Word 6 神代七・太陽

この街は広くはない。太陽の宮は街の外れに位置している。基本的に皆用が無い限り近付く事はない。
道中ジョーに聞いたのだけど神代七に選ばれると他の人よりもそれはそれは良い暮らしが出来るらしい。
なのでその地位を奪おうと命を狙う者もいるらしい。
万一神代七がそれで敗れた場合勝った者と交代するようだ。ただ伊達に神の代わりの7人を名乗っているワケではない。負けたという記録は残っていない。
神代七は自分で辞めるか寿命で死ぬかどちらかで欠員が出る。
欠員の補充もあっさり行われる様でいなくなった神代七の代わりになる様な者が必ず現れるらしい。
先生みたいな概念的なワードとかドラゴンとかみたいなよく分からない系のワードは強力なワードが多いそうだ。
ジョー曰く2文字持ちのビサイズで2つのアルファベットが同じという事も神代七の条件らしい。ただ唯一歴代神代七でワードが違う者がいる。それが今から会う現神代七太陽・リィズ・イズ。
歴代最年少で神代七になった人らしい。太陽は最も破壊力が高い者が代々就くと言われている。ワードが違ってるのに神代七。さらにそんな破壊力のあるワードって何?気になる事だらけだ。

「さぁ。もうちょいッス」
ジョーはニコニコしながら私に話かけてきた。私より歳上なのにかなり幼い印象。もちろんまだそこまで仲良くはない。
「あそこだよね?」
「そうッス!あっ。ちなみにイズさんは荘厳で威厳溢れる感じの人なんス。爆裂美人さんですけど厳しめなんでそこは許して欲しいッス!」
威厳溢れる感じか。正直助かる。先生といいジョーといいなかなかにゆるい感じがしてしまっている。最初にリーダー的な人がいてくれたら後はビシッとしまるはずだ。
「到着ッスー久々に来たッスけど相変わらず大きいッスね」 
確かに大きい。小ぶりな宮殿の様で宮の名に恥じない造りだ。
「そうなの?私も各宮は見て回った記憶無いけどジョーのもあるんだよね?」
「あるッスけど太陽は別格ッスよ!」
「何が別格なの?」
「太陽だからッス!」
「えっ?だから何が…」
「太陽だからッス!」
うん。これについてはもう良いや。
「じゃあ行くッスよ?俺もドキドキしてるッス!」
ごめんね。私緊張はしてないかな。
ジョーが呼び鈴を鳴らそうとした時だった。
「どうぞお入りくだしゃい。開いてましゅから」
中から声が聞こえた。
どうして分かったの?呼び鈴も鳴らしていないのに?いやそれよりも。
「おっ。じゃあお邪魔しますッス!」
ジョーがドアを開けると明るい吹き抜けのエントランスホール。あら。立派。
目線を吹き抜けから正面に戻すとお手伝いさんらしきメイド服のお婆さんとその少し後に立った若い女性が見えた。
銀色の髪の毛。というか肌見えすぎじゃないですか?と心配になりそうな赤い鎧を身に纏っている。顔立ちは嫌味な程整っていて視線はさすが神代七最強と思わせるだけの力強さと慈しみに満ちている。完璧ってこういう事なんだな。きっと。
「お待ちしておりました。ジョー様。ベル様。よくご決断なさいました。あなたの謳歌に幸あれ。魔女の護衛という一生にあるかどうかという光栄な任務。イズ様も昂りを抑えられないご様子で」
「ばあや」
イズが一言発した。声も可愛らしくて凛々しい。完璧ってこういう事なのね。
「失礼致しました。とにかくイズ様は全力でベル様をお護り致しますのでご安心下さいませ」
「ばあやさん!お久しぶりッス!またご飯食べさせて欲しいッス!ばあやさんの料理最高に美味しかったッスから!」
「暖かいお言葉光栄でございますジョー様。この年寄りに出来る事であればなんなりと」
「ばあや。ジョー」
イズが二言目を発した。確かに荘厳で威厳がある。私もイズと話をしなければ。護衛してもらうのだから。
「イズ様」
私もばあやさんに倣ってイズ様と切り出した。
「イズと」
「はい?」
「イズとお呼びになってくだしゃい。わたくしもベル様でなくベルと呼ぶようにしましゅので」
「はい。じゃあイズ。私はベル。私の謳歌の為に力を貸して下さい」
「もちろんでしゅ。ベルを護る任務。この生でこの栄誉に授かれる事。何よりも光栄でしゅ」
「そんな。栄誉だなんて。こちらこそ神代七に護衛されるなんて光栄です」
「そんな堅い言葉遣いじゃなくて大丈夫でしゅよ。砕けた話し方で。わたくし達はもう友なのでしゅから」
どうしよう。威厳もある。荘厳さもある。加えて美人。
話し方が気になる。
ばあやさんもジョーも気にならないの?何で?
「しゅ」
って言ってるよ?赤ちゃん言葉じゃない?あざといの?それとも素なの?なんなの?
「イズさんお久しぶりッス!相変わらずお綺麗ッス!そして相変わらずの話し方ッス!」
ナイス!ジョーナイス!ドキドキしちゃう位ど真ん中ストレート過ぎて変化球に見える位の球だけどナイス!
「ジョーお久しぶりでしゅ。ストレートに言うその性格も相変わらずでしゅね」
真っ向勝負!打ち返されてるー!ど真ん中ストレートはバックスクリーンに消えていったー!
「ベル」
「はい?」
「あなたは優しいのでしゅね」
「何が?」
「わたくしの喋り方を疑問に思いこそすれ、わたくしに直接尋ねる事は無かった。心遣い痛み入りましゅ」
違うんだよ。ジョーがマウンドに上がったからこうなっただけなの。私も聞きたかったんだから。
「えっと。それは」
答えに困ってると
「良いんでしゅ。みなまで言わずとも。ベルの為にわたくしは剣となり盾となる覚悟でしゅ」
威厳ー!荘厳ー!赤ちゃん言葉ー!でも良い人だー! 
「ばあや。今日はお二人共ここに泊まりましゅ。食事の準備を。わたくしは自室に戻って着替えを済ませてきましゅ」
「かしこまりました」
イズはエントランスホールの奥の階段を登って二階の部屋に消えて行った。
「いやー急に泊めてもらう事になってすいませんッス!でもばあやさんの料理にありつけるのはマジで嬉しいッス!」
「イズ様は最初からそのおつもりだった様ですよ。昨日双子が来るんだー楽しみー鎧着て待ってた方が雰囲気出るよね?立ち位置こんな感じで良いかな?楽しみー!お友達になれるかなー?ってはしゃいでおられましたので」
ばあやさん。主の恥ずかしいトコバラしたらダメなんじゃないの?
「先程の台詞も全てリハーサル通りですのでね。かわいい女の子ですよ。イズ様は」
ばあやさん。かわいい女の子ね。それは同感だわ。お友達にだってなれるわよ。イズ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?