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同人誌の感想:雲形ひじき(主宰)『土の中からホクホクと じゃがいも文芸アンソロジー2』

「じゃがアンソロ2」こと、『土の中からホクホクと じゃがいも文芸アンソロジー2』を読みました。

ジャガイモをメインモチーフとした創作文芸のみを集めた奇跡の(まさかの)アンソロジー、待望の第2弾です。

※第1弾『煮ても揚げてもふかしても じゃがいも文芸アンソロジー』の感想はこちら(ご本は完売しています)

ネタバレなし、なるべくレビューぽく書いたつもりですがあんまりうまく紹介できた気がしないので、同じく参加者の宮田秩早さん(たこやきいちごさん)の全作レビューもご覧くださいね。

また、ゼミ長こと主宰の雲形ひじきさんがXという名のツイッターで詳しく紹介していらっしゃいますので、こちらのツリーもぜひご覧ください。
全作の試し読みもありますよ。



全作の感想

アンソロは、ひじきさん作の掌編が随所に挟まれて各参加者さんの作品をゆるやかに繋ぐ構成になっています。
以下、感想は掲載順です。
※今回はカタカナの「ジャガイモ」表記に統一しております。

シンシア/雲形ひじき

多幸感あふれる収獲の場面。

土の中からホクホクと、はじまりの鐘が聞こえてくるかのようです。

庭先に王国/草群鶏

お屋敷にひとり暮らす大学生の華衣のもとに、「疎開」してきた小学生のいとこ、大地君。
ふたりが足が生えてきたジャガイモを追っかけていくうちに、不思議な世界に迷い込んで……というお話。
不思議の国のアリスみたいなわくわくするファンタジーで、トップバッターにふさわしい作品でした。
めくるめくイモたちの王国が本当にゆかいで、童心に返っていつまでもここにいたいなと思わせてくれます。
本当にイモが相撲を取っています。

ベートーヴェン未発表書簡および家政婦のひとりごと/海崎たま

タイトル通り、偏屈者のベートーヴェンが書いた手紙と、彼に仕える家政婦のひとりごとから成る作品。
序盤は、熱に浮かされたようなベートーヴェンと、しらけた家政婦の態度のギャップがおかしくて、くすくす笑ってしまうのだけど、何だかんだいって家政婦さん「ベートーヴェンのこと気に入ってない?」と思っていたら……。
最初の印象から読後感が大きく変わる、印象深い作品でした。
もちろん、ジャガイモはとても重要なアイテムとして登場しますよ。

ノエルペリグー/雲形ひじき

歌舞伎町にある夜パフェのお店「ロイトシロ」の冬メニューに寄せて書かれた掌編。
主食やおかずだけじゃなく、デザートにもなれるなんて、じゃがいもの可能性は無限大ですね。
(ロイトシロさんに前回行った時は別のメニューを選んでしまいましたが、機会があったら今度こそ食べてみたいな~)

馬鈴薯の歌に啄木が秘めた想い/竹下大学

せっ専門家の方だ!(その1)
石川啄木が書いた馬鈴薯の短歌二首について、その品種や花の色が何だったのか考察してみようというわくわくする試み! こういうのだいすきです。品種からのアプローチで短歌の情景がガラリと変わるのがすごい! どんでん返しのミステリーを読む快感にも似ているなと思いました。

わたらせ/泡野瑤子(※わたし)

明治末期から太平洋戦争後にかけて、足利で書かれたある女性の日記。
自分の作品なのでどうこう言うことはないのですが、竹下さんの次に並べていただいたおかげで、読者の方により明治時代のジャガイモを想像していただきやすくなっているかと想います。ありがとうございます。

ローカルポテトサミット/雲形ひじき

ローカルポテトサミットとは、2022年に実施された、在来ジャガイモたちが一堂に会するイベント。
在来ジャガイモの将来を憂えつつ、彼らがこんな風に楽しそうに会話してたらいいなあなんて思ったりもします。

まあるい名を得て/やまおり亭

打って変わってお次は岐阜の郷土料理「ころいも」が登場。
出荷できないような小さなイモを揚げて、甘辛のタレにからめる料理なのだそうです。
ころいもから自分の人生に思いを馳せる主人公。売り物にはならなくても、おいしく仕上がる道はある。たぶん、人も同じ。
……それにしても、とにかく料理の描写がおいしそうでおなかが減ります。
ころいも食べてみたいなー!

imogine! 帝国戦隊インカレンジャー/文野華影・雲形ひじき

これはお二人の共著『われは妹思ふゆえに芋あり』からの再録ですね。
PDF版の頒布はあるものの紙本は完売しているそうなので、読み逃していた方にはうれしい計らい。
メタいギャグとジャガイモネタ満載で、何度読んでも笑ってしまう!
みんな同じナス科なのに、あの幻の野菜が敵となって支柱を振り回す姿、胸が痛みますね……人間の都合でつくられ、捨てられた悲しいモンスター……(野菜だよ)

じゃがいも俳句ドリルで教室/星野真奈美

俳句教室が読者参加型ジャガイモ文芸コンテンツに!
ジャガイモ俳句の穴埋めをするの、難しいけど楽しいです。
模範解答(?)もどれもなるほど~とうなずくものばかり。
ほかのひとがどんな言葉を入れるのか気になります。とくにじゃがアンソロ参加者みんなでわいわい考えたい!

