トイレの紙巻器さま 〜手すりの好敵手たち ① トイレ編
ライバルとは、どんなものにも存在し得ると思うが、手すりについてもその例外ではない。
手すりのことだけを懸命に考えて、取り付け位置を決めると、いきなり足を掬われる。
その手すりが、生活に必要な他の動作の妨げになるケースがあるからである。
例えば、トイレならありがちなのはペーパーホルダーと洗浄便座のリモコンとの兼ね合い。浴室なら風呂フタ及びそのフック、シャワーフック、給湯器リモコンといったところだろうか。
洗面所における横型のタオル掛けや、階段における、照明器具のスイッチもそれにあたる。
まず前編としてトイレの場合を書いてみる。
洗浄便座の普及により、その乾燥機能で済んでいる方なら問題はないが、たぶんそれはまだ少数派で、紙を使っておしり拭きをする方はそれなりにいる(はず)。そもそも乾燥機能がついていない、洗いオンリーの洗浄便座もあるし。
その場合、トイレットペーパーを使うため、ペーパーホルダー(紙巻器)の取り付け位置が問題になる。特に、上肢の動作に制限がある場合など、それだけ動きがシビアになるので、使い良い位置は限られてくる。
また、紙を切る場合に、一般的なペーパーホルダーはふたを手で押さえ、紙を上方に引いて切る動画が必要だが、片麻痺の方にはそれも難しい。
なので、蓋にバネが仕込んであるワンハンド対応型を使うこともある。この場合も、使い良い位置の確定はシビアになるだろう。
洗浄便座のリモコンも、今は赤外線で信号を飛ばす壁リモコン式が主流である。そのボタンに確実に指が届く位置にリモコンは設置したい。
そのような、これまでずっと家族の排泄を支えてきた、黙って存在を主張をし続けるライバルたちと、新参者の手すりはその取り付け位置を争うことになるのだ。
ちなみに、公共のトイレは手すりが下、紙巻器とリモコンは上、のレイアウトを取る。たしかT⚪︎TOさんが音頭をとって、各社連携した研究の成果である。
なんだ、それならそれをまんまパクコピーすれば良いのでは、と考えると、そこで足を掬われる。
公共トイレは、3尺モジュールの木造住宅と違って間取りに余裕があるので、手すりを壁面から長めに持ち出すか、ペーパーホルダーを壁に埋め込み、両者の壁からの出幅を調整し、どの位置でも手すりを握れるようにする、という解決策をとっている。
しかし、一般家庭のペーパーホルダーは手すりとしても使い良い位置にあることが多く、それが無意識のうちにしっかり手すりの代用として使われてしまいがちである。
ただし下地に固定されていないことや(ボードアンカーと呼ばれるものが使われる)、器具そのものの耐荷重も足りないなどで、その結果として壁からビスが抜けかけてグラグラしたり、部品が割れているため、そのまま放置もできない。
というわけで、それらを踏まえて紙巻器やリモコンの位置はどこが良い?と改めて整理していくことになるのだ。
横手すりの上の位置が便利かなと思うこともあるのだが、半端な高さに設置すると、今度は横手すりを上から保持できず、邪魔この上ない。
さりとて下にすると、ホルダーの紙交換のための空間を少し取るため、かなり下側になってしまう。
また縦手すりの近くに付けると、その手すりが握れない部分ができるので、ある程度離さざるを得ない。
ちなみに、L字手すり教を脱会して久しい自分がよくやる取付方法は、便器横手すりを肘掛けの高さより気持ち高めにして、ドアまでの移動と兼用とし、横手すりの下にペーパーホルダーを取り付けるか、手すりが片側設置であれば、その反対側にそれらを取り付けるケースが多い。またリモコンは基本的に横手すりの上、縦手すりの手前に落ちつく。
そんな感じで、いつも決定打に欠けるモヤモヤ感を残しつつ、それでも利用者さんと動き、話しながら決める。しばらく使ってみて、困るようならまたそれらは移動するので、というエクスキューズ付きで。
手すりとしては、ベストな位置ではなくなることもあるけれども、今よりベター、かつ他の生活動作を損なわないポイントを見つけることは、この仕事の面白いところでもある。
そして、結局それらのアクセサリーは、利用者さんたちが使い慣れたところから、それぞれの動きの癖を踏まえて、以前とあまり動かさないところに収束しがちである。やっぱり身体の記憶は大切である。
個人の住宅のお話であるのだから、あまり数値の決まりごとに引っ張られすぎないよう、その利用者さんが欲しいところが正解、という原則に立ち戻りながらこちらも日々、対応しているのであった。
ちなみに我が家はこんな割り切りです。
お風呂編に続きます。