【往復書簡/9通目】ハフハフしながら 食べてもらいたい、赤ネギと骨付き鶏のスープ
みやうへ
宝塚に引っ越して初めてのお手紙ありがとう。手紙のトップ画像が、電線がいっぱい映り込んだ、住宅街を見下ろすような風景になって(新居からの眺めかな?)、それだけで、大きく暮らしが変わったんだなぁと想像するわ。恋人の暮らす地に引っ越すなんて、とてもドラマチックで、こっちがウキウキしちゃうよ!新生活の中からどんな食が生まれてくるのか、これから私も楽しみです。
さて、宝塚生活第一弾の「頭芋のポタージュ」、ごちそうさまでした。頭芋という名前も、それが里芋の親芋だということも、お正月に丸ごといただく風習があることも初めて知ったよ。そもそも親芋が食べられるということがびっくり。里芋ならではの特性だね。私の実家のある埼玉県は、昔地理の授業でも習ったと思うけど、里芋の一大産地として有名な地域(いわゆる関東ローム層のおかげで美味しくなるようです)で、しっとりした粘り具合と実の柔らかさ、それと出汁の沁み方が絶妙で美味しいの。とても好きだけど、当たりはずれが多いし、実のところ、里芋はあまり調理が得意じゃない食材の一つなんだ。ポタージュにするにも、あの粘りをどう扱ったらよいのかつかめなくて、これまで作ったものは失敗作。だから、頭芋のポタージュは、よくぞ作って見てくれた、という一品でした。そういえば、みやうがいつか料理してくれた里芋のおかゆ、最高に美味しかった。あれは記憶に残る味だったよ。
みやうが宝塚に引っ越した頃、ちょうど我が家はキッチンのリフォームをしていて、私は初めて自分のためにキッチンを造るという感動的な体験をすることができました。我ながら、「ある物で何とかしていく」という人生を歩んで来たと思うけど、自分の理想とするキッチンを持てたことで、何かに合わせるのではなく、自分のこだわりを貫いていいんだという軸が、改めてできたような気がする。スープ・ポタジェを始めたから実現したリフォームであるのは間違いないことで、本当に夫には感謝感謝です。
リフォームが終わってひと段落した頃、ポタジェでは、私が毎年楽しみにしている赤ネギの収穫シーズンでした。赤ネギは、隣接する茨城県で古くから栽培されていて、通常白くなる部分が真っ赤になる品種。加熱するとトロトロに甘くなることから「レッド・ポワロー」とも呼ばれているの。スープづくりにおいてポワローとは、優しい風味をもたらしてくれる清楚な名脇役。タマネギのような甘みが少なく、とにかく品がいい。そのポワローの日本版と言える赤ネギの風味がすごく気に入っていて、毎年栽培しています。今日は、採れたのフレッシュな赤ネギを、青森県産の鶏の骨付きもも肉と合わせたスープに仕立てました。骨付きもも肉はカットせず、大きいままをお鍋で低温でじっくりと焼き、鶏肉の香りが出たら水と白ワインを加えて30分以上コトコト煮ました。味つけは沖縄のぬちまーすのみ。最後に赤ネギをサッと煮たら火を止めて出来上がり。鶏肉をほぐしてお皿に盛りつけてから、黒胡椒を挽きました。白湯のようにコラーゲンがしみ出たスープが赤ネギに染み込んでとにかく絶品。寒くなる季節にもってこいの一品です。
それでは、どうぞ召し上がれ。
「赤ネギと骨付き鶏のスープ」
五十嵐 洋子