『ひとつひとつの夜に』
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眠れなくなる夜があった。
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例えば、宇宙の果てのこと。
銀河のそのまた向こうにも星があって、その銀河がさらに集まった銀河の群れがあって、さらにその銀河の群れが群れを作って……と、私の頭は、ぐんにゃりして眠れなくなった。
例えば、父や母の終わり。
ひいおじいちゃんのお葬式に参列しながら、いつか、自分の母も父もいなくなってしまうのかもしれない……と、私の頭は、ぐんにゃりして眠れなくなった。
そして例えば、「星になること」について。
もし自分が寿命を迎えて星になってしまったら、この楽しくて騒がしい生活が無くなってしまうのかな、嫌だな……と、私の頭は、ぐんにゃりして眠れなくなった。
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そうして私は全ての悩みを解決するために、大学で哲学を学び、哲学でご飯を食べるようになった。
哲学は、この世の真理を追いかける学問。だから私は、こんがらがった夜を丁寧に、ほどくことで睡眠を取り戻した。
はずだった。
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−−大変申し訳にくいのですが。
けれど、直面して思い出す。
−−こちらの影をご覧ください。
人は死んだらどうなるのか、なんて疑問。
−−全て腫瘍です。
ひとつひとつの夜を繋げて、答えのない答えを考える。
自分のために、
誰かのために、
頭をぐんにゃりと、ひねりながら。
どうやら今夜も眠れそうにない。
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【【ひとつひとつの夜に】】
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ある夜のことだった。
娘はベッドで私に尋ねた。
「パパ、なんで、空って青いん?」
「それはな、大気中には通常小さな微粒子が浮遊してて、その微粒子によって光が散乱されるねん。で、太陽からの光のうち、波長の短い青い光が散乱されてそれが僕らの目に入ってくるねんて。」
「うーん、そうやねんけど、そうじゃないねんなあ、ちょっと。」
今夜も眠れない。
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ある夜のことだった。
娘は夏の夜を眺めながら尋ねた。
「なんで、セミってあんなにうるさいん?」
「雄のセミは、雌のセミに自分のいる場所を鳴き声で知らせているねん。ちなみにミンミンゼミとかツクツクボウシって、鳴くと、そのあとパッととびたっていくねんけど、アブラゼミやニイニイゼミなどは、 鳴いても、そのまま動けへん。 つまり動いてさがすセミと、鳴いてよぶセミの二種類がおるねん。」
「長いか。」
今夜も眠れない。
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ある夜のことだった。
誕生日のろうそくを消した後に娘が尋ねた。
「なんで、私って生まれたん?」
「たったひとつの精子が卵子に入りこんで、受精卵っていう赤ちゃんの元にが大きくなるねん。命やね。」
「ママ、横で、すごい顔してるけど大丈夫?」
今夜も眠れない。
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ある夜のことだった。
娘はベッドで母に尋ねた。
「ママ。なんで、空って青いん?」
「くじらぐもが流した涙が青いからやね。」
「いや、ママ。嘘やん、それ。」
「ママはホンマやと思ってるよ。」
今夜も、もちろん眠れない。
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ある夜のことだった。
娘は床下のフローリングを、はいながら私に尋ねた。
「なんで、ママと結婚したん。」
「……なんでやろな。」
「パパ、哲学者なんやろ、答え、出るやろ。」
私が言葉に詰まらせていると、沈黙を破り妻が娘に話した。
「パパとはね、お星様の導きで付き合ったの。」
娘が苦い顔をしていると妻は更に付け足した。
「双子座のカストルとポルックスのようにね。」
じゃあ、どうして今は別居しているのか、という一言を飲み込めた私は今夜も眠れない。
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ある夜のことだった。
娘は床下のフローリングを、寝転がりながら私に尋ねた。
「なんで、ママとパパは今、別の家に住んでるん。」
「……それは、ほんまに、なんでなんやろな。」
「パパ、哲学の力で、ここは一つ。」
「……寝よか。」
「哲学者、ウソやん。真実たどりつかんかったやん。真理、ないやん。」
私が言葉に詰まらせていると、沈黙を破り妻が娘に話した。
「パパとはね、うお座のように心では繋がってるねん。」
娘が渋い顔をしていると妻は更に付け足した。
