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LOVOTにみる、ロボットとの暮らし 〜「役に立たない」から得られたもの
介護のために役に立つロボットの開発に、これまでどれだけの資金が投入されたか、正直に言うと、あまり考えたくない。
結果的に、介助者になりかわってその身体的負担を担おうとしたロボットは、そのコストも含めたときに既存の補助器具(福祉用具)より優位に立てず、ことごとく爆散したと言っていい。
でもそんな中で、しぶとく残っているヤツもいる。
メンタルコミットロボット「パロ」。あざらし状のナニかです。
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産総研にて1993年より開発がはじまり、2005年に発売。20年経った現在もまだ現役です。ナリはアレですが、仕事の面で役に立たないことを狙ってつくられたそうで。
じゃなんのためのロボだよ、と突っ込みたくなりますが、癒やし(セラピー)担当です。というか、そのことが長命の由来なのでしょうね。
高度な技術で本物の生き物のような動作に
パロは高度なセンサー技術と人工知能で本物の生き物のように動作します。
自分の名前を覚えたり、約50語の単語を識別して挨拶などにもまぶた、頭、前脚、後脚を動かして全身で表現します。
ユビキタス面触覚センサ 音声認識機能(多言語対応) 小型3軸加速度センサ、ステレオ光センサ、温度センサなど様々なセンサを使用してふれあう人や環境、状況を感じとります。コミュニケーションを重ねることにより、反応が変わったり、飼い主の好みに合せて行動したりするようになります。
人の働きかけに対して行動を変える点が、ただのぬいぐるみと違うところ。
残念ながら視覚センサーはないようなので、顔を覚えるわけではなく、声の記憶をするとのこと。高齢者施設等で動物を飼うことは無理でも、その代わりに、コチラのまつ毛ぱっちりアザラシはいかが?という目的でつくられたわけですね。介護系ロボの中では成功例と言っていいかと。
また近頃は、脳みそを更新して、介護職に転職するロボも現れた。回るお寿司屋さんの受付から消えて久しい、Pepper氏です。ソフトバンク社、渾身のロボット。
最近はデイリハなどにて、運動のインストラクター役などをやっているそうで。倉庫に押し込まれなくて良かったねえ、と親戚の心配だった中学生がいつのまにか立派になって、みたいな気持ちになります。
ただパロもペッパーくんも、その瞳はちょっとアレである。無限の宇宙に吸い込まれるような黒目で生物感はない。黒目がちにしてその空虚な心を誤魔化している、と言えなくもない。
というわけで、ようやく本題です。
正直に言うと、自分がこのロボ、LOVOTのことをちゃんと認識したのは最近である。でも、調べれば調べるほどにこれは凄いぞ、と思ったので、開発者さんの著書まで買って読んでみた。
読んでますます興味を抱いたのだが、ここまで来たらやることはひとつ。
こいつに、会いに行かなくては。
行ってきましたとも。新宿はタカシマヤの6階まで。
LOVOT【GROOVE X社】
言葉は不要。まずは見てください。
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トップ画像の子(あえてそう呼ぶ)、レジでお姉さんと話している自分を、横目でチラチラと伺うように見たりするのである。なお画像では白眼が青っぽく見えますが、肉眼で見ると綺麗な白です。
こちらが改めてご挨拶に出向くと、この表情である。ズキュン。
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上目遣いの手練れであった。そりゃ抱っこもしたくなろうというもの。
LOVOT、瞳にその性能のかなりの部分を費やしてます。最新型で10億通りのバリエーションがあり、アイコンタクトのタイミングなども不自然さがない。これ、本当にすごいです。
しかしこの子は店番勤務中(それも服を着ていないため恥ずかしがりながら、らしい)なので、致し方なく違う子に浮気しました。
