島木赤彦の詩「つらら」―草家軒ばに
須田実『戦後国語授業研究史』を読んでいたら、島木赤彦の詩「つらら」に出会った(148-157頁)。
歌人として有名な島木赤彦が詩も書いていたとは知らなかった。昔は(1970年頃?)、小学校5年生用の国語教科書に載っていたようだ。
曲がつけられ、童謡としても親しまれたとのこと。でも聞いたことはない。
特になんということもない詩だと思ったが、何度か読んでいるうちに少し愛着が湧いてきた。
■島木赤彦「つらら」
■語句の説明
草家――草屋とも書く。草ぶきの家。
軒ば――軒端と書く。軒先。
氷柱――教科書版では「つらら」と平仮名になっている。ほかにも全体的に読みやすくなっている。
郵便くばり――郵便配達の人
■解釈
第1連。草葺きの家につららが下がったという事実が述べられている。「つらら」というこの詩のトピック(話題)を提示している。
客観的な描写で、僕には大人の作者が外から草家とつららを眺めているように思える。作者は子供時代の家を思い浮かべる。そして一気に思い出の中の子供となる。作者が男性なので、男の子としておこう。
第2連以降、視点は子供の側に移る。子供は家の内からつららを見ている(ように思う)。
起きてみたら、一晩のうちにつららがずいぶん長くなっている。屋根の高さ(低さ)と比べて、つららの長さを目で測る。へえー、ずいぶん長くなったぞ、と思う。
第3連。「氷柱つらつら」と調子がいいが、「つら」は「連、列」の意で、いくつも連なっていることをいっているのだろう。それらに日の光が当たってきらきら光る。へえ、光があたるとこんなにもきらめくんだ、きれいだな、と思う。
第4連。光がつららに当たって、家の障子につららの影ができる。つららは透明だが、一様ではないので、微妙な形の影ができる。へえ、つららっておもしろい影を作るんだ、と思う。
第5連。やがて郵便屋さんがやってくる。雪がたくさん積もっているので、つららが頭にぶつかりそうだ。男の子は、つららは長いぞ、郵便屋さんはどうするんだろう、と思って見ている。
第6連。すると郵便屋さんは何ごともないかのように、ひょいと頭を下げてつららをよける。へえー、つららを折ったりせずに、くぐるんだ、と思う。いつもとは違う郵便屋さんの動作を面白がっている。
詩自体は坦々と事実を述べているだけだ。しかし、ここにはつららを観察してあれこれ思っている子供の好奇心に満ちた目がある。
■おわりに
僕は雪国に育ったので、雪にまつわる詩には弱い。
この詩を読んでいると、僕もまたこんなふうにつららを見ていたんじゃなかったかな、と思う。本当にそうだったかどうかはよく覚えていないが、これが僕の子供の頃の思い出になる。
■参考文献
『赤彦全集』第六巻、岩波書店、1969(再版)
須田実『戦後国語授業研究史』明治図書、1997
「島木赤彦住居(柿蔭山房)」、2022年3月2日閲覧http://www.town.shimosuwa.lg.jp/www/contents/1001000000747/index.html