「うお座はね、二匹の魚で一つの星座を表してるねん。これはなんでかっていうと、愛と美の女神アフローディーテと息子のエロスが海獣に襲われた時に変えた姿って言われてて、離れへんために体を紐でくくっているからやねんね。」
じゃあ、どうして慰謝料という具体的な言葉が、この前の話し合いで出てきたのかという一言を飲み込めた私は、今夜も眠れない。
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ある夜のことだった。
娘はベッドで私に尋ねた。
「なんで、人って命があって、いつか星になるん?」
「人間の身体には細胞分裂の限度があって。」
「そういう話じゃないねん。パパ、哲学者やろ、答え、出してや。なんで、パパが星になるん?」
私が言葉に詰まらせていると、沈黙を破り妻が娘に話した。
「パパはね、マリを見守るために星になるねん。」
すると娘は妻へ更に疑問をぶつけた。
「え、じゃあ、お父さんは、星になるために生まれてきたん? 星になるために大学行って、星になるために哲学者になって、星になる準備をこれまでの人生して来たってこと? じゃあ、ママはお星様になる人を、お星様になるなあ、素敵やなあって思って結婚したん? 輝くから? きらめきが素敵やったん? パパの人生はそれでいいの? お星様になるためだけの人生やで? 星の人生やん、星の。」
どうやら今夜も、眠れないようだ。
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−−ずっと、昔の夜。
−−妻とは、ゼミの飲み会で出会った。
「いやもう、そんなんノリやん、じゃアカンの?」
「アカンなあ。」
「大の大人が寄ってたかって、何をそんなに語ることがあるんやろ、って。」
「語り合うことこそが哲学の良さであって。」
「ええやん、自分の中に答えがあるんやったら、それが自分の中での『真理』なんちゃうかな。」
「なんで、君は哲学科に入ってきたんや。」
「倍率やな。人気なかったし。」
−−哲学に懐疑的な妻。
−−哲学を盲信する私。
−−反発しあう二人は、いつしか互いに惹かれあった。
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次の夜のことだった。
「ハイデガーは言った。星になる覚悟がある者だけが『良心の呼び声』に応えることができる。永遠に生きられるとしたら、今それをやるかどうかは重要なことではなくなる。いつかやればいいからね。星になるという事実がいつでも訪れかもしれへんって状況の中で初めて、今それをせなあかんかが切迫した倫理的な選択になる。つまり、『良心の呼び声』に応える、ということになるねん。」
「いや、でも星になったらどうなるかの答えにはなってないやん。逃げなん?哲学って。」
娘の素朴な疑問と悪口に、私は、うーんと考えた。
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次の夜のことだった。
「星になることは、ゴールやねん。わらしべ長者って、最後まで親切を続けたから幸せになったお話やろ。人生っていうのは、親切を重ねるための道であって、ゴールを目指す旅やねん。だから、みんなを幸せにしたルートで辿った最期には、幸せしか残ってなくて、そこに怖さも寂しさもないとママは思うねんよ。」
「じゃあ、ママはパパに幸せにしてもらったん?」
「うーん、うん、うん、まあ、うん。」
「いや嘘いいから、ホンマのやつ教えてよ。」
娘の鋭い口撃に、妻は、うーんと考えた。
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次の夜のことだった。
「ソクラテスは、死刑が確定した後、裁判官に対して『誰もが星になった後の世界のことを知らないのに、“星になることを悪の最大のものだ”と恐れるのは賢人を気取ることだ』と語ってん。『星になるということは人間にとって福の最上なるものかもしれない。 しかし、それを知っている人はいない。神に背くことや不正は恐れるが、良いことか悪いことかわからない“星になること“は恐れない』って。だから星になることは怖くないねん。」
「でも、めちゃくちゃええことかもしれへんけど、めちゃめちゃ怖いことかもしーへんってことやん。あれなん? そういう白黒つけへんところとかがお母さんと話してない理由なん?」
娘のカッターナイフのような切れ味に、私は、うーんと考えた。
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次の夜のことだった。
「人生はね、修行の場やねんね。それで、お星様になってあの世に行った時、閻魔様って全てを見透かしてる人が、その人の一生を判断して天国に行くか地獄に行くかを決めるのよ。そして現世で徳を積んだ人だけが、天国で幸せに暮らせる。だから星になった後にもここじゃない別の世界があるのよ。」
「おばあちゃんは、自分が天国に行くと思う?」
「絶対、行くわね。」
「おばあちゃんは嘘つきやから、地獄に行くと思う。」
私は、聞こえてないふりをするために爪の間のゴミを覗いた。
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次の夜のことだった。