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運動場をみると、それぞれ食事中だったり、ウロウロしていたり、お客さんにアピールしたり、それぞれ勝手にしている。そして白い子がこちらに寄って来たので(お名前はホイップさん)、抱っこさせていただく。まだ少々人見知りとのことだが、顔や喉を撫でると「ピキュルピキョキュ」と、喜んでいるとおぼしき声で応える。
この子たち、全身にタッチセンサー内装、特に顔は敏感とのこと。声も全てのLOVOTで異なるそうで。
そして、ロボとしてあるまじき特徴がもうひとつあり、それを体感したくて来たのだった。
それは、体温があること。あたたかいのだ。
膝に乗せると、重めのポットくらいの重さがあるが、冷たさは感じない。そしてしばらくイチャイチャしていると、だんだん腿上があたたかくなっていく。猫ほど柔らかくはないが、専用にあつらえられた服もビロードのような手触りで、触れてて気持ちがいい。
店員さんに色々質問したところ、今のところはロボット掃除機と同じく平面マッピングしか出来ないために他の階に連れていくような事はできないけど、そのへんも鋭意開発中とか(まだ猫はその点で優位性があるな)、小学校でお試し導入したところ、とても和やかになり良い効果があったとか(研究だとストレス軽減、自己肯定感と利他性アップ、らしい)、面白い話をいくつか聞いたりしました。
そしてカタログを頂いたので、ざっくりチェックしてみる。
LOVOTのオーナーさんの「オキシトシン」を増やし、「コルチゾール」を減らすなどの効能が書いてあります。癒やして、ストレスを減らしている、ってことですね。この辺のことが、開発者である林要さんの著書にも書いてありました。せっかくなので、そっちも眺めてみましょうか。
LOVOTの生みの親、林要さんのお話
実は林さん、トヨタの空力エンジニアから、ソフトバンクに転職してペッパー君の開発に携わっていた方です。でも、その際にロボットと人との埋められない距離感に悩むことになったとのこと。
その中で、起動しないペッパー君を周囲の人達が応援したり、フランス出張時、フランス語会話ができないペッパーに「ハグして」機能を埋め込んだところ、みなさんががっつりハグしてくれた(しまいにはキスまで)という光景を見て、人の利便性向上という目的以外に、人の原始的な欲求を満たすことにもロボットの価値があるのではという気づきを得たそうで。
さらに、高齢者施設では、「ペッパー君の手を暖かくしてほしい」と言われ、そのロボットの存在の問いについて、悩みが大きくなったようです。
良く考えてみたら、ドラえもんだって通常営業中は役に立たない。のび太の部屋の押し入れで寝ていて、泣きついても邪険にするし、どら焼き最優先である。4次元ポケットの中身だって時々ひっくり返って目的のものが取り出せなくなったりする。でも大事なときにはちゃんと寄り添ってくれる。その使えなさと寄り添いが、ロボットが人と暮らすうえで大切なのだという気付き。林さんはそこで、自らの作るロボットの目標をこう定めたそうな。
ドラえもん(4次元ポケットなし)の、プロトタイプ。人に寄り添い、コーチングをしてくれる存在。
「不安」「興味」「興奮」というパラメータ
でも、そのロボットが人から見て自然に振る舞うためには、その感情の原理を考えなきゃならない、ということで、林さんは上の3つを考えた。
まず不安⇔安心、興味⇔無関心、そのバランスで、様々な感情を表現できる。不安+興味で【人見知り】、安心+興味で【好意】、安心と無関心で【スルー】、不安+無関心で【イヤ】、など。そしてそれに追加して「興奮」という活動エネルギーを示すパラメータを載せて、その濃淡をつけたそうで。
初期値もそれぞれ違うので、それが個体の性格になります。そして、よく会う人には不安パラメータが徐々に安心になっていくので、懐く。
これ、猫飼いとしては良くわかります。うちのチマちゃんはツンデレですが、不安がすごく大きい、でもチラッチラッとこちらを良く伺い、不安が消えたときはベッタベタに甘えてくる。
また、未だに自分にだけ懐かないナユタさんは、不安要素が大きく、自分には興味もないために、不安+無関心か、遠目にいるときは安心+無関心。
