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言葉の宝箱 1195【欲は否定するものではなく、コントロールする対象です】

『百寺巡礼④滋賀・東海』五木寛之(講談社文庫2008/12/12)


・みずからの神のみを信じて、他の神を絶対に認めようとしない
一神教の風土とは、はっきりとちがう寛容さが
古い日本人の心情にはあるようだ P4

・「寛容(トレランス)」を失ったとき、
小さな相違は許しえない争点となり、
争いはどこまでもエスカレートしてしまう。
そのことは、二十一世紀になったいまも変わることがないのだろうか P23

*「近江八景」といわれる名勝があるが、
三井の晩鐘もそのひとつに数えられている。
「粟津の晴嵐」「瀬田の夕照」「石山の秋月」「矢橋の帰帆」
「唐崎の夜雨」「堅田の落雁」「比良の暮雪」が残りの七つだ P26

・物語というのは、歴史的な信憑性とか真偽とはまったく別ものだ。
人びとのこころのなかにずっと生きつづけ、
証明された歴史以上に人間のこころを動かす P54

・小説、フィクションを書くということは、
ある意味で非常に業の深い、罪深いことである。
そうした畏れのようなものが、
物を書く人間のこころの奥底にひそんでいる P59

・最澄(略)彼がいう「国宝」とは、
自分の持てる能力を謙虚に社会のために生かし、
日々そのために努力して、それぞれの場で、「一隅を照らす」人のことだ。つまり、特別な能力のある人間だけが「国の宝」なのではない。
人間は一人ひとり誰もが大切な存在である、ということだ P73

・欲は否定するものではなく、コントロールする対象です P83

・危機的な問題は、
いまの日本人が命というものを軽く感じていることではないだろうか。
自殺というのは、生きていくことを放棄するということだ(略)
これは自殺だけの問題ではない。
いま、自分の命が軽いのと同じように、他人の命も軽くなっている。
自殺は他殺と背中合わせの関係にあるのだ。
子供が動物をいじめる。子供が子供を殺す。
こういうことが、さほどふしぎではない時代にさしかかっている。
私はこのことがいま、いちばん問題だという気がする P133

・マニュアルやガイドラインに従って答えたところで、
なんの力があるだろうか P134

*五輪塔というのは、
仏教で五大要素と数える地・水・火・風・空をかたどった
五重の石塔のことだ P141

・「量」というものがある臨界点を超えてしまうと、
別の「質」に生まれ変わるのだ P149

・「慈悲」という考えかたの深いところには、
人間の存在の奥底にまでとどく大事なものがあるような気がしてならない。「慈悲」という言葉は「慈」と「悲」をあわせたものだ。
それをわかりやすく説明するために、
「抜苦与楽」という言葉が使われている(略)
「抜苦」は人びとの苦しみを軽くし、
痛みを和らげ、悲しみを癒すという感情だと思う。
「与楽」は人びとを元気づけ、励まし、
ともに明るい未来へ歩んでいこう、という積極的な思想である P204

・白装束に身をつつみ、死を覚悟した巡礼とは、いわばあの世への旅だ。
巡礼者は、
彼岸というものを体験したあとで、もう一度この世に戻ってくる。
そして、新しい人間として生まれ変わるのである P208
・寺をめぐる旅とは、
移動をして、いろいろな土地やさまざまな人びとの信仰の熱い力を吸収することかもしれない P261


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