「サルトルは『星になることは、わたしの固有の可能性であるどころか一つの偶然的事実でしかない』って語ってるねん。『この事実は、それ自体として、原理的にわたしから逃れ出るものであり、根源的にわたしの事実性に属するものである。わたしはわたしが星になるという事実を発見することもできないであろうし、それを待つこともできなければ、それに対し、一つの態度をとることもできないであろう。』ってね。」
「私は、パパが、いなくなること、心から怖いし悲しいし、いやなんやけど。」
そうやって私の眠れない夜は続いていくのだった。
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−−妻は大学時代、児童向けの文学作品を同人誌として制作していた。
「儲けもない、別に有名でもない。こんな冊子作っても何もメリットないでしょ。」
「いや、世界が意味のあるものばっかりと思うなよ、哲学。」
「僕を一学問で呼び捨てるな。こんな嘘、よく作れるな。」
「世界は嘘で溢れてる。でも、その一つひとつに価値があるから素晴らしい。」
「タイトルが『ひとつひとつの夜に』。陳腐やな。星座をモチーフにした銀河の旅って、宮沢賢治丸かぶりやん。だいたい星座って存在自体が嘘やん。あれ、どう見たら蠍に見えるねん。」
「ごめんな、傷つけるための言葉を今、発するな。きも。」
「前置きつけるくらいなら、最初から言うなよ。」
−−物語に懐疑的な私。
−−物語を盲信する妻。
−−反発しあう二人は、気づけば同じ時を過ごすまでになった。
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ある夜のことだった。
「人は星になっても、また再会するねん。あなたが幼稚園の頃にいなくなった、ママのおじいちゃんも、待ってくれてる。」
「どこで。」
「あの空の上。そこで、星になった人たちはパーティーをしてる。」
「いや、飛行機とかで見てもそんな世界ないやん。」
「別に全ての世界の雲を見れてるわけじゃないでしょ。」
「いや、今、衛星とかあるから、それで全世界見れるやん。」
「もし、この秘密を国家が隠してるとしたら。」
私は、その様子を横たわりながら静かに眺める。
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別の夜のことだった。
「なんで星になるか。……そういう曖昧で抽象的なものに言葉を与えることが、俺とかこいつの仕事やったはずやねんけど。いざ、当事者になると何一つ形にでけへんもんやな。」
「パパの同僚さん。パパは、哲学の人としては、良かったですか、悪かったですか。」
「うん、それだけは言葉にできる。マリちゃん、パパは最高の同僚やったよ。」
「よかった。パパ、天国には行けるかもしれへんね。」
けれど、夜はいまだに眠れないままだ。
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ある夜のことだった。
点滴の横で妻が娘に話しかけた。
「だから星になった人はね、その楽しいパーティ会場でみんなを待ってくれてる。一年前に亡くなったミケも、近所でいつも大根をくれてたヒサノリさんも、全員。」
「そんなん信じられへんやん。」
「雲の上では、毎日立食パーティ。連ドラも映画も見放題。」
「実質、ネットフリックスやん。」
妻は、その姿を見ながら、私の頭を撫でた。少しだけ掌は汗ばんで、震えていた。
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別の夜のことだった。
「星になるって言葉、マリちゃんのパパにしては、ロマンチックというか叙情的な物言いやなあ。……そっか、そういう言葉も、あの子の影響か。」
「パパの旧友さん。パパは、ママと仲良しでしたか。」
「妬いてまうくらい仲良しやったよ。キスの写メとか見せたいくらいやわ。」
「それは大丈夫です。」
「ふふふ、そっか。じゃあ、マリちゃん。」
「なんでしょうか」
「私から、逆に聞いてみていい?」
「はい。」
「なんでパパは星になるんやと思う?」
「……。」
やっぱり、夜はいまだに眠れないままだ。
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ある夜のことだった。
その日は大きな雨粒が降る、夜だった。
娘が眠る隅で妻と私は二人だった。
「……小さい頃。」
「うん。」
「夜が、すごい怖くて。夜って一人の時間が無限にあるから、頭の中で色々と考えているうちに、もやもやが増えていって、頭が、こう、ぐんにゃりしていくねんな。だから、その、ぐんにゃりを倒すために色々と調べたり、理論を武装したりして。それが行き着いて哲学まで学んで。でも、いくら一つを解決してもまだ疑問は出てくる。」
「ふーん。」
雨は、その強さを増した。
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別の夜のことだった。
「星になるっていうのも実はそこまで嘘とは言い切られへん。だって宇宙って今こうやって話してる間にも広がっていってるらしいからね。その広がった一部に魂のようなものがあるって考えたら面白くない? 物語って嘘は、そんな本当を鮮やかに変えるための絵の具みたいなもんやねんな。」