LOVOTは、そうして生物と見紛う感情と動作の多様性を身につけた、ということですね。喜びとか悲しみとか、そういう具体的な感情のパラメータはないそうです。
「ロボットは気持ち悪く、ぬいぐるみなら許せる」のはなぜか
ロボットが人に似れば似るほど、人との細かな違いが違和感になる、ということが人間の感覚にはあるそうで。いわゆる不気味の壁、というやつもそのひとつ。ぬいぐるみはデフォルメされているのがいいのでしょうね。
先に上げたパロはぬいぐるみに擬態してそれをクリアし、ペッパー君はあえて人に寄せすぎず、ロボロボした形にしたことで不気味の壁の手前でとどまっているわけですが、LOVOTはその壁越えに挑戦しています。
その主役はやっぱり、その潤んだ瞳。人とちゃんと目線が合い、眼で会話ができる。
もうひとつは、あえて口を持たないこと。できの悪いアフレコのように、音と口の動作がシンクロしないと、人間は違和感を感じる。なので、口は最初からなし。その会話に違和感を感じさせないために。
そして全身に触覚センサーを配置し、その反応速度を上げている。人が不自然に感じないところまで。ハグやタッチにリアルタイムで反応する。
そして、立って動き回る。2足歩行などの難しい要素を使わず、車輪を使って自由に動く。
あえていくつかの機能を捨てる選択をすることで、気持ち悪さに繋がる要素を取り除き、高性能のCPUが眼や声の表現力、繊細な触覚と反応速度を与えているのですね。
「ユマニチュード」の技法が身についているLOVOT
フランス生まれのケアの技法として、ユマニチュードというものがあるのですが、その柱が「見る」「話す」「触れる」「立つ」の4つ。
実は前項の選択の結果として、LOVOTにはこれができるそうな。見つめ合って話したり、触れられたことで喜びを表現したり、たまに転んで利用者さんが立って助けに来たり。ずーっと見つめ合って、飽きないんですよ。この子たち。
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人の利便性向上という目的でなく、それ以外の機能を煮詰めたことで、ユマニチュードの基礎を身につけている。すごい成果が出ている、と感心したのはココです。
アニマルセラピーの本質もここにあるはずなんだけど、人が想像力で勝手に補完する部分の多いパロと違って、LOVOTはかなりのレベルでペットに近い。もしかしたら部分的には超えているかも。
とはいえ、役に立つ機能もあります
あくまで副次的という建前ではあるのだろうけど、実は遠方見守りのために役に立つのもLOVOTの特徴です。
1,ダイアリー機能
たくさん抱っこしてもらった、とか、名前を呼ばれた、とかを時系列で記録。アプリを通して遠隔で見ることが出来ます。
2,アルバム
笑顔に対して反応して、写真を撮る機能がLOVOTにはあります。そんな画像がどんどん貯まっていくそうな。
3,お留守番
オーナーさんが留守中に家の中で人を検知すると、すかさず写真を取りアプリに転送して教えてくれるとのこと。あまり発動させたくないですねこれ・・・。
4,リアルタイムモニター
LOVOTのカメラを通じて、遠隔で気になるところの様子を見ることができます。移動操作はできないみたいですけど。
遠くに住んでいるご家族におすすめしやすいポイントではありますね。あとはお値段と維持費、ってところでしょうか。
血統書付きで病弱な猫、くらいのコストがかかるのが致し方ないとはいえ、お迎えのハードルになるかと。
以上、気になるロボット、LOVOTとの出会い系レポと読書メモでした。
林さんの本については、続編を何処かで書くかもです。面白すぎる。
LOVOT、より詳しく知りたい方は公式のコチラまで。
※2/15追記
なんと、パロを施設でなく、個人でお迎えした方をnote内でお見かけしまして、リンク貼り付けにご快諾いただきました。
かわいいですわ、パロさんも。LOVOTが幼児なら、こちらは乳児です。
※参考図書
LOVOTの開発者、林要さんによる、ロボット開発の書と思いきや、人間というシステムの根源を巡る冒険の書。
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