Word 10 私の。
ハルカが片付けをしている間。
G太郎に連れられて両足の無い男が地下室に運ばれて来た。
「連れて来たぞ」
「ご苦労でしゅ。そこに」
イズが指し示した所は椅子があるわけでもないレンガの床だった。
「ジョー?治療してやりなよぉ?」
キャピタルが男の方を憐れみに満ちた目で見ながら話した。
「了解ッス!ワード解凍!H!(ヒーリング)!」
男の両足が一瞬で生えてきた。言葉にするとそうなんだけど。最初からあったんじゃないのって位一瞬で。元に戻った。
「これがジョーのワードよ。傷を一瞬で治す力じゃ」
フェイタルレッドが教えてくれた。
「相変わらず美しい力だわ。DAWA!」
ラヴが話す。
でも神代七なのにワード一つしか使わないんだ。
「もちろん一文字ずつも使えるッスよ!俺のもう一文字は使い勝手が悪過ぎるんで大体一文字の使用ッス!」
ジョーが私の疑問に答えてくれた。一文字ずつも出来るんだ。そりゃそうかも。
「さて。傷は治したでしゅ。あなたはまた謳歌のチャンスを得た事になりましゅ」
いつもより冷たいイズの声。
「その拾った命をどう使うかはあなた次第でしゅ。さっきハルカが言った事覚えていましゅか?」
イズの冷たい話し方を聞いた時、ふと幼い頃友達の家の玄関のドアノブを思い出した。
獅子の彫刻が立体的に彫ってあって丁度それが私の目線の高さにあった。
威圧的な表情で牙を剥いてこちらを見ていて怖かった。
人を招き入れる入口に何故侵入を拒む様なモノを付けるのか不思議だった。
今のイズは静かに牙を剥く獅子の様だった。
冷酷に表情一つ変えず牙を剥いていた。
「俺が拾った命をどう使おうが勝手だよな?」
男が口を開く。
「それは好きにすると良いでしゅ」
イズは変わらない口調で答える。
「ワード解凍!I!」
男は透明になった。ホントにいなくなった。よくハルカこんなの500人と戦ったね。
やれやれといったようにため息を吐きながらイズは声を出した。
「G太郎」
「あいよ。ワード解凍。G(グラビティ)」
「ぐわぁぁぁ」
バキっという男が先か叫び声が先か。
インビジブルの男が姿を現した。右手が地面にめり込んでいる。
「何だなんだごれぇぇ!!右手が重いぃ!」
「察しろよ。重いんだからワードの能力だ!コイツ!重力を!って察しろ」
「静かにして下しゃい」
イズがG太郎に言った。
「質問しましゅ。あなたが支援者なのは分かりましゅ。トップにビサイズがいましゅね?ソイツはCのビサイズでしゅか?」
男は苦しそうにしながらも口を開こうとはしない。
冷徹な獅子は自分の剣を抜きさらに続ける。
「この剣。5トンありましゅ。私の細腕で扱うと」
そこまで言ってイズは剣を離した。
男の足は再び切断された。剣は見事に地面にめり込んでいる。どうやら5トンというのは嘘ではないらしい。
「ぎゃぁぁぁぁ」
男の叫び声が地下室に響いた。
「女の子に何回も同じ事を言わせるもんじゃあないよぉ。ボクの経験上良いことになった試しがないからさぁ」
キャピタルが男にウィンクしながら話しかける。
当然聞こえていない。
「ジョー」
「はいッス!H!(ヒーリング)」
再び男に足が戻った。
「話す気になりましたか?」
獅子の目はまだ冷徹をまとったまま男を見下ろしている。
「誰がお前らに」
いつの間にかイズの手に握られていた剣が再び男の足に落とされる。
何だか違う気がする。ほとんど無意識に私は言葉を紡いでいた。
「ねぇ!流石にやり過ぎなんじゃない?神様の代行かもしれないけど何の権限があって」
私の言葉が虚しく部屋に響いている。多分ここにいる人の中でそう思ってるのは私だけと気付いて途中で言葉を紡ぐのを辞めた。
でもやっぱり違う。私は再び口を開いた。
「謳歌のチャンスは誰にでもあるもので誰かに与えられたり奪われたりして良いモノじゃないはず。やっぱり私は納得は出来ない。仲良くしてもらってるし、護ってももらったけど私の思う謳歌とは違う気がする。だから私の目の前でこれはして欲しくない」
獅子の目が変わった。
「ベルがそう言うなら分かったでしゅ。申し訳なかったでしゅ」
「お前良かったな。ベルに感謝しろよ」
「ホンマじゃで。ウチの神輿が慈悲に溢れとって命拾いしたの」
「美しいわ。アタシの次の次の次くらいにはね。でもちょいと甘い気もするけどね。ATASINO!」
「ホント優しいッス!メリーさんの作るクッキー位優しいッス!」
「クッキーに例えても分かりづらいねぇ。でもホント優しい女神様だよぉ。ベルちゃんからもコイツに一言言ってやったらどうかなぁ?」
あれ?あっさり。何で?それで良いの?
