7回目の核実験で何が起きるか
北朝鮮の核、ミサイルには慣れっこになってしまった感があるが、当面は緊張が高まるかもしれない。それを感じさせたのが金正恩(キム・ジョンウン)総書記のウラニウム濃縮施設の視察だった。
発表は突然だった。9月13日、北朝鮮メディアが「核武器研究所と武器級核物質生産基地を現地指導された」と報道したのだ。
板張りの床の上に、なにやら白っぽい管がぎっしりと並び、チューブでつなげられている。正恩氏は自慢げにこの施設の中を歩いているシーンが労働新聞に掲載された。
北朝鮮が自ら認めたように、これは核武器(兵器のこと)の原料となるウラニウムを生産する施設だ。遠心分離器が少なくとも2000個並んでいるという。
北朝鮮が核開発の心臓部であるウラン濃縮施設の内部を公開するのは極めて異例だ。
濃縮施設は降仙所在か
ウランの濃縮方法には、ガス拡散法と遠心分離法の2種類がある。多くの国は、電力消費が少なく、比較的小規模でも経済性が得られる遠心分離法を採用している。北朝鮮も同様だ。
この三施設は、原爆の核燃料を製造するのに必要不可欠な施設で、日本が「潜在的核保有国」とされるゆえんだ。いざとなったら核を製造する材料は持っている。
それは衆議院本会議のことです。1954年3月4日、改進党の小山倉之助議員が、原子炉構築予算案の提案趣旨演説で「原子兵器を理解し」「これを使用する能力を持つ」ために予算案を上程する、と述べた。
これ以降は、政治家も科学者も技術者も、公式な場ではロを閉ざし、核の軍事利用については、最近まで誰も語っていない。
1955年に、中曽根康弘氏が中心になって、「原子力基本法」を成立させ、それから原子力の研究,開発・利用は、一応「平和の目的」に限られることになっている。
ウラン濃縮は核兵器開発に利用可能な技術であり、国際的な管理下に置かれているが、北朝鮮はお構いなしで開発に取り組んでいる。
北朝鮮は、約70キログラムのプルトニウムを保有していると推定されている。これは、核兵器12個を製造できる量だ。北朝鮮は計1万~1万2000台の遠心分離機を保有しているとの情報もある。
北朝鮮からの報道は、視察した施設の場所に言及していない。北朝鮮は平安北道(ピョンアンプクト)の寧辺(ニョンビョン)という場所にもウラン濃縮施設がある。ここは2010年に米国の核物理学者に公開しているが、今回の場所とは違うようだ。
韓国の専門家は首都平壌郊外の降仙(カンソン)にある未申告の施設ではないかと指摘している。
この施設を「フル稼働」すれば、北朝鮮は年間最大10個の核弾頭を確保できるとの指摘もある。数字だけではピンとこないが、要するに、すでに核兵器を安定的に製造できる能力を持っているということだ。
正恩氏は2022年末の党会議で核弾頭の保有量を「幾何級数的に増やす」との方針を示し、最近の演説でも繰り返し核兵器の増産に言及している。突然の濃縮施設公開、いったい何を狙っているのか。
米大統領選に影響
正恩氏はまず、北朝鮮が米国を含む国際社会に対して核製造能力を誇示し、交渉における影響力を高める狙いがあるとみられる。これまで米国を含む国際社会は、「朝鮮半島の非核化」という表現で、北朝鮮に核兵器を放棄するよう求めて来た。
2019年2月にベトナムのハノイで開かれた朝米首脳会談で、正恩氏は寧辺の核施設を廃棄する代わりに、北朝鮮に対する主な制裁を解除するよう要求した。
ドナルド・トランプ米大統領(当時)は寧辺だけでなく降仙の高濃縮ウラン製造施設まで廃棄するよう要求し、ハノイ会談は結局決裂した。
米国では民主・共和両党の政策綱領から「朝鮮半島非核化」目標が消え、非核化よりも北朝鮮の核能力の管理が必要だとの声が高まっている。11月に予定されている米大統領選挙で新大統領が決まったら、今回公開した濃縮施設を取引の道具として使おうと考えているかもしれない。
つまり、この施設を休止や閉鎖するかわりに、経済制裁の解除を求めるのだ。
事実、正恩氏は視察中、「核武力を中心とした国防力強化は、米国に対応し、牽制しなければならないわれわれの革命の特殊性」だと、米国を強く意識した発言を行っている。
7回目の核実験は10月にも
北朝鮮が米国に対する圧迫の水位を高めるために、韓国への挑発を強める一方、7回目の核実験に踏み切るとの見方も強まっている。北朝鮮は2017年5月の6回目の核実験以降、実験をしていない。韓国政府の高官はテレビ番組で、「有利になると判断すれば米大統領選挙の前後に実験を行う可能性は十分にある」と認めている。
北朝鮮の核実験については、つねに中国がブレーキ役となってきた。中国と北朝鮮は歴史的には同盟関係にあるものの、最近、緊張が高まっている。
最近中国は北朝鮮への輸入品を厳しくチェックしており、国連制裁にひっかかる贅沢品を摘発しているという。「中国は国連制裁の9割を負担し、責任を果たしている」(中国外交関係者)として、米国の外交努力を求めている。
北朝鮮は、ロシアとの関係を強化し、特にウクライナ戦争でロシアに大量の武器を提供している。これは、自国の経済成長のため、朝鮮半島の安定を望む中国にとって頭痛の種だ。
もし7回目の核実験に踏み切れば、中国との関係は決定的に悪化するだろう。しかし、米国内では民主党政権の失政が核実験を招いたとの批判が起き、トランプ氏が有利になるはずだ。核実験を実行するとすれば、選挙前の10月中だろう。
いや、核実験まではできないとの見方もある。あくまで、今回公開したウラン濃縮工場が取引材料だ、との見方だ。
いずれにせよ、しばらく北朝鮮の動向から目を離すことができない情勢になってきた。