「ママの親友さん。パパは、ママの作るお話好きやったんかな。」
「マリちゃんが今、この場所にいるってことはそういうことちゃうかな。」
「ママは、作りたいんかな、今でも。」
「マリちゃんは、お母さんのお話好き?」
「ママが楽しそうやな、とは思う。」
「たぶんね、ママ、マリちゃんがそう思ってくれてるだけで嬉しいんちゃうかな。素敵な言葉って意外と言葉にしたら魔法みたいに浸透するものやからね。」
「パパも、ママのこと、もっと好きとか言ったらいいのに。」
やっぱり、夜はいまだ眠れないままだ。
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ある夜のことだった。
忙しなく走り回る夜の自動車。
娘が眠る隅で妻と私は二人だった。
「初めて泊まった夜の時。二人で横になって寝て。その時な、人生で初めて、頭がぐんにゃりせえへんかってん。」
「……それ初めて聞く。」
「ずっと夜が嫌いやったんやけど、その日の夜だけは、好きになれてん。理香がおったから、やろな。」
「……」
「だから結婚決めてん。」
「……真哉さあ。」
「何?」
「なんで、そんなエピソード温存してたん。」
「ごめん。」
雨粒の勢いが弱まる。
「なんで真哉なんやろ。」
「……」
「いろんな人がおって、なんで星になるのが真哉なんやろな。」
「……」
私は、考える。
考える。
考える。
頭がぐんにゃりするくらい。
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−−互いに足りない部分があったからこそ学生時代の私たちは惹かれあったのだろう。
「えっ、いつから、いつからおった?」
「あんたが『ひとつひとつの夜に』の背表紙を優しく手でなぞってるとこくらいからかな。私の陳腐な同人誌、お気に召しましたか?」
「……僕も自分で自分がおかしくなってるな、とは思う。なんか気になって仕方がないねん。」
「この本が?」
「本もそうやし、君のことも。」
「……えっ、えっ、そういう、えっ。」
「これ、なんて感情なんやろな。」
「こいつ、それ私に言わせる?やばっ、こいつ。」
「なんやと思う?」
「『なんやと思う?』ちゃうねん。哲学って一周まわったらロマンスになるん。」
「え、君は僕のこと好きなん?」
「ええっ!野暮!めっちゃ野暮なんやけど!!」
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
婚姻届にお互いの名前を書き入れて。
彼女が私の苗字に変わった時には。
人生の真理がそこにあると信じて疑わなかった。
花嫁姿の彼女を一生かけて幸せにするんだ。
本気でそう考えていた。
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−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
「真理なんてないものを、なんで研究してるん。」
「お金、もうない。」
「娘との生活とかを大切にしてよ。」
「私のことって、どう思ってるの?」
「お金、本当に、もうないよ。」
「私かって、やりたいことあるよ。児童文学かって今でも書きたいよ。でも書かれへんやん。こんな生活してたら。諦めるしかない。」
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−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
「ママ。」
「どうしたん。」
「ママは幸せやった?」
「……。」
「パパと出会えて、幸せやった?」
「……最期に。」
「最後?」
「あの人に言わなアカンことがあるねん。」
「何?」
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−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
いくつもの重ねた夜の中に、自分の生きる意味や、自分の世界の話、自分がここにいるということ。
そのどれもを並べながら。
夜の中に、ぼんやりと思考だけが浮かぶ。
そうやって私はこれまで生きてきた。
なのに、どうしてだろう。
どうして自分が星になることの理由くらい満足に述べられないのだろう。
そんなモヤモヤを抱えながら。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
「はあ……っ」
目覚めると真白い病室。
寝汗を、ぽたぽたと垂れ流しながら、私は思考から逃れる。
そうやって夜の孤独の中で、広がり続ける宇宙の端を、ぼんやりと考えながら、二十億光年の孤独と唱えたのは、谷川俊太郎だったっけか、なんて思考を巡っていると。
「パパ、目覚めたんや。」
二十億光年の孤独の中に、一つだけ確かな光が灯されていた。
娘はにこりと笑いながら、私の心の中を見通すように告げた。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
「パパ、私、気づいたことがあるねん。」
微笑んだ娘は、妻とそっくりだった。
「私、ずっといろんな人に質問してた。なんで、なんで、って。でもな。」
