不登校の為の自治体運営版フリースクール「郊外適応指導教室」があまりに「郊外」過ぎた、その結末は?
長女クラレは、中学2年生の2学期も後半に差し掛かっていた。
中学校に進学してから、学校に馴染めず先生との相性も合わなかったことで、不登校になった長女クラレに学校以外での居場所を作りたい。
そんな思いから『フリースクール』を検討したものの、自宅から通えそうな民間の『フリースクール』は料金が高過ぎて我が家の家計事情では利用するのは困難だと感じた。
普通に学校へ通える子どもには授業料無償や給食費補助などの公的支援が用意されているのに、学校に行けない子どもはその支援から抜け落ちてしまう。
学校に行けない子どもの居る家庭の方が、子どものサポートで親が働きに出にくく家計は厳しいものになるにもかかわらず、だ。
「学校に行こうとしても、どうしても行けない子どもとその保護者」にとって、それはちょっと不平等じゃないかと感じ、市役所に直談判して行ったが「不登校に対する公的な支援は用意されていない」という回答が返ってきた。
ただ、自治体が運営するフリースクール(郊外適応指導教室)が用意されているという情報を得ることができた。
自治体が運営するフリースクール「郊外適応指導教室」には次のようなメリットがある。
●現在通っている公立中学校と連携して通うことができる
●学校と郊外適応指導教室(フリースクール)と家庭の3者間で子どもに対するサポートや情報共有がスムーズにできる
●郊外適応指導教室に通うことで、学校に通っているのと同じ出席扱いになる
●公立なので料金もかからない。(特別な行事や課外活動を行う時は交通費や実費が必要となる)
さらに学校と全く違う環境の場所に行くことは、クラレが望んでいる「自分のことを知らない場所に行って、本当の自分を出したい」ができる場所だとも思えた。
クラレにとっても、保護者にとってもメリットしかないと思えたので、すぐに市役所から学校へ連絡を入れてもらい、郊外適応指導教室へ繋げてもらえるよう手続きを進めてもらうことにした。
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学校との連携
市の教育相談担当職員から中学校へ連絡を入れてもらい、その日のうちにクラレの通う中学校へ出向いて郊外適応指導教室へ繋げてもらえるよう相談に行った。
市役所から事前に連絡してもらっていたこともあり、スムーズに手続きは進めてもらえることになった。
これまでに学校から郊外適応指導教室(フリースクール)へのアナウンスがなかったことを先生に聞いてみたのだが
「クラレさんはまだその段階ではないと判断していました。」
と返ってきた。
じゃあいつ、どの段階になったら教えてくれてたんだ??
もう中学2年の2学期(しかも後半)ですけれども??
疑問に思ったがそれ以上は突っ込まなかった。
ただ中学校の先生への信頼感はまた一つ減った。
やはり学校任せにはしていられない。
必要な情報は自分で探して見つけるしかないと悟った。
とにかく今はクラレを郊外適応指導教室(フリースクール)に繋げることが最優先なので、話を先に進めてもらうしかない。
さっそく見学に行けそうな日程を先生と調節し、クラレさえ良ければすぐに見学に行けるように段取りを行った。
家に帰り、クラレにフリースクールについて話してみたところ
「どんな子が行ってるん?」
と不安げな様子だ。
「市内のいろんな小・中学校から全部で10人くらいが通ってるらしいよ。クラレと同じような学校に行きにくい子ばっかりやし、気の合う子も居てるんちゃうかな。専任の先生の他に近くの大学からボランティアで来てくれてる学生さんも居てるみたいやし楽しそうやで!」
「ふーん、そうなんや」
「一回見学に行ってみない?」
「・・・うん、わかった。」
ヨシ!(心でガッツポーズ)
翌週、クラレと一緒に郊外適応指導教室へ実際に見学に行ってみることになった。
・・・
見学と体験授業
郊外適応指導教室への見学にはクラレと私、学校の担任の3人で向かうことになった。
現地に到着後、郊外適応指導教室の先生と合流して挨拶を交わす。
名称に「郊外」と付くだけあって、ほぼ山の中で周りには畑や雑木林しかない場所に、その郊外適応指導教室はあった。
自宅からだと車で約15分、自転車(電動)で40分以上はかかる。
しかも山道だ。
公共交通機関は無く、通っている子ども達は全員フリースクールの先生が毎日自宅近くまで車で送迎してくれるとのこと。
車での送迎はありがたいが、遅刻できないという不安がどうしても付きまとう。
朝の迎えの時間に間に合わない場合は自力で行くしかなくなるが、自家用車がないと難しい。
我が家の車は、平日は父親が通勤に使っているため使えないのだ。
朝起きにくいクラレにとって「自分で登校時間を決めれない」というのは、かなりハードルが高いように感じてしまった。
ただ、実際に通ってみないことには何とも言えない部分でもある為、とりあえず保留にしておく。
