枯れた冬の草原
年の瀬の冷え切った風が、辺りを
凍えさせる。
生きているのか、そうではないのか。
枯れた草が揺れていた。
サー サー
そう音を立てて。
パキン
聴こえてくるその音は、枝が折れたということか。
私と同じように。
先月、大学校内にある大きな樹に、隠れるように立つ人の姿を目にした。
男女が二人、見つめあっている。
指を絡ませて……。
煇(ひかる)と私は、恋人同士。
少なくとも、私はそう思っていた。
佳音(かのん)は信頼できる友人。
私にとっては、そうであった。
パキン
枯れ草に寝そべる私の目から、涙が流れ、その内の幾つかが、耳に入った。
ふと、近くで人の気配を感じた。
ヒュー カサカサカサ
今日も風が強く、たくさんの枝たちが鳴いているその中で。
シャク シャク
「誰かいるの?」
……。
「いるんでしょう」
……ガサガサ
驚いたことに、2Mも離れていない茂みから、青年が姿を見せた。
学生服を着ていたが、コートも羽織っていないその姿は、いかにも寒そうだ。
青年は、うつむき私と顔を合わせなくなさそうだった。
その気持ちは分かるので、私も黙っていた。
夕闇が、濃くなった。
クシュッ
くしゃみをした青年に、私は首からマフラーを取ると、彼に渡した。
青年は驚いたように私を見た。
「風邪を引く前に、少しでも暖かくした方がいい」
青年は、軽く会釈をした。
だが、次の瞬間
「風邪を引いても構わないんだ」
そう云った。
「何故?よくないでしょう」
……。
「生きてる価値のない人間に、風邪なんて」
ザアアアアアア
強くなった風に、枯れた植物たちは、いっせいに泣いた。
「……親父を刺しました」
毎日、母親に酷い暴力を振るう、
父親の、その姿を見るのはもう
限界だった。
限界だった……。
青年は呟くように、言葉にした。
青年のしたことは、確かに罪だ。
ならば日々、やりたい放題の父親は、罪ではないのか。
青年は立ち上がると、
「これ、ありがとう」
そう入ってマフラーを返した。
「警察に行きます」
歩き出した青年に、声をかけた。
「私も一緒に行ってもいい?」
静かに私を見て、青年は頷いた。
「絃(いと)と云います」
「僕は侑斗(ゆうと)です」
いま自己紹介って変かもしれなかった。
けれど会ったばかりの、この青年に私は縁に近いものを感じた。
ーー生きてるのか、死んでるのか分からないって?バカいっちゃいけないーー
何故ならボクらは生きてるから
サワサワサワ
了
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