いた様子で
「未來、何で家にいるんだ。
横浜駅のホームで並んでいる
のを、電車の中から見たばかりなのに」


同じことが数日後にも合った。
「昨日、町田を歩いているのを見かけたよ」
ある日、友達にそう言われた。

「え、わたし町田には行ってないよ」
そう言うと、
「そうなの?すっごく未來に似てたから、声をかけようか迷ったくらいだったのよ」


世界には、自分とそっくりな人間が3人いると、訊いたことがある。

それだとしたら、随分と近くにいるわけだ。
私も会ってみたいな。


そんなことを思ったのが、よくなかったのか。
今度は私自身が、不可思議な体験をしてしまった。


デパートで、服を見ていた時のことだ。
洋服売り場の横にある、エスカレーターに乗っている自分がいたのだ!

その人は、私から見て横を向いている。


髪型や背格好、そして顔。
一番は。

その時、その人が私を見ようとするのが分かった。
私は慌てて視線を変えた。

そして急いでデパートから外へ出た。


デパートの壁の向こうから、今もその人が、自分を見ているのが分かり、震えが止まらない。


あの人は私だ。

そう確信した1番の理由。
それは着ていた服が同じだったことだ。


たまたま同じ服を買うことは、あり得ない。
何故なら、このチュニックは
自分で作った一点ものなのだ。


エスカレーターに乗っていた、あの自分は、この世界と違うところにいる自分だと、強く感じた。


ドッペルゲンガー

「ねぇ來未。次の土曜日に、
流星群を観に行こうよ」
ある日、波瑠に誘われた。

「流星群?いいけど、どこに行くの」

「キャンプ場にあるコテージを借りて、夜中に星を見るの」

「楽しそうだね。行く行く」


そして私たちは、流星群を観に行くことにした。


夕食は、コテージの外で、
バーベキューをしながら、話しをした。


「2人用のバーベキューセットも用意してくれるんだから、手軽に来れるね」

「うん。それにお肉も野菜も、新鮮で美味しい」


そしていよいよ真夜中になった。
波瑠と私はキャンプ場の芝生に寝転び、星空を観ていた。


怖いくらいの星の数で、鳥肌が立った。

波瑠が静かに私に話しかけた。

「未來はまだ、2020年に居るの」

「……」


何故、知っているの。

波瑠とはまだ出会っていなかったし、今もあのことは、話していない。


私は中1の時、レイプされそうになったことがあった。

未遂で終わったものの、この時の恐怖を今だに忘れられずにいる。

犯人は地元の大学生数名だった。

私の叫び声に気づいた人が、
通報してくれて助かった。


「戻っておいで。2024年の今に」

「戻る?」

「そう。魂を置いて来てはいけないから」


私は波瑠に訊いた。
「何故、知ってるの」

「繋がっているから」

「繋がって」

波瑠は、私の方を見て微笑んだ。

「もうすぐ未來にもわかるよ。入り口まで来てるから」


なんのこと。

「いま來未が体験していること。それも全部繋がっていたことが分かる時が、もう目の前に来てる」


全てが……繋がっている?


この夜、波瑠が言ったことは、難しくて私には分からなかった。

流星を、観ているだけで。


ただ、私が波瑠を姉のように思えたり、懐かしく感じたりすることと関係している。
そんなことを考えていた。


次の週、私が学校に行くと、クラス中が大騒ぎになった。

「未來、退院おめでとう!」
「良かったよ。心配したんだから」

退院?


「未來が突然入院したって訊いた時、本当に驚いたけど、
こうして、また学校に来れるようになれて、良かったね」


入院、私が。

何もいえずに、とにかく席に座り、隣を見た。


「波瑠は、まだ来てないんだ」

「波瑠?誰のこと」

「この席に座ってたじゃない。転校して来た波瑠のことよ」


クラスの皆んなが、顔を見合わせている。


「未來、大丈夫?」
「クラスに転校生なんて来てないよ。この席はずっと空いたままだけど」


何で。
そんなことあるはずない!


皆んなは自分の席から、私のことを見ている。


混乱したまま、私は鞄を開けた。
すると、封筒が入っていた。


震えながら取り出すと、それは波瑠からだった。
中から便箋を出し読んだ。


 來未へ

あなたが来るのを待ってる。
昔、一緒に過ごしたみたいに、先でも会えるのを楽しみにしてるから。

いい未來。
地球での長い夏休みの残り。
私から未來に贈る言葉だよ。


  【遊べ遊べ遊べ!】



      了

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