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人口減とユニバーサルデザイン ~ロナルド・メイスのシビアな先見の明


将来を予測した本みたいなものは、いつの世も結構売れる。そしてそのうち、賞味期限が切れて忘れられる。どんどん新しいのが出るからね。


だけど、あえて一昔前のものを、今のデータと付き合わせつつ答え合わせ的に読むと、それはそれで面白い。著者としてはそれはやめて~、と言いたくなる読まれ方だろうけど、だからこそ面白いのだ。
ありがたいことに売価1円、送料が350円みたいな投げ売り状態だし、たまに興味がある話題のものがあると、古本をポチって積んでおく。


トップ画像のものも、そういった本で、2017年6月20日初版発行なのでちょうど7年前のものです。そこまで古くないので、精度はそこそこ高いはず、でもコロナ禍の影響によるズレが見えるだろうね、と思いつつパラパラめくる。どうやら、本の前半は時系列に沿って起こりうることを書いてあるらしい。

2023年に労働市場が縮小し、人手不足による問題が起こることをちゃんと取り上げていたのは、ビンゴ!である。他にも、
2025年から東京も人口減少と推定されていたのが、今は2040年からになっていることとか(でも東京はその人口の多さから、遅れて深刻な介護資源不足になるそうな)、
2027年に書いてある輸血用血液不足はどうやら前倒し気味に来ているなとか、いろいろな気づきがある。

2039年に深刻な火葬場不足、というのもあった。現実は今すでにそうなりかけである。
で、そこにあった死亡者数のグラフと現状の数字を見比べると、現実には2022年から死亡者数は急に増えていて、いまは2028年くらいの想定と一致する、という事実も見える。約5年の前倒し、これはコロナ禍というのかなんというのか。2020年は死亡者数、前年比でむしろ減っていたんですけどね。ロックダウンもあった年ですが、経済活動と医療活動の縮小が、意外に健康を維持したのかもしれない。

また、意外に空き家数の想定が下振れしていること(野村総研の2023年予測値は21.1%、実際は13.8%:放置空き家対策で古家の節税効果が消えたせいかな?)とか、認知症患者数は推定ばかりで、まともな実数データって実は存在しないこと(介護保険から当たればいいのに)とか、数そのものよりも、意外に不確かである予測データの存在も見える。

ということで、斜め読みでもそれなりに楽しめるレジャーであるのだが、そんなことをしていても日本はこの人口縮小と高齢化という深刻な問題を抱えたままである。

なのでそんなBGMでもかけつつ、本題に入ります。




そこで、皆さんに知ってほしいと思うのが、ユニバーサルデザインの父、ロナルド・メイス教授の話である。唐突に思えるかもだが、ちゃんと繋がっているのです、彼がUDをなぜ推したのか、ということと。

なお、メイス教授がどんな人だったかのご紹介はこちら。ノーマライゼーションの父、バンク・ミケルセンとセットでどうぞ。小学生低学年向けですが、過不足なくて良い紹介です。



さて、彼がどんな事を言っていたかを読んでみる。(株)ユーディットさんのサイトで邦訳をあげていただいているので、ありがたく引用。ロンさんの、ユニバーサルデザインの概念の種とも言える1985年のこの論文、日本には原典がないらしいのです。

【ユニバーサルデザインとは、みんなのためのバリアフリー環境】
Mace, R (1985). Universal Design: Barrier Free Environments for Everyone. Designers West, 33(1), 147-152.

未来の住宅は、戸建ても集合住宅も、高齢者や障害のある人のための特別なものではなく、「ユニバーサル・デザイン」で誰もが利用できるものになるでしょう。ノースカロライナ州ラレーの建築士であり、全米で最高のアクセシブル・デザインの権威であり、ユニバーサル・デザインという概念の父であるロン・メイス氏は予言しています。

ロン・メイス氏は、障害のある人や高齢者のためのデザインを専門に手がけるデザイン事務所であるバリアフリー・エンバイロンメンツ社の代表です。また、アクセシブル・デザインに関するデータや製品の開発、販売をする情報サービス企業である、IDC(Information and Development Corporation)の会長でもあります。

ユニバーサル・デザインとは?