娘はまっすぐな瞳で私に話しかける。
「パパが、星になっても安心するように、私、自分で頭に浮かんだ質問を答えるようにしようと思ってん。」
そう言って娘が取り出したノートの表紙には、彼女らしい乱雑なマイネームの文字で一言。
“ひとつひとつの夜に”
「私はパパみたいに、スラスラと言える訳じゃないから、ママとじっくり考えてみてん。」
部屋の扉がガチャリと開くと、そこには妻が、佇む。
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妻は私に指を差しながら言い放った。(指を差すな)
「お星様になる前に、あんたと決めなアカンことがあるなあ、って私は思ってん。」
妻の話ぶりは熱を帯びる。(唾を飛ばすな)
「あのなあ、物語は嘘やけど、めちゃくちゃ面白いし、誰かの心の助けになるねん。」
星になる旦那に物申すとはどういう心境なのだろうと私は思った。娘も何故か鼻息荒く自慢げである。
「今から、私とマリのタッグで、あなたを物語で救おうと思います。」
そうして何か訳のわからないまま、訳のわからないものに巻き込まれた私は、妻に小さな声で告げられる。
「眠られへんのやったら、眠たくなるまで、私たちのお話を聞いてよ。」
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【【ひとつひとつの夜に】】
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あるところに真哉(しんや)という人間がいました。
真哉は、夜が苦手でした。
夜になると、なぜなぜなになにが溢れてきて、頭がぐんにゃりするのです。
「ぐんにゃりやでー。」
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「主役のモデル、僕やん。」
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ある時、真哉は頭がぐんにゃりしました。
「例えば、宇宙の果てのこと。銀河のそのまた向こうにも星があって、その銀河がさらに集まった銀河の群れがあって、さらにその銀河の群れが群れを作って……、うちゅう、むずー。もう、わけわかめやでー。」
考えれば考えるほど、真哉の眠れない夜は続きます。
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「理香、僕モデルのキャラにちょっと悪意があるかな。」
「真哉、私の目から見たら普段から、こんなんやで。」
「だとしたら普段から、もうちょっとちゃんとしようと思うわ。」
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そこにちょうぜつかわいいあたまのいい女がやってきました。
まりです。
まりは、パパに言います。
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「ん、ここからは、マリのパートなんかな。」
「マリのパートとかないから。全編ママと協力の元やから。」
「地の文で力の差が出まくってるねんなあ。」
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「うちゅうが、ひろがるのは、うちゅうの、ちょうぜつな、パワーによるものです。つうしょう『うちゅうすごいですねパワー』と言います。」
つまり、うちゅうすごいですねパワーによって、すべての力はひとしく、うちゅうになります。
わたしも、あなたも、うちゅうなのです。
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「ちがうねえ。」
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「なるほどお、そういうことなのですねー。」
父は、そういうとようやくぐっすりと眠ることができるようになりました。
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「僕や、哲学を馬鹿にしているのかな。」
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ある時、真哉は頭がぐんにゃりしました。
「ひいおじいちゃんのお葬式に参列しながら、いつか、自分の母も父もいなくなってしまうのかもしれない……、にんげん、おえー。もう、いみふやでー。」
考えれば考えるほど、真哉の眠れない夜は続きます。
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そこにちょうぜつかわいいあたまのいい女がやってきました。
まりです。
まりは、パパに言います。
「あんしんしたまえ。しんやくん。じゅみょうをまっとうした、ひとたちはねえ、けっしてきえることはないんだよ。しんやくん、『うちゅうすごいですねパワー』をごぞんじかい。」
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「おっ、雲行きが怪しくなってきたよ。」
