杯持ちの音楽家【短編小説・フリー朗読台本】
ありふれた国、ありふれた街。
ありふれた人々の中に、常に杯を持ち歩く、奇妙な男が一人いました。
彼の身なりはよくもなく、悪くもなく。
ただ手にした杯だけは、彼が持っているにしては、綺麗に見えるのでした。
一人が言います。
「彼はきっと、聖人なんだよ。だってほら、いつも杯を持っているじゃないか。あれは多分、神聖なものなんだよ」
一人が言います。
「あいつかい? ただの酒飲みだよ。いつも杯持ってるだろ? あれは酒をねだって注いでもらうのに使ってるんだ、俺は見た