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ケアマネさん必見、住改リセットの罠 〜3段階と転居、知らないと困る申請細部の話


前回の話からのつづき。

住宅改修、特に「住宅改修が必要な理由書」というものがケアマネ泣かせだよ、建築会社などはその理解度が浅いことが多いよ、そのギャップがあると利用者さんトラブルに繋がりがちだよ、というお話でした。


でも、実はそのトラブルの種は介護保険の制度設計のほうにもあり、それをそのプロであるケアマネが撒いてしまうこともある。
住宅改修費の給付枠の、リセットの問題である。


介護保険における住宅改修費の支給は、被保険者ひとり当たり20万円の枠が設定される。ただし、無条件で使えるわけではない。
まず要支援1から要介護5まで、なにかしらの要介護認定が出ていないと、介護保険そのものを使えるようにできない。アクティベート要件ですね。 

この制度の特徴は、その枠内であれば、何回に分けて使っても良いこと。なので、その予算を満額使わないともったいないと焦る必要はない。
なので必要な分を必要なだけ、という判断ができる。

これ、裏の理由もあって、介護保険では「いま困っている困難な状況」に対してしか給付が受けられない。
今はまだ大丈夫だけど、将来を見越してここに手すりをつけましょうという理由では介護保険は使えないのだ。これがいわゆる介護リフォームとの違いかもしれない。公式には、利用者さんの身体の衰えなどを先読みしての給付はダメ、ってことです。

なお、足元がふらつくようになった、転倒のリスクが上がっている、なので手すり必要、程度の話でも通るので、利用者さんに加齢による筋力低下があれば、理由書は書けるとは思います。足元がふらつく事実をちゃんとピックアップする必要がある、と捉えていただければ。



前置きが長くなりました。


そうやって、必要に応じて引っ張り出す貯金のような使い方ができるのが住宅改修の仕組みなのですが、その方の身体等の状況によって必要な改修内容は変わっていきます。

要支援1の認定が出た時は、伝い歩きで歩いていた方のためにつけた手すりが、歩行器必須になったときに床の段差が問題になり、先につけた手すりが逆に操作の邪魔になる、ということも、ある。

でも、要介護度が軽い時に住宅改修費を使い切ってしまっていたがため、新たな改修が必要なのに介護保険では対応ができない、そういうこともあり得る。


そのような時のために、介護保険における住宅改修では今までの給付履歴をリセットする仕組み、いわゆる3段階リセットがあるのです。
以前の改修はもうあんまり役に立たないはずだよね、だからまたチャージしましょうね、という仕組み。


ケアマネさんもこれをご存知の方は多く、要介護度が3つ上がったら、また20万円まで使えるようになるとご理解されている様子。



そこに罠がありました。

なので、ケアマネさんがご利用者さんに、これまでの履歴がリセットになりますよ、また必要なところに改修ができてよかったですねと話し、新たに住宅改修の計画を練ったところで、

実はリセットになってなかった、全額自費だからやめる、みたいな話に数年に1度出くわします。

その理由、トップの画像で貼ったんですが読み取れますでしょうか?


「介護の必要の程度」の段階?!



どこにも要介護度が3つ上がったら、って書いてないんですね。
「介護の必要の程度」の段階が三段階以上上がった場合、という、稀に見るひどい日本語が書いてあるだけで。
これ、読んでいるだけでわかっていた意味がわからなくなりそうな文章なので、ケアマネさんが間違うのも無理はないとは思う。

ちなみに、こんな表です


ポイントは単純で、リセット計算のときには要介護1と要支援2は同じ段階として数える、それだけ。

 
なんでこんなややこしいことになっているかと言うと、2005年の介護保険法の最初の改正で、要介護1を細分化して、自立支援の方がふさわしいケースとして要支援2という区分を新しく作ったからです。建前としてはこの区分は予防(自立支援)か介護、どちらがふさわしいかで振り分けただけであり、上下はないという考え方ですね。

実際には要支援1、2は行政の地域包括支援センターが管理する形になり、利用上限額も要介護に比べて下がるので、かつての要介護勢の最大勢力、要介護1だった皆様のうちのおおよそ半数の給付管理と抑制がちゃんとできるという、財政面のメリットもあったのではなかろうか。

(株)カクダイさんのカタログのような裏解説はこちら


それと、以前の法運用の辻褄を合わせたのでこうなったというところでしょう。

なので、以前から仕事をしているケアマネさんにとっては、素直に要介護度で3段階リセット、と説明をされていたところに、途中からこういう区分が挟まったということです。
たぶん更新研修でこういう話はやるんでしょうけど、介護保険は5年おきに法律がごっそり変わるので、追いかけ切れないのも無理はないよな、とも思います。
 

また、これは以前から変わりませんが、あくまでリセットの際に参照するのは、初回の住宅改修のときの要介護度と決まっています。
時間をかけて複数回使っていると、こっちの罠に引っかかることもあります。

まず要支援2で5万円分、その後に要支援1になったときに10万円使った利用者さんの場合、初回は程度区分2、なのでリセットになるのは程度区分5=要介護4、となります。

実務上、3段階リセットの要件は、

初回要支援1からなら要介護3
要支援2と要介護1からなら要介護4

と覚えてしまうのが早いかもしれないですね。この2つがほとんどなので。


あと、もう一つリセット技がありました。

転居リセット。
引っ越したらチャラにしてやんよという仕組みです。

でも、これにも落とし穴が。建て替えによる仮住まいからの、以前の住所に戻る場合。

例えば、1年間は他の場所に住民票の住所が移った、そして建て替えが終わって以前と同じ住所に戻ってきた。

これ、初回の転居はリセットになりますが、2回目の戻り転居はリセットになりません。
というより、以前の履歴が復活します。初回の転居先履歴との合算はなかった(はず)。


実は介護保険担当課では、住所に紐づけて住宅改修の履歴を把握されているとのこと。
役所の中の人曰く、今まで使えたものを建て替えで自ら破棄したのだから、再給付する謂れもないよね(超訳)、とのこと。ですよねー。


ウチではそういったケースで、旧居につけた手すりを大事に保管されていらっしゃった方よりご連絡をいただいて、新居にその手すりの再取り付けにお伺いしたケースもありました。全額自費になっちゃいましたけど、材料費はかからないので。


というわけで、ケアマネさんにとっての住宅改修のリセットの落とし穴、要注意なポイントをざっくりと書いてみました。
お役に立てれば幸いでございます。




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てすり屋のひとりごと 橋本 洋一郎(合同会社 湘南改造家)
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