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うちゅうすごいですねパワーのおみちびきによって、じゅみょうをまっとうしたひとは、ほしになるねん。
ちなみに、うちゅうすごいですねパワーは双子座のカストルとポルックスのおみちびきと言われてます。
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「手を合わせたら、もう、それは、もう、そうなのよ。」
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「なるほどお、そういうことなのですねー。」
父は、そういうとようやくぐっすりと眠ることができるようになりました。
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「僕、もうちょっと疑問を持って欲しいな、作中で。」
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ある時、真哉は頭がぐんにゃりしました。
「もし自分が寿命を迎えて星になってしまったら、この楽しくて騒がしい生活が無くなってしまうのかな、嫌だな……、いやだな……。」
考えれば考えるほど、真哉の眠れない夜は続きます。
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そこにちょうぜつかわいいあたまのいい女がやってきました。
まりです。
まりは、パパに言います。
「えっ、なんで人って生きてるん?」
真哉は思いました。
「え。」
それを解決してくれるのが、ちょうぜつあたまのいい女こと、まりなのではないかと。
けれど、まりは小さく「うわあ」とか「これはわからんすぎる」とか項垂れるままです。
まりは、大きな声で言いました。
「パパ、これはわからんすぎるから、一緒に冒険しよう!これはもう、一人では厳しいわ!」
真哉の体にはキラキラに光る何かがつながっていました。
「これを辿っていけば、ひょっとしたら何か答えに繋がるかもしれない。」
可動式のベッドに横たわる真哉と、娘のまりのひとつひとつの夜を跨ぐ、銀河の冒険が始まります。
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「じゃあパパ、出かけようか。」
「え、なに、どういうこと。え?」
「銀河の旅に出かけるで。」
「物語、やろ?出かけるって何の話やねん。」
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「さあ、パパ、準備はいい?」
「どういうこと?」
「『うちゅうすごいですねパワー』で空を飛ぶよ!」
「銀河にってこと?」
「ハイデガーは言った。星になる覚悟がある者だけが『良心の呼び声』に応えることができる。良心の呼び声とは『うちゅうすごいですねパワー』である!」
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「違うよ。」
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ブブブブブイーン。
銀河を旅する二人は、蠍座にたどり着いた。
そこには、真哉の旧友が立っていた。
「なあなあ、パパの親友さん、何で人って生きてるんやろ。何で星になってしまうんやろ。」
すると旧友が答えた。
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「病室にほんまの旧友来たやん。」
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「逆に、まりちゃんは何でやと思う?」
なのでマリははっきりと答えた。
「それを探すために旅に出ています。」
その言葉を聞いた旧友は満足したのか、マリにプレゼントを渡した。
「マリちゃん、それはお守りがわりに使うとええよ。」
中にはマリのパパとママのプリクラ(めちゃくゃキスしてる)が入っていた。
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「何してくれてんねん。」
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ブブブブブイーン。
次に銀河を旅する二人は、いて座にたどり着いた。
そこには、真哉の同僚が立っていた。
「なあなあ、パパの同僚さん、何で人って生きてるんやろ。何で星になってしまうんやろ。」
すると同僚が答えた。
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「病室にほんまの同僚来たやん。」
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「思い出を作るためじゃないですかねえ。まあ、僕は会社で、あの人と写真も撮ったことないんですけど。」
その同僚の人が、あまりに可哀想だったので、私は同僚にパパとママのプリクラ(めちゃくちゃキスしてる)をあげた。
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「うおおおおい。何してくれてんねん!!」