ユニバーサル・デザインとは、簡単にいうと建築物や設備を、安くあるいは余分なお金をかけずに、障害の有無に関わらず誰にも機能的で且つ魅力的になるようにデザインする方法のことです。この考え方では、移動に問題を抱えている人に対する製品やデザインから、高額な費用がかかる「特別」というラベルを取り除き、同時に、現在の多くのアクセシブル・デザインがもつ施設のような外観をなくします。

ユニバーサル・デザインの概念は、今後十年の間に多くの支持を得るようになるでしょう。なぜなら、アメリカの高齢化によって身体的制約をもった人が増えるからです。ユニバーサル・デザインはこの増大するアクセスに関する要求に対する、唯一経済的に実現可能な答えです。

 

出だしのところを引っ張ってみた。

そもそも自走車いすと携帯酸素ユーザーであるメイスさん、車いすの方に合わせてつくられたトイレについて、それを使うことに対して疑問を持ったとのこと。その特別扱いは、差別と裏表である、ということですね。そこがUDの始まりだったのですが、彼が優れていたのは、インダストリアルデザイナーとしての合理性も持ち合わせていたことだと思われる。


ユニバーサルデザインの概念が普及したのは、そこにきちんと経済性についての視点があったことに尽きると思う。世の中は多様になっていくが、それをカバーする製品群は多様になると量産効果が働かず、高額になり個別対処が不可能になる。なので、メーカーにも儲かるでこれ、と言える方向性を打ち出したことが重要だったのだ。

商売として成立しない理想論はクソ、と言っているようにも自分には読めて、小気味いい。理想主義者こそ、現実主義者でなくてはならぬ。



さて、高齢化+人口減の話とこれを噛み合わせると、何がわかるか。

人口が減ると施設での介護などは難しくなり、ある程度は在宅で最後まで過ごす体制を組み立てねばならなくなる
でも、その場合に、身体(ADL)に合わせてオーダーメイドの工事をやることも、どんどん困難になる。材料や人件費の今後も続く値上げに合わせて、介護保険の住宅改修費20万円枠が上がっていくことは、たぶんないだろうしね。自費でやれる富裕層ならまだしも、誰にでも十分に、というわけにはいかなくなる。


先日、東京都ではリフトなどへの補助がいっぱい出るよ、という話を書いたけど、このアプローチも、実は持続不可能なのです。そもそも東京にそれだけ富が集中していることをそのように利用して、東京への人口集中を加速していることにもなるので。都民の皆様には申し訳ないけれど、地方が枯れたら、それは終わります。横浜市がその補助金を続けられなくなったように。


ではどうするか。

在宅では、できるだけユニバーサルな製品を使って、可能な限り再利用しながらその環境整備をやる

でも、これすでにある程度下地はできているし、やっている。排泄や入浴、摂食や整容などの日常生活を、どのように実現できるかを考えた時、在宅での暮らしを支える福祉用具がユニバーサルデザインに沿ったものであれば、必要なときにそこに貸出し、不要になればまた誰かのところに移動する、という形が実際に取られているし、全体で見たイニシャルコストとしては安く上がる方向になるのだ。貸与の費用を下げたいなら、連続利用後に貸与費を下げる仕組みを作るのもいいと思う。あれは搬入搬出に最もコストがかかるわけだからね。


介護保険が始まって24年、UDに沿った製品が多くできたとも言えるし、まだまだ知られず使われていないということもある。また介護保険と障害施策のかみ合わせが悪いことで問題が発生することもあるし(65歳の壁とか)、まだ様々な問題をはらみつつ、在宅介護における住環境整備は、自分の周りでは現状はなんとか回っている。

だが、これからも回るのか、というと、やはりそういった用具の今後にかかっているように思えてならない。


ここまで約100日、連続して投稿してきたのだけれど、てすり屋を名乗りながらも福祉用具の話題を多めに入れたのは、そういう問題意識もあるのです。まず知ってもらわないと、使ってもらえないので。そうすると売れない→消えるの悪循環になり、使える選択肢が減る、それは困る。

皆様には、ぜひ様々な福祉用具を手にとって試してほしいし、そういった、年齢やADLや経済力にかかわらず使える、こういったモノがもっと増えていく好循環に持ち込むしか、日本で今後も住環境から在宅介護を支える方法はない、と思うのである。


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てすり屋のひとりごと 橋本 洋一郎(合同会社 湘南改造家)
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