郊外適応指導教室についてのおおまかな説明を受けた後、先生に教室内を案内してもらうことになった。
そもそも立地環境が山の中で、建物自体もかなり古い。
自治体所有の公共施設の一部を間借りして教室にしている様子だった。
ちなみにネット環境(Wi-Fi)もない。(かなりガッカリだ)
会議用の長机が置かれた室内に、小学生から中学生までの5~6人の子ども達が、大学生ボランティアのお兄さんと一緒にトランプをして遊んでいた。
まぁ、楽しそうではある。
郊外適応指導教室が開校されるのは、週の平日3日間だけで、毎日のスケジュールは以下のような感じだ。
●9時~10時:自由時間(学生ボランティアや先生と遊ぶ)
●10時~11時半:学習(それぞれ個別にやりたいことをやる)
●11時半~12時:昼食(各自持参)
●12時~12時半:外遊び(運動場)
●12時半~13時半:自由時間(ゲームをしたり、スポーツをしたり)
月に何回かはイベントが行われ、季節に応じた課外活動やキャンプ、調理実習などもある。
他人と関わり、コミュニケーションをとる中で社会性を育てていくことを目標としていると説明を受けた。
この日は体験授業として午前中の学習時間だけ、クラレも他の子ども達と一緒に教室で過ごした。
体験終了後、クラレに感想を聞いてみた。
「うーん・・・よく分からん」
1時間ちょっとじゃ、そうだよな。
でもイヤな感じでもなさそうなので、とりあえず通ってみるしかないなと思った。
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郊外適応指導教室への登校、そして・・・
郊外適応指導教室(フリースクール)の見学と体験授業を終え、クラレ自身の反応も嫌ではなさそうなので、翌週から実際に通ってみることになった。
朝の迎えの時間が当日の8時頃にメールで送られてくるので、その時間を見て遅れないように準備しなくてはならない。
クラレにとって、朝起きれるかが一番のハードルだ。
登校初日の朝。
クラレは起きることができた。
「来てる子全員と仲良くなる自信があるわ。」
なんだか妙に自信に満ちた様子に、期待したい気持ちと、心配な気持ちが入り混ざった複雑な気持ちになるが、とにかく応援したい。
どうかクラレに合う友達がいますように。
そう願いクラレを送り出した。
午後2時頃、帰宅したクラレに感想を聞いてみた。
「一人の子と卓球して楽しかった。次も絶対に来てって言われてる。」
よかった!もしかしたらここがクラレの居場所になるかもしれない!
私は期待した。
2回目の登校の朝。
クラレはなかなか起きなかったが、なんとか迎えの車が来る時間までにはギリギリ間に合った。
「今日も卓球できたらいいね。」
「うん。」
「楽しんできてね!」
と送り出した。
1回目と同じく、午後2時頃に帰宅。
「今日も卓球した?」
「・・・今日はその子いなかった。」
「そうなんや。他の子とは話せた?」
「話したいて思う子がいない。小学生ばっかりやし。みんなダサい。」
郊外適応指導教室に通う子たちは、それぞれが学校に通いにくい問題を抱えているので、毎回来ている訳ではないだろう。
小学生から中学生まで学年もバラバラだ。
まだ2回行っただけだが、雲行きが怪しくなってきたように感じた。
3回目の登校の朝。
クラレは起きない。
何度も声をかけるが反応がない。
クラレは布団から出ることはなく、この日は行けなかった。
「つまらない。あそこに来てる子とは話したくない。」
「まだ2回しか行ってないし、まだ会ってない子もいるやろ。もう少し行ってみたら変わるんじゃない?」
クラレはそれ以上何も言うことはなかった。
翌週の登校日の朝。
クラレは起きない。
この日もクラレは布団に入ったまま、起きなかった。
「一緒に卓球した子がクラレを待ってるんじゃない?」
「もういい。めんどくさい。行きたくない。」
結局クラレは郊外適応指導教室に2回行っただけで、その後は行くことはなかった。
郊外適応指導教室は、自治体運営のフリースクールという位置づけで、現在在籍している学校と同じ扱いで通えたり、費用面でも安心というメリットはあるが、子ども一人一人の問題に対して柔軟に対応できるかというと、難しいと言わざるを得なかった。
クラレの場合は自宅からも遠く、朝の送迎で決められた時間でしか登校する手段がないという時点で、だいぶ詰んでいたのだが、そのデメリットを超える出会いや魅力があるかもしれないと期待していた。
でもそんな都合のいい状況が訪れることはなく、郊外適応指導教室もクラレの居場所には成り得なかった。
その後、中学2年生の3学期になってもクラレの状況は変わることなく、学校には6時間目だけ行って、すぐに帰ってきたり(家のルールで学校に行くとスマホが使えるようになるから)、休んだりを繰り返していた。
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