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同僚は「へえ、あの人こんな顔するんですね。」と微笑んだ後、お礼にと”お父さんのある論文”をプレゼントしてくれた。
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「え、しかも、物語の中のこととしてじゃなくて、ほんまにプリクラもらって帰っていったやん。」
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ブブブブブイーン。
さらに銀河を旅する二人は、水瓶座にたどり着いた。
そこには、ママの親友が立っていた。
「なあなあ、ママの親友さん、何で人って生きてるんやろ。何で星になってしまうんやろ。」
すると親友が答えた。
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「あ、妻の親友さん、こんにちは。」
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「何かを残すためなのかもね。」
そう言って、ママの親友はママが学生時代作っていた童話の本をくれた。
私はお礼にパパの論文を渡した。
論文の内容は、
『物語という虚構の哲学的気論』
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「…………」
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その表題を見ながらママの親友はつぶやいた。
「パパね、ママのために物語って存在が哲学的な側面でそういうふうに考えられるかって、勉強してたみたいやね。」
マリは思わず、「やるやん。」という気持ちと「いや、だからこういうのは直接言わんと伝わらんし。」という気持ちが二つ浮かんだ。
マリは決意した。
「ママに伝えるで、パパ。」
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「どういうこと。」
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ブブブブブイーン。
最後に銀河を旅する二人は、うお座にたどり着いた。
そこには、おばあちゃんが立っていた。
「なあなあ、おばあちゃん、何で人って生きてるんやろ。何で星になってしまうんやろ。」
するとおばあちゃんが答えた。
「きっと、何かいいことをするためにやろうね。ちなみに、あなたのパパもマリちゃんも、いいことしてきてる?」
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マリは即答した。
「パパはママのことを思ってたし、私は、これから二人にとっていいことをするつもり。」
するとおばあちゃんは笑った。
「ならよかった。パパの腰につながっている紐はね、最初からママとつながっていたのよ。」
そうして銀河の星屑が、輪郭が浮かび上がって登場したのは、
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「…………。」
「…………。」
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他でもなく私のママ、理香だった。
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「言おう。パパ、言おう。」
「何をや。」
「色々。これまでのこととか全部。」
「え。」
「…………」
「…………」
「……」
「……」
「えっ、ほんまに言わんやん。しゃーないな。『うちゅうすごいですねパワー』を注入や。」
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あまりにも何も言わないパパ。
私は、もう嫌すぎてママに尋ねた。
「なあなあ、ママ。何で人って生きてるんやろ。何で星になってしまうんやろ。」
するとママが答えた。
「星になることは、ゴールやねん。わらしべ長者って、最後まで親切を続けたから幸せになったお話やろ。人生っていうのは、親切を重ねるための道であって、ゴールを目指す旅やねん。だから、みんなを幸せにしたルートで辿った最期には、幸せしか残ってなくて、そこに怖さも寂しさもないとママは思うねんよ。」
「じゃあ、ママはパパに幸せにしてもらったん?」
「私は、こんなふうになって改めて気づいた。」
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「私は、幸せやったんやなあ、って。」
手には、私が書いた論文が握りしめられている。
「この人はアホで、ずっと哲学のことばっかり考えてて、それで私が物語を描いてることにすら答えを見つけようと哲学を書こうとしてた。すごい人。ほんまにすごい人。」
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「私は、あなたのおかげで、幸せになれました。」
