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    少年


少年が走って来たのだ。

信号が青になると同時に。

そして雨宿りしている、俺の隣に並んで立った。


何なんだ、この子は。

やはり雨宿りするつもりなのか?

ならば、もう少し離れてくれないか。


店の軒下は、こんなに空いてるんだ。

何も俺の直ぐ横に並ばなくてもいいだろうが。


まだ小学生だ。

3年か?

4年か?


前を向いてニコニコしてる。

大丈夫か、おい。

親はどうした。

もう暗いじゃないか。


俺が見てるのに、何の反応もない。

ずっと笑顔のままだ。


悪いが俺は今、かなり不機嫌だ。

留年しそうだからだよ。


だから、お前に構っている暇は……。

あれ?

ここはどこだ。景色が違う。

何があった。

あゝ、遂に俺もイカレたか。



「スクランブル交差点」


こ、こいつ、急に喋った。

スクランブル交差点?

ここは普通の交差点だぞ。


うっ
頭が痛い


「直ぐに治るよ」

こいつ、他人事だとおもって。
ガキのくせに。


周りが歪む。
ヤバいのか、俺は。

「お前だってガキだったろ。
ケンジ」

「何で、俺の名前」


「そしてラストだよ」

何だよ。ラストって。

!!!!!


「思い出した?日本で2番目に小さいスクランブル交差点」


「お前……コースケ……か」

「ピンポン。車に撥ねられちゃったけどね」

「な、なんでここに」


少年は、コースケは俺のことを見た。


「とーちゃんも、かーちゃんも、ボクんとこに来たんだ。
だからね。ボクはもっともっと上に行くんだって」


「上って……」


「神さまの近く。今日きたのはね、ケンジに会いたくなったから。でももう行くね。
留年だっけ?頑張れよ」


「留年は頑張るもんじゃないよ。バーカ」

「ハハハ。だって知らないもん。じゃあねケンジ」

「じゃあな。コースケ、また
遊ぼうな」

「うん!遊ぼう。バイバイ」

「バイバイ」


そして少年は消えた。


俺の頭痛も治っていた。


「雨も上がったし、俺も帰ろう」


無事に卒業できたら、久しぶりに帰ってみるか。

俺とコースケの故郷に。



      了


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