「あんた。優しいんだな。自分を狙って来た奴をかばうなんて」
男が口を開いた。依然両足は切断されたままで苦しそうにしている。
「確かに。Cのワードのインテレクト。いや。ビサイズに言われて来た。アジトの場所までは言えない。仲間を危険に晒す訳にはいかないからな」
「そうでしゅか。ご協力ありがとうございましゅ。ジョー手当てを」
イズの目は優しさの中に警告を交えた色で男を見ていた。
「了解ッス」
男は立ち上がった。
「魔女よ。ベルといったか。あんたには恩が出来てしまった。俺はコレで退散する。あんたの優しさに感謝する」
「いえ。私は…」
「俺はあんたをもう狙わない。命を。謳歌を拾われたからな。ただ支援者はあんたを追う。それだけは忘れるな。あんたの謳歌に幸あれ」
男は私に感謝と現実を伝えた。
「支援者かぁ。ホント厄介な集団になっちまったよねぇ。ボクの知る限りじゃ出来た当時とは思想が大分違うけどさぁ」
「Cのビサイズが舵取りをし始めてからだ。まぁアイツの言う事が間違っているとも思わないが。魔女がホントにいるかどうか分からない中で巡って来たチャンスだしな」
「今の支援者は魔女を殺す事にこだわり過ぎてるだろ」
何の話なんだろう。私に関係あるのに全く分からない。
「魔女が一つになる時世界が終わる。聞いた事はあるじゃろ?」
フェイタルレッドが私に耳打ちしてきた。
「あっ。うん。聞いた事は」
「学校でマリアンさんがどれだけ教えたのか知らんけどな」
フェイタルレッドは続ける。
「ワードには一文字だけ欠けとるワードがあるんよ。んー。言い方替えりゃ魔女専用のワードっちゅうか」
それ。私じゃない。
「それは私のワードっていう事?」
「そうじゃ。支援者は双子が一つに戻って殺せる様になったら殺そうとする集団」
「あんた話下手ね」
ラヴが割って入った。
「分かりやすく言うと。双子が一つになった時に魔女の生と死の歌が揃う。そこから不死性は失われ、殺せる様になる。双子の持つワードは世界を滅ぼすと言われてるわ。それをさせまいとする集団が支援者なのよ。双子の生と死の歌に刻まれているワードは同じ文字が一つずつ。つまり双子は一つに戻る時ビサイズになる。その文字までは分かってるの。でも効果が分からない。本当に世界を滅ぼすだけの力があるのかも分からない。大昔の本当か嘘か分からない文献にしか載っていないから。BUNKEN!」
ラヴの説明が分かり易いとも思わなかったけど何となく分かった。
でも私の気になったのはそこではなかった。
「私のワード知っているの?」
ボヤけて見えない私のワード。それの手がかり。聞かずにいられないよ。
ラヴは天井を見上げながら言った。
「R」
えっ?
「Rよ。魔女だけが持つとされるワード。R。AAAARU!」
(R)それが私のワード。まだボヤけて見えないしその力を使う事も出来ない。でも私はホッとしていた。私にも謳歌をする事が出来るのだと。私だけがワードレスの状態から抜け出せるのだと。
私達が話している間に男は部屋から消えていた。
【片付け終わりました。新築かってくらいの食べ残し無し!血の後無し!腕一本落ちてません!新築に腕落ちてないか!流石に!】
ホワイトボードを持ったハルカが地下室の扉の前でニコニコしている。
さっきまでバトルしていたと思えない表情で。
「ハルカ。ありがとう」
私は感謝を伝える。ハルカはホワイトボードに何か書いてこちらに見せて来た。
【怖かったですか?怖かったですよね?わたしの事嫌いにならないで下さい。でもわたし達のこの力はあなたに向かうモノではなく】
「それさっき誰か言ってたッス!」
ジョー。言わなくて良いんだよ。
【えっ!マジ!二番煎じ!恥ずかしい!わたしが元祖みたいな顔で披露したの恥ずかしい!ヘソでチャイ沸かす!】
なにそれハルカ。でも良かった。いつものハルカだ。
「皆しゃん」
イズが話を始める。
「予想より早く支援者が動きだしたでしゅ。多少派手にはなりましたが顔合わせも終わったので明日の朝出発しようと思いましゅ。各自準備は出来てましゅか?」
「オブジェクショーン!アタシまだ!戦闘服に着替えて来たい!ダッシュで行くから!あとトランプしたい!持って来るから!ダッシュで!ATASIMADA!」
それだけ言うとラヴは地下室からダッシュして出て行った。
【では上に戻りましょうか。ダッシュで!】
皆ゾロゾロと地下室から出て行く。ダッシュじゃなく。
この人達。ユルいのかなんなのか分からない。でもきっと余裕なんだろう。絶対に勝てる。絶対に大丈夫。みたいな余裕が感じられる。
【ベルさん。見てくれてありがとうございました。さっきのがわたしのワード。ファンタジックではあれど決して誇れない見た目だったと思います。それでも見てくれてありがとうございました】
ハルカ。そんな事ないよ。
「私こそ。護ってくれてありがとう」
【わたし達はあなたを護ります。あなたはあなたの謳歌を。ダッシュで!】
うん。ダッシュはしないけどありがとうハルカ。
さっきまでの戦いが嘘の様にホールはキレイになっていた。
イズがホールの電気をつけてチェックしたが全く戦いの痕跡は残っていなかった。
チェックし終えた頃。再び扉が開く。
ラヴが戦闘服に着替えて戻って来た。早い。確かにダッシュしたんだろう。それより。派手。
金色の上下セットアップ。上は襟が頬まで隠れる程に長く、裾はフリンジ。下は極端過ぎる程にフレアのベルボトム。アフロと相まってダンスフロアの妖精みたい。
「持って来たわよ。人生ゲーム。JINSEI!」
トランプじゃなかったっけ?
夜はまだ長そうだよ。お母さん。
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