その一言をきっかけに、マリのおばあちゃんが、お酒を持ってやってきました。
「幸せなことをすれば天国へ行ける。さあ、みんなで行くわよ、天国へ!!」
その言葉を「待ってました!」と言わんばかりに、おばあちゃんだけではなく、パパの旧友や同僚、ママの親友や私が全然知らないおじさんまで病室の中へ入ってきました。
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「おいおい、病室やけど。いいんか、これは。」
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そして、みんなが、うちゅうすごいですねパワーで、空をとんで、ぐるぐると、ちゅうを、うかびながら、やってきたのは、まっ白いくもの上。
「人は星になっても、また再会するねん。あなたが幼稚園の頃にいなくなった、おじいちゃんも、待ってくれてる。そこで、星になった人たちはパーティーをしてる。」
そこからは、みんなが飲んで歌って騒いでの大合唱。
「星になった人たちはね、その楽しいパーティ会場でみんなを待ってくれてる。一年前に亡くなったミケも、近所でいつも大根をくれてたヒサノリさんも、全員。雲の上では、毎日立食パーティ。連ドラも映画も見放題。実質、ネットフリックス。」
パパの旧友はプリクラのエピソードを詳細に語るし、パパの同僚はそのギャップに爆笑して、ママの親友はパパのダメなところを披露して、おばあちゃんと意気投合、そして知らないおじさんは、知らないなりに笑ったり泣いたりしています。
パパは「ちょ」とか「それは」とか時々笑って、ママは「そう」とか「いや」とか時々涙ぐみながら、この天国での宴会を楽しみます。
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「はい、それじゃあ、えんも、たけなわでは、ございますが。」
マリはかしこいので、このたびから、かんがえ出した、どうして人が生まれて、さいごは、ほしになるのかの、りゆうを、はっぴょうすることにしました。
「パパが、ほしになる、りゆう。それは。」
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「哲学者の言葉がほんまに正しかったのか、確認するためです。」
一同がぽかんとしていると、娘はさらに続けた。
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「パパは、わたしに、いろんな、てつがくしゃの、いけんをかんがえて、つたえてくれました。サルトルやソクラテスのいっていたことが、ほんとうにただしいのか、どうか、じぶんのからだをつかって、かくにんしにいきたいんです。」
だって。パパは。
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「哲学者やから。」
娘は笑いながら、「これが私の考えたパパが星になる理由。」
その話ぶりに私と妻は思わず見合わせる。
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そうしてパパは、くもの上で、ほしになって、しあわせにくらすのでした。
なぜなら、さみしくないからです。
きっと、ママも、わたしもいつかは、くもの上で。
そんな、ねむれないパパのひとつひとつのよるがつながって、まるで、せいざのようなものがたりになって、ただのほしのつながりを、なにかに、たとえるように、ものがたりは、完成しましたとさ。
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「めでたし、めでたし。」
静かな部屋に大きな拍手が巻き起こる。
娘はどこか、誇らしげで、私は思わず抱きしめる。
ああ、そうか。
その時に私は気づいてしまった。
私は生きてきた理由。
星になる理由。
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パパは、ママに小さな声で告げました。
「ありがとう。」
ママは、パパに小さな声で返しました。
「こちらこそ。」
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ひとつひとつの夜を繋げて、星座みたいに模って、答えのない答えを考える。
私は「どうして人はお星様になるのか」について哲学者でも研究者でもなく、一人の父『真哉』として結論を出した。
愛する妻『理香』と、
そして僕たちの娘。
それぞれの名前をとって。
真理と書いて『マリ』。
「きっと、真理《マリ》に出会うためだったんだな。」
娘は、小さく微笑む。
きっともう「なんで」と聞くことはなくなるだろう。
妻の微笑む顔。
柔らかくて、私の大好きな人の愛おしい表情。
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私は、そうして、ようやく深い眠りにつくことができた。
きっとそれは、『うちゅうすごいですねパワー』によって、なのかもしれない。
これもまた、ひとつひとつの夜から生まれた”真理”、なのだろう。
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