Word 13 少し晴れる雲
私の心にはまだ少し雲がかかっている。
私達は森を進む。何事も無ければ3時間程で塔には着くらしい。休み無く歩けばの話。
何回休憩しただろうか。少し歩いては休憩。少し歩いては休憩。
私はたまらなくなってしまっていた。
「イズ?これって休まなくて良くない?」
「ラヴ?さっき休んだじゃない?」
何回言っただろう。
「魔女の護衛なんて神代七にとって最大のイベントなんでしゅよ」
「足が棒になっちゃうわ!BOUNI!」
歴代の神代七は護衛の任務に就く事は無かった。もちろん双子が旅立つ事が無かったから。
双子はそれだけ稀有でイレギュラーな存在。
改めて自分という存在が何なのか分からなくなる。
妹も含め私達家族が異質でこの世界に存在していて良いモノなのかと感じてしまう。
自分の歩き出した道に後悔は無いけれどソレとはまた別の疑問なんだ。
石しかない川に浮かべられた葉っぱはどんな気持ちなのだろう?
赤色に混ぜられた青色はどんな気持ちなのだろう?
それでも私達は生きていて自分達の人生を歩かなくてはならない。
それが当たり前で最初から敷かれているレールなのだから。
そこから外れる事は原則許されていないのだ。
私は不死らしいけどもし自ら命を絶ったらどうなるのだろう。
この体にその指令を出す勇気は持っていないけれど。
「何も無ければピクニック気分なんスけどね」
「全くじゃ。お好み焼き焼いたり楽しいじゃろうの」
【わたしもお料理持ってきたら良かったですかね?ORYOURI!】
「もう突っ込むのも追い付かないわよハルカ。HARUKA!」
「相変わらずだねぇ」
「ホントにな」
賑やかな人達だな。この人達もきっと何かを背負っているんだろうな。聞く勇気も持ち合わせてないけど。
「焦らなくて良いぞ」
G太郎が私の心を見透かした様に話しかけてきた。
「私生きてて良いのかな」
本心だった。自分の異質さに今更怖気づいてますなんて恥ずかしいけれど。
「生きていてダメな理由があるのか?」
威圧的な見た目と反して優しい人なんだろう。
「ダメな理由は無いんだろうけど生きてて良い理由も見つけられなくて」
「そもそも双子は不死だっつー話だろ?」
「確かめた事はないけどそうみたい」
G太郎は頭を掻きながらもっそりと口を開いた。
「目的があって歩くのと目的なく歩くのとどっちが楽しいと思う?」
「俺はさ。どっちも楽しいと思うんだよ」
「目的あって歩くのは楽しいよな?でも歩いてりゃ目的が見つかったり目的が変わったりするのも
楽しいだろ」
私は黙って聞く。
「特にベルの場合はさ。世界滅亡するかもしれません。はい。分かりましたってワケにはいかないだろう。いきなりそんなデカい荷物渡されても困るだけだしな」
「それが一番かも。妹に会っても普通に生活が出来るワケじゃなさそうだし」
いきなりパスされるには大きく重たく実感が湧かなさ過ぎる荷物だった。
「良いのか悪いのかは自分で判断してくれたら良いんだけどさ。人生生きづらい事なんてよくあるんだよ。そういう時は立ち向かって乗り越えるか逃げて迂回するか。その二つしかないと俺は思うんだよ」
G太郎はこちらを見て何かを察した様に続けた。
「逃げるのは別に悪い事じゃないと俺は思ってる。物事の向き合い方なんてホントに人それぞれだしな。そりゃ立ち向かって障害をぶち壊して先に進むのがカッコよくて強い生き方なのかもしれないけど人には得意、不得意があるんだ。そういう形に出来てない奴が無理したら無理しただけ心にクルんだよ」
逃げる事に後ろめたさを感じた私の心を見透かした答えだった。G太郎の言う事も一理あるとは思った。でも逃げて逃げ切れる事とそうでない事がある。私の場合は後者だ。謳歌をしたい。私が本当に不死なのなら私は死にたいんだ。普通の輪の中に入りたい。特別である事を自覚していなかった私の今までの普通は風に流されて荒波に混ぜられて砕けてしまった。
無自覚を自覚させられる事がこんなにも苦痛で掻き乱される事だとは思わなかった。
誤解しないで欲しいんだけどとG太郎は前置きした。
「答えを知るのが怖いんじゃないだろ?多分。答えを出してその責任を負うのが怖いんだろ。きっと。あー生きるのは選択の連続だ。今日パンにするか米にするかみたいな小さい事から人を生かすか殺すかみたいな大きな事まで全て選択だ。何をどう選んでもその選択は120%正解だ。選んで進んだ先が周りから見ても自分で見ても失敗だったとしてもそれで何の問題も無いんだよ」
「何で?失敗選んだら失敗じゃない」
「失敗をするのが失敗じゃねぇよ。失敗してそこで座り込むのが失敗なんだ」
「どういう事?」
G太郎は私の目を見つめて答えた。
「失敗した先に道が無いって何で思うんだ?」
私はハッとさせられた気がした。失敗してそこで終わりじゃない事は解っていたハズなのに。
「失敗したとしても道はまだ必ず続いてる。そこでさっきの話に戻るワケだ。あのーほら。立ち向かうか逃げるかっていうさ」
「どういう事」
「失敗が足元に転がっていたとしてさ。人生に於いてはそれを迂回なんて出来ねぇんだよ。迂回したつもりでも同じ様な事で失敗がまた訪れる。逃げたら逃げただけ心にチクチク痛みと重みを感じながら生きてくんだ」
「そんなのキツイだけじゃない。謳歌なんてどうやって」
「時間だ。時間が向き合わせてくれる。いつか必ずその逃げた事を痛く感じなくなる時が来る。罪は別だぞ?つまりだ」
「生きてさえいれば必ず向き合って克服するタイミングが来る。つまり障害や失敗は立ち向かって向き合って克服するの1択なんだよ。その為には生きてなきゃいけねぇ。自殺なんて時間の無駄だ」
「G太郎みたいに強い人ばかりじゃないよ」
「違うぞ」
?何が違うの?
「俺は自殺しようとした事が何回もある。だからそう思うんだよ。そもそも弱いから自殺するワケでもねぇ」
そうなの?
「でも虐められたり誰からも必要とされていなかったら?」
「誰かに頼る。人は独りで生きていける程強くねぇからな。んでこう言うんだろ?頼る人がいなかったら?って」
悔しいが正解。G太郎は口元を少しほころばせながら続けた。
「俺はだぞ?時間に頼る。というか頼った。いつかそれが過去になって乗り越えられる様になるのを時間に任せた。それに死にたいけど死にたくなかったしな。それに」
「自殺しようとする奴はきっと誰より生きたい奴だ。だから生きづらくて苦しむ。最初から諦めてるなら苦しむ事もないしな。自殺が選択肢にあれど生きようとしてんだ。きっとな」
私は返す言葉が無かった。G太郎の理論が整然としているのかは分からない。私には。でも神の代わりと呼ばれる彼もしっかりと人間であり悩んでいて、いや。今も悩んでいるのだろう。きっと何かあって彼も生きづらくてもがいているんだろう。
何も解決はしていない。でもさっきよりもずっと晴れやかだった。G太郎の心に触れた事で少し親近感が湧いたせいかもしれない。
「私も生きていて良いんだよね。謳歌して良いんだよね」
「生きたいならそれが理由だ。焦るなよ」
少しだけ雲は晴れた。
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