言葉の宝箱 0775【とうてい無理、できないと決めつけてしまう前に、もしかしてこうすればと切り口を探り、ひょっとしてこうすればと膨らませていく】
『もしかして ひょっとして』大崎梢(光文社2020/10/30)
トラブルやたくらみに巻き込まれて、お人好しが右往左往。
誤解も悪意も呑み込んで、奇妙な謎を解き明かす。
にぎやかでアイディアに満ちた、
『小暑』『体育館フォーメーション』『都忘れの理由』『灰色のエルミー』『かもしれない』『山分けの夜』6話短編ミステリ集。
・好きなら好きと言えばいい。一緒に暮らせばいい。
そして末永く幸せに――と、簡単に物事は運ばない。昔も今も P20
・同じ食材が調理法によってがらりと姿を変える。
組み合わせによっても変わる。
味は気象条件や、食べる人のその日の気分によっても左右される。
献立は無限に広がる。料理の多様性は、歴史に似ているのかもしれない。
言語も文化も政治も経済も、
地域によって、時代によって、実にさまざまだ。
空に光る星をうたう歌は各国にあり、
山に名を付け、それぞれの家を建てる。
子どもの誕生を喜び、死を嘆く。
埋葬の仕方ひとつとっても、地域によってがらりと姿を変えるのだ。
固定観念を排除して、できうるかぎりニュートラルに取り組む。
自分の好みに固執せず、でも自分の感覚は常に磨く。歴史学の基本だ P88
・最終話の第一稿が書けたところで、短編集そのもののタイトルとして、『もしかして ひょっとして』が浮かびました。
六作の主人公たちは訝しむべき出来事に遭遇し、謎めいた手がかりを前に、「もしかして」と立ち止まり、「ひょっとして」と思考を働かせ、
真相に近付いていきます。小説の取り組み方にも似ています。
私はとうてい無理、できないと決めつけてしまう前に、
もしかしてこうすればと切り口を探り、
ひょっとしてこうすればと膨らませていく。
そうするといつか一冊の本にまとまる日がくるかも P207