聞いた話 1
はじめまして。
白根 裕二
と申します。僕は人から色んな話を聞いて回るのが好きな性分でして。
大体呑み屋とかで隣になった人から聞いたり、友達の友達から聞いたり。色々な話を聞くのが好きなんですよね。
面白い話から男女の話。そりゃあ色々な話が聞けるんですよ。
その中でも怖い話ってやつに心躍るんですよね。
幽霊がーとか人間がーとか色んな怖い話が好きなんですよ。
今から書かせて頂くのは呑み屋で独りで呑まれてた29歳の女性から聞かせてもらった話です。
それではご覧下さい。
これは私が大学の時に聞いた話なんですよ。
友達が当時付き合っていた彼と別れてホントに何となく傷心旅行?ってほどでも無いんですけどふらーっと何処かへ行きたくなったんです。
でも学生でお金も無いしそこまで遠くに行く事も出来なくて。
なんとなく景色が良くてのんびり出来そうなトコが良いなと思ったんですよ。
そうなると田舎だなって思って。
隣の県に思い描いてるのと近い景色を見つけたんです。
なんか惹きつけられてここに行こう!って思ったんですよ。
色々調べていたらソコの近くに泊まるトコも何箇所かあるしカフェもあったり何よりそこまでお値段も高くなくて。その日に宿泊施設も予約して。
当日に朝早めに出て現地に着いたのが昼前くらい。
思ってた通りのキレイな里山の景色が広がっていて田舎特有の緑の匂い?なんですかね。懐かしい様な匂いもして。傷心旅行で使うのがもったいないなーなんて思ったりして。
少し変なのって思ったのが老人が多かったんですよ。観光客っぽい人を除けば結構な割合でお年寄りばかりいて。若い人は10数人って感じでしたかね。少し山奥の集落だからかなって特に気にも留めて無かったんですよ。
とりあえず宿泊施設にチェックインしようと思って施設に到着したら普通に立派な感じの旅館。2階もあるみたいでした。
自動ドアをくぐって施設に入るとこれまたお年寄りが多くて。若い人も多少働いているみたいでしたけどお年寄りが多い印象でしたね。
受付してもらってる時に変な事を聞かれたんですよ。
「女性お一人でお間違えないですか?」
「はい」
「本当に女性お一人でお間違えないですか?」
そこ重要?と思ったんですけど受付の人もおばあさん寄りのおばさんだったし特に気にせず
「そうですよ」
と答えたんです。そしたら受付の人はにっこり笑って
「お一人なら良かったです。女性のお一人は珍しくて。どうぞゆっくりなさって下さいね」
と言われて部屋の鍵を預かり館内の案内をされて部屋に通されたんです。お一人なら良かった?どういう意味か分からなかったですけどね。
違和感。何がって部屋に窓が無いんですよ。外の景色が見えない。というか窓の無い部屋なんてある?と。しかも旅館で。そのくせ部屋の造りは1人客に貸すには広く豪華。
「窓無いんですか?」
「申し訳ありません。生憎本日満室でして。こちらのお部屋しかないんですよ。その代わりと言ったらアレなんですがお料理を一番上のモノでご用意させてもらえたらと」
田舎特有なのか親しみやすさとも図々しさともとれる言い方に少しムッとしたんですけど現地まで来て帰るのもなと思ってそれを受け入れたんですよ。
「ありがとうございます。それでは本当に本当にごゆっくりなさって下さいね」
そんな本当にを重ねなくてもゆっくりするよ。って正直思いましたけど。
夕食までは近くを散策したりカフェに行ったりそれなりに思い描いた事が出来ました。
夕食の時の話です。確かに一番良い料理を出すと言ってただけあってとても美味しかったです。ホームページの料理の写真よりも豪華だったし窓が無い事を除けばお部屋も素敵だしそれなりにこの旅行に満足していました。
「お食事済まれましたか?」
中居のおばさんが食器を下げに来てくれました。
「はい。とっても美味しかったです」
「それは良かったです」
少し昔話でもとおばさんが話始めました。
それは御役目という言葉について。
この辺りでは御役目は
負厄女
と書いていた時期があるらしい。
この地域ではかつて性交は不浄とされていて。出産は痛みを伴うから神様からの罰であるという考えから1人の女性が担うという風習があったと。
負厄女は出産を担わされた女性の役職の名前だと。負厄女に選ばれた人はある意味神聖視されていて独りで神罰を受け入れてくれる為それなりに豪勢な暮らしが出来たと。
でも独りで何十人も出産するのには限度があった様で定期的に負厄女を交代。すなわち
負厄御免
御役御免
をしていたと。
負厄女を代わるのは先代の最も憎い相手でなければならないと。
急にこんな内容の話をされてかなり驚いてしまって。
「へー。そういう風習があったんですね」
としか答えられなかったんです。
おばさんは笑いながら
「風習っていうのはそう簡単には廃れませんよ。特にこんな田舎じゃ尚更ね」
何度も女性1人かと聞かれた理由。窓の無い部屋。
広くて豪華な部屋。
何となく嫌な予感。数秒後に負厄女となった女の子のお話。
という話を僕聞かせてもらったんですよ。何となく土着のありそうななさそうな話で怖かったんですよね。出産を強要されるなんて理解出来ませんしね。
でもね。話してくれた女性。この話をしてくれた直後に忘れて下さいね。なんて言うんですよ。帰り支度しながら。
「何で忘れなきゃいけないんですか?」
女性はお会計を済ませてこっちに向き直りまして。口元に薄ら笑いを浮かべて言ったんですよ。
「だって私もう負厄御免しましたから」
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