名探偵とうや ~ナス科の地上絵~

地上絵、と書いてピクトグラムと読む。
今回はル○ン○世と名探偵コ○ンのコラボ(パロディ)だ!
怪盗に狙われたのはとあるレア品種のジャガイモ。なかなかスーパーでお目に掛かることのないあのシリーズ、たしかに馬鈴薯怪盗垂涎の的かもしれません。

しかし、物語には隠された真実があり……。
落語を思わせる軽妙な語り口の中に止めどなく仕込まれたジャガイモネタが楽しい作品です。

散文詩 きみに帽子を被せたい/じゃがいも好きひらまりこ

専門家の方だ!(その2)前回も参加してらっしゃったけど!
前回の「じゃがいもに帽子を被せるなら?」を品種ごとに考えてみるのも好きでしたけど、今回はどこかせつなさを感じる散文詩。
しかも日英二カ国語でちゃんと押韻もされている。すごーい!
こんなジャガイモ文芸が読めるなんて思いませんでした。

悪(ヴィラン)の休日/文野華影

インカレンジャーのスピンオフ!
インカレンジャーと一時休戦して、喫茶店の朝食を楽しむドクター&ポm……あの謎の野菜がなんとも微笑ましかったです。
そのままインカレンジャーと仲良くなっちゃいなよ~。
Imogine all the potatoes living on today...

お米がなくなったので、ジャガイモを食べることにした/湖上比恋乃

北海道にお住まいの比恋乃さんならではのエッセイ。
いろんな品種のイモが手に入ってうらやましいと思うけれど、いつもたくさんもらうと消化するのも大変ですよね。
春の訪れに心はうきうき、おいしそうな食べ物におなかはぺこぺこになる、北国からの素敵な贈り物でした。

じゃがいも王子、救出大作戦!/服部匠

とある事情で大好きなお料理を封印してしまった少女メイが、かわいいおじゃがさんトリオに連れられて、じゃがいも王国の一大事へ立ち向かうことに!選ばれし勇者となったメイちゃんの、ハラハラドキドキの大冒険が楽しい作品です。
そして登場するジャガイモ料理たちがとてもおいしそうで、ここでもおなかが減るのでした。いももち食べたいな~。

よく寝たほうがいいイモの話/送水こうた

インカのめざめになんてことをー!笑
いろんな品種を文字通りごった煮にして、いももちを作ろうとしている青年、鶴巻ミノル!
恐るべき蛮行に戦慄するジャガイモたち!!
イモにまで気を遣う鶴巻君は社会生活でも気を遣ってそう。
よく寝た方がいいのはイモだけじゃない、ほっこり優しい作品でした。

せいじゃの行進/オカワダアキナ

ディズニーシーの閉園反対! とジャガイモを投げる老人たちのお話。
これまでの作品と違って、楽しい作品ではないと思います。作品がよくないというのではなくて、とくに祖父たちがだいたい私と同世代なので、身につまされるところがありました。
おかしなルールにルールだからと従うのは簡単。でもやっぱりおかしいことにはおかしいと言わなければならないですよね。
……などと書くのもいまだけで、結局、わたしも80年経ったらジャガイモを投げているかもしれない。もちろん、そうなりたくはないのですが。

創作むかしばなし『気難しい芋と女の話』/宮田秩早

じゃがアンソロ2をしめくくるのは、おもしろくって壮大でジャガイモ誕生神話。
インカ帝国のそのまた昔、人間に食べられたいわけじゃないけど尊敬されないのは癪に障る、芋なのに人間味のある芋の精霊様が、どうにか人間に芋の神殿を作らせてやろうと一念発起。
なんだかノリの軽い酒好きの神さまたちとのやり取りの楽しさのなかに、どうしても毒のあるジャガイモの哀しさや歴史の厳しさを思わせる作品です。
もちろん宮田さんの作品なので、もはや一部界隈にはおなじみのピシュタコが登場します。

全体を通じて

第一弾は全体を通じて楽しく読める作品が多かったですが、今回はシリアスな作品やせつなさを感じる作品もあり、より広がりのあるアンソロジーになっているなと感じました。それぞれの作者さんが自分の個性を発揮して、「ジャガイモ」を上手に料理している(※煮たり揚げたりふかしたりしているわけではない)感じがしました。
いっぽうで前回にも増して、ジャガイモに詳しくなくても楽しめる内容だったように思います。もちろん、詳しい方も楽しめます。
ぜひ多くの方に手にとっていただき、ジャガイモから芽吹いた(毒はないよ!)創作文芸の広さと奥深さを感じていただきたいなと、イチ参加者として思うのでした。

直近の頒布情報

『土の中からホクホクと』は今週末9/22、文学フリマ札幌9にて頒布開始です!
文学フリマ札幌の詳細については、公式サイトからチェックしてみてください。

https://bunfree.net/event/sapporo09/

その翌週9/29には、東京・八王子にて開催されるTAMAコミで東京初頒布となるかと思います。
ひじきさんと私の合同サークル「フィナンシェヤクザとシネマ芋先輩」へどうぞ!



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泡野瑤子(阿波/シネマ芋先輩)
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