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フォルマント兄弟の「和音平均化旋律・運指法計画」で用いられている制約プログラミングについて(1)

フォルマント兄弟の「和音平均化旋律・運指法計画」
2013.2.24 大垣、ソフトピアジャパン:フォルマント兄弟(三輪眞弘+佐近田展康)、山崎雅史

「MIDIアコーディオンによる合成音声の発話及び歌唱の研究」総括報告・シンポジウム
2014.2.22 大垣、ソフトピアジャパン: フォルマント兄弟(三輪眞弘+佐近田展康)、久保田晃弘、福田貴成、山崎雅史

「MIDIアコーディオンによる合成音声の発話及び歌唱の研究」(新しい時空間における表現研究)
日本学術振興会科学研究費補助金研究・基礎研究(C)研究課題番号23520175


2014.2.22の総括報告における発表用スライドは以下からダウンロードできます。
フォルマント兄弟の「和音平均化旋律・運指法計画」への制約プログラミングの適用

2013.2.23の中間報告での発表用スライド・補足資料は以下からダウンロードできます。
フォルマント兄弟の「和音平均化旋律・運指法計画」(スライド)
フォルマント兄弟の「和音平均化旋律・運指法計画」(補足資料)



1.はじめに

1.1.「和音平均化旋律・運指法計画」の背景

2012年7月に発表されたMIDIアコーディオンによる合成音声の発話及び歌唱のための「兄弟式日本語ボタン音素変換標準規格」は、 従来のMIDIキーボードにおいて、旋律を受け持つ右手に対して、音素生成を担当する左手で演奏するキーボードに対する音素の 割当の規格である「兄弟式日本語鍵盤音素変換標準規格」に相当する役割をMIDIアコーディオンの左手で演奏するボタンで実現する ための規格であった。それは基本的に日本語のモーラをボタンに割り当てる発想のもので、概ね五十音表をボタンにマップしたものだが、 ボタン数の制約などから、濁音、半濁音、拗音については複数のボタンを押すことで実現するものだったが、その後、母音と子音の 組み合わせをボタンに割り付けることにより、原理的に(というのは、サンプルした音素はあくまでも日本語のものであるからだが) 他の言語にも拡張することが可能となる、より汎用性の高い国際規格も発表されている。

1.2.「和音平均化アルゴリズム」における「運指法」の特殊性

一方、右手が担当するキーボードについては、キーボード演奏によって微分音程を含む旋律の「歌唱」を実現するために、 「和音平均化アルゴリズム」が提唱されている。これは複数のキーを同時に押すことで、和音ではなく、同時に押し下げしたキーの ピッチの平均のピッチが生成されるものであり、常に生成されるのは単旋律となるかわりに、半音以下の1/2半音、1/3半音等の生成を 可能にする。その一方で、同一のピッチを実現するキーの組み合わせは複数考えられるので、演奏にあたっては、どの組み合わせを 用いるかを決める必要がある。このことは一方で、複数の候補の中から運指が容易なものを選択することを可能とするが、他方では、 通常、実現すべき和声と1対1対応の関係にあるキーの組み合わせに対して適切な運指を決定すれば良いところを、実現すべきピッチに 対して1対多の関係にあるキーの組み合わせ候補群から、運指を考慮しつつ適切なキーの組み合わせを選択し、更に、それに対して 原理的には複数可能な運指の候補群から適切なものを求める必要があり、通常の楽曲の運指決定よりも複雑な問題に対応しなくては ならない。キーの組み合わせの選択問題と、選ばれた複数のキーを同時に押さえる運指の選択問題の両方を解くことは 単なる運指の決定に比べて遥かに広い探索空間を相手にした作業となるため、手作業で行うのは非常に手間のかかる作業となっている。

そこで「和音平均化アルゴリズム」による微分音程旋律の運指をコンピュータによって決定する手法を独自に開発する必要性が 出てくる。この課題の解決の手法は色々なものが考えられるだろうが、そのうちの一つが制約プログラミングと呼ばれる手法を 用いたキーの組み合わせと運指を候補の中から探索するプログラムを作成し、実現すべき微分音程を含むピッチの系列を プログラムに与えて実行し、キーの組み合わせと運指の系列を自動的に求めることである。

1.3.本稿の目的と制限

ここでは技術的な正確さは或る程度犠牲にして、制約プログラミングで上記問題を解くためのアプローチの概要を説明するとともに、 制約プログラミングそのものについても若干の説明をすることにする。ただし情報処理技術としての制約プログラミングの紹介や 音楽以外の領域への適用事例については既に多数存在する著作に譲ることにする。

また、(上記の催しの際にも指摘した通り、) 制約プログラミングのコンピュータ音楽に対する寄与については、例えば Curtis Roads, "The Computer Music Tutorial", MIT Press, 1996 (邦訳:「コンピュータ音楽 歴史・テクノロジー・アート」, 訳・監修:青柳龍也, 小坂直敏, 平田圭二, 堀内靖雄, 訳:後藤真孝, 引地孝史, 平野砂峰旅, 松島俊明, 東京電機大学出版局, 2001)のような書籍に要を得た記述があり、参考文献の 紹介もされている(第2章「音楽システムのプログラミング」の「プログラミング言語について」の節、p.p.65-66、および第18章 「アルゴリズム作曲システム」の「決定的プロセスと確率的プロセス」p.689のAmesの「制約下の探索」による対位法の旋律生成の 事例、更に第19章「アルゴリズム作曲の表現と技法」の「生成・検査法」の節の p.740以降、だが特に「制約」の節p.p.743-6は、 まさに制約プログラミングをテーマとした節であり、Levitt の調性的協和に関する制約モデルを例とした紹介や、 Courtot 1992, Ebcioglu 1992への言及が為されている)。

従って、ここでは概説的な紹介はそうした紹介に対する補足をするに留め、フォルマント兄弟や三輪さんの活動に 対してどのような位置づけを占めているのかを素描することにしたい。

(2014.2.2初稿, 2.9, 11改訂, 2.11公開, 2.14, 2.19加筆・修正, 2025.1.16 noteにて公開)

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