マガジンのカバー画像

宵々小灯~2000字以下の掌編小説~

12
「宵々小灯」(よいよいこあかり)と称した、自作の2000字以下小説のまとめです。ツイッターでは「#宵々小灯」で公開しています。フリー朗読台本として公開している作品もありますので、…
運営しているクリエイター

2022年9月の記事一覧

杯持ちの音楽家【短編小説・フリー朗読台本】

 ありふれた国、ありふれた街。  ありふれた人々の中に、常に杯を持ち歩く、奇妙な男が一人いました。  彼の身なりはよくもなく、悪くもなく。  ただ手にした杯だけは、彼が持っているにしては、綺麗に見えるのでした。  一人が言います。 「彼はきっと、聖人なんだよ。だってほら、いつも杯を持っているじゃないか。あれは多分、神聖なものなんだよ」  一人が言います。 「あいつかい? ただの酒飲みだよ。いつも杯持ってるだろ? あれは酒をねだって注いでもらうのに使ってるんだ、俺は見た