
フォルマント兄弟の「和音平均化旋律・運指法計画」で用いられている制約プログラミングについて(4)
フォルマント兄弟の「和音平均化旋律・運指法計画」
2013.2.24 大垣、ソフトピアジャパン:フォルマント兄弟(三輪眞弘+佐近田展康)、山崎雅史
「MIDIアコーディオンによる合成音声の発話及び歌唱の研究」総括報告・シンポジウム
2014.2.22 大垣、ソフトピアジャパン: フォルマント兄弟(三輪眞弘+佐近田展康)、久保田晃弘、福田貴成、山崎雅史
「MIDIアコーディオンによる合成音声の発話及び歌唱の研究」(新しい時空間における表現研究)
日本学術振興会科学研究費補助金研究・基礎研究(C)研究課題番号23520175
2014.2.22の総括報告における発表用スライドは以下からダウンロードできます。
フォルマント兄弟の「和音平均化旋律・運指法計画」への制約プログラミングの適用
2013.2.23の中間報告での発表用スライド・補足資料は以下からダウンロードできます。
フォルマント兄弟の「和音平均化旋律・運指法計画」(スライド)
フォルマント兄弟の「和音平均化旋律・運指法計画」(補足資料)
4.成果と今後の展開
4.1.成果
上述の通り、「和音平均化アルゴリズム」における運指の決定を自動的に行うために、制約プログラミングを 適当できるかどうかの検討および検証を行い、短期間で現実の課題に対する運指案を自動作成することができた。 制約プログラミングの長所として、問題の直感的なモデリングが比較的容易で、かつ求解をするプログラムの プロトタイピングが短時間で書け、比較的短期間のうちに必要最低限の制約を実装して、実データを用いた検証が 開始できるという手軽さがある。今回も基本的なプログラムの完成までに2日、その後、不足していた制約の 追加を数回繰り返し、都度検証を行った。本問題の解決手法として制約プログラミングが 有効であることは示すことができたのではないかと考えている。
4.2.課題
一方残された課題も多い。これまでは制約条件の抽出については明確な方法論によることなく、経験的に 思いつく条件を追加しては改良する手法で進めてきたが、現時点で一定レベルの解が得られるようになったことを 踏まえ、制約条件や解の探索の手法について、より自然な解が得られるように改善を継続するためには、 運指の制約条件について体系的に整理をし、ルールを詳細化していく必要がある。
他方で、規格化・量子化の後の運指を決める制約充足解を求めるプロセスのみに限定しても、特に短時間に ピッチの大きな変動が起きて、手のポジションの移動が生じる部分については、親指を潜らせる運指を許容して 制約非充足になることを回避しているが、問題によっては探索が効率的に行なえずに現実的な時間(例えば 数秒)で解が求まらない場合もある。これは現時点では探索戦略が、時間に対して正順・逆順といった単純な ものであることが原因と思われる。人間が運指を決めるときも、(特に本件のように、人間の生理に必ずしも 従わない、いわゆる「ピアニスティック」でない音の並びの場合には)運指が困難な場所を試行錯誤的に検出して、 そこから解いていくようなやり方を採っているもの思われるため、そうした点に配慮した上で、更なる探索戦略の 改良が必要である。
4.3.確率的手法との組み合わせの可能性
今回取り上げた運指決定問題についても、制約プログラミングのような決定的な手法だけでなく、 統計的な手法を用いることが可能だろう。もっとも、上でも述べたことだが、制約プログラミングと統計的な手法は 相容れないものであるわけではない。例えば制約プログラミングで制約充足解を探索する際に、より好ましい候補を 優先的に選択するために、ピッチの遷移仮定毎に運指の候補の選好度を統計的な手法で求めておき、それを用いて 探索をするといったような手法も考えられる。また、長いピッチの系列の運指を決める際には、運指上の制約が大きな 部分から先に決めていくことで効率的な探索を行うことができるが、そうした求解の困難さについても統計的な 手法との組み合わせによって評価を行えるようにすることが考えられる。
更にはモデル化プロセスにおいて決定的な手法の持つ、全てを明確にルール化して記述しなくてはならないという 実用上の問題を、統計的手法を用いて解決していく方向性(その延長線上に、機械学習の適用等も含まれる) もまた、その必要に応じて検討すべきだろう。
4.4.他の問題への適用可能性
"The Computer Music Tutorial"にも紹介されていることだが、制約プログラミングのコンピュータ音楽に対する 貢献は、今回適用を試みた運指の分野よりも、主としてアルゴリズミック・コンポジションの領域で和声法、対位法、 音楽の文法(従来、楽式論で扱われていた形式にたいする工学的なアプローチ)などを中心になされていることがわかる。 今後は、運指決定について更に改善を加えていくのは勿論だが、アルゴリズミック・コンポジションの他の領域への 制約プログラミングの適用を検討していくことも方向性の一つではないかと考える。
(2014.2.2初稿, 2.9, 11改訂, 2.11公開, 2.14, 2.19加筆・修正, 2025.1.22 noteにて公開)