幼い頃、祭りの縁日で赤い指輪を買ってもらった。
屋台の光に照らされ、キラキラ光る指輪に、私はうっとりとした。
暫くは机の引き出しに、しまって置いた。
開ける度に嬉しかった。
ある日、何を思ったか、私は地面を掘り指輪を埋めた。
大切過ぎて隠そうとしたのだと思う。
あの頃はヘリコプターやグライダーが、
真っ青な空によく飛んでいた気がする。
引っ込み思案な割には、木登りが大好きで、太い枝に座って空を見上げていた。
大人になるにつれて私は海底で寝てみたいと思うことが増えた。
やっと太陽の光が届くぐらいの海の底。
森の中にある、誰も知らない小さな湖に、舟を浮かべてゆらゆらとしてみたいとも思った。
大きな湖では真夜中に、カンテラの光だけを頼りに舟を漕ぎ、流れ星を見てみたかった。
あの祭りの縁日で売っていた、ブルーやピンクのヒヨコたちは、どうなったのだろうか。
カラーヒヨコと呼ばれていた可哀想な彼等は、運命を呪っただろう。
私はまだ、舟を出していない。
深海で、光も見ていない。
地面の下に埋めた赤い指輪。
掘り出すことがなかったまま引っ越してしまった。
私は思う。
安いオモチャだった、あの指輪は土の中できっと、本物の宝石となって何十年も経った今でも誰に知られず見事に輝いているだろうと。