ヤブからヘビ呼ぶ養生グッズ 〜やらかしの記録 ④
我が社では手すり付けの際に大活躍するポリマスカーをはじめ、最近は台風の時など、建築業界の外側でも当たり前に使われるようになった養生一族。こう書くと剣豪みたいで格好いい。
パイオランテープ(緑のやつ)やポリマスカー(テープ付きのポリエチレンシート)、ここには写ってないが床養生板などを主戦力とする彼らのおかげで、現場をきれいに保つことが容易になり、施工時間、特に片付けタイムの大幅な短縮につながっている。
生産性という言葉はあまり好きではないが、リフォーム系建築現場のそれを引き上げたのは、多くはこれらの貢献なのではないか、と思う。
そして彼らの真髄は、必要な時にくっつき剥がれず、でも剥がす時には綺麗に、という粘着テープの高性能にある。阿吽の呼吸とかそういうレベルの、粘着と剥がしやすさの絶妙なバランスの成せる技である。
だが、そんな手練れにも、分の悪い相手はいるものだ。
それは偽装のプロ、プリント合板一家である。絶妙の模様で、人間の目を騙し、本物の木のふりをして、何十年とあなたの側にいる奴らだ。
ふた昔前の日本家屋では、左官屋さんが塗る壁は砂が落ちると言われて嫌われ、その穴を埋めたのが、この合板たちである。
なんとなく木の壁っぽい、薄いベニヤがそれだ。また、床と壁の境目に入っている巾木なども、たいがいその柄はプリントだ。
そしてそれらの印刷インクや、表面材も経年劣化する。つまりちょっとしたことで剥がれるようになってしまうのだ。
手練れの者どもとて、常に完璧に仕事をこなすとは限らないのが世の常であり、世知辛いことであるが仕方ない。
なので、この時代の建物に手すりをつけようとする場合、養生の貼り方には細心の注意が必要である。油断をすると、その剥がした養生テープの接着面幅いっぱいに、壁の模様を転写してしまう。
なので見えないところでちょこっと実験して、剥がれないことを確認してから養生に入るが、悲しいことに日の当たり具合などで場所により劣化具合が違ったりする。
そして、茶色い壁の下部に、明らかに色が剥がれた薄茶色の帯を見つけて、もう作業が終わるはずだった現場があと30分長引くことを覚悟するのだ。
これについては、フローリング等の傷直し職人を呼ぶ、という選択肢もある。職人さんに聞くと、元美大生だったりして、なるほど、こういう技能の活かし方もあるのかと思ったりもする。要はそこに元通りの木目の絵を描くのである。
だが、当然だが費用はお高い。なので、こちらも最低限の補修はやれるように、技術と材料を整えておかないと現場で対応できなくなる。
このような剥がれによるダメージは、傷や穴を埋める、油脂系の補修剤だと対応が難しい。あれは一種のクレヨンみたいなものなので。
なので、こちらではある程度透過性のある含浸性の木部塗料、たとえばワトコオイルの濃い目の色、それも少し揮発してとろみがあるようなものを薄い色の部分に乗せて、筆で濃淡をつけたりすることが多い。
要は周囲との違いが目立たなくなればいいので、色合いさえ間違わなければよい。あとはお客さんにお詫びがてら、そこにしばらく触れないようにお願いし、それで残業が完了する。
この対策としては、まず養生を貼らない、ということを考えざるを得ない。なので、マスカーのテープの部分を折り返して仮釘で止めるなどの技法もあるのだが、そうするとすきまからホコリが落ちて現場を汚し、結局のところ二度手間になる。
それでは意味がないので、あとはそれぞれの養生用品のテープの粘着強さを把握し、それぞれを使い分ける、という芸当が必要になる。養生テープの緑の系統のものでも、粘着性は色々違うのがあるし、自分は間違わないように弱粘着が必要なときはさくらテープという、ピンク色のものを使っている。
また、ポリマスカーにもいくつか粘着性の違うやつがあるので試しに使ってみたが、弱粘着のものだと、作業中シートに触れるたびにバサバサと剥がれてくる案件が多発して、それは現場で役に立たないと判断し、こちらでは使わなくなった。仕事の邪魔になるようでは養生材失格である。
養生の道は本当に奥が深い、のであった。
トップ画像はうちのお安い家具調こたつの天板、と爺さん猫の下半身。ところどころにしっかり粘着テープ模様が残っておりますが、猫の毛皮と同じように草臥れているように見えて、それはそれで良いかとも思っております。