炬燵を埋めたらまだやれる ~掘りごたつ改修とベッドまわりのレイアウト
この仕事をしていると、訪問先でちょっとしたミラクルに出会うことが時折あるが、このケースもそれかもしれない。
ただ、その奇跡が結果的にその後の展開を難しくしていた、そんなときに外からの人間がどう関わるか、という話でもある。
トップ画像、パッと見はベッドとその横の四角いテーブルであり、ベッドの端に座った端座位からの立ち上がりにも良いんじゃないかなこれ、程度の認識だった。しかしよく見ると、
なんということでしょう。テーブルの下には掘り炬燵のやぐらが、誂えたかのようにぴったりと嵌まっているではありませんか。
そのことが、ベッド横のテーブルを移動だけでなく、端座位からの立ち座り手すりとして使えるほどにしっかりと固定している。また、天板もそれなりに広いので、食事空間としても充分である。脚を中に入れられない点は炬燵として忸怩たるものはあるだろうが、役に立っているのだからよかろう。
見れば見るほどよくできてるなと感心した。他社さんによって壁の柱と柱の間に横手すりも取付済である。これなら排泄の際の移動をカバーすることができ、快適な生活空間がもたらされていたであろう。
その相談の少し前までは。
だが、その炬燵テーブルと、利用者さんの蜜月にも隙間風が吹き始める。下肢筋力の低下により、手すりがあっても転ぶようになってきたのだ。
そうなると、室内の移動には手すりの増設、歩行器、もしくは車いす等による座位での移動を考える必要が出てくる。となると、この位置のテーブルは絶妙にそれらの利用の妨げになる位置となる。ベッドで端座位を取りたい位置にそれがあるのだ。また、ベッドの位置ももう少し手前に寄せたいのだが、それもテーブルが居座っていると難しい。
そこで改めて炬燵を拝見した。一見、既製品だと思われたので、やぐらごと下にはめ込めば済むはず、畳が残っていれば工事不要かな?と思っていたら、甘かった。
掘りごたつ部分の壁面が弱かったのか、12mmの合板でびっちり補強されて、ご丁寧にコンセントもそこにつけ直されていたのだ。つまり、やぐら落としスペースがその厚さ分、四方きっちり狭くなっている。
このままやぐらを落とし込むには、掘りごたつ部を四次元空間にするか、接着剤がガッツリ付いていると思われる合板を、丁寧に剥がす必要がある。
だがあいにく、自分には22世紀の科学の持ち合わせはなかった。また合板をきれいに剥がすのも大の苦手としている。
なので作戦変更し、長年頑張ってきた炬燵やぐらに引退勧告し、畳下地を改めて作る方法で検討することにした。だが、畳の厚さが約60mmなのに、そのコタツの合板縁はそれらより15mm高く仕上がっており、それが畳を入れる際の妨げになってしまうのだった。どのみち綺麗に壊す任務が出現してしまうのか。
だが、そんな時は畳という気の利いた材料の良さが発揮される。いまの畳床は藁床以外にも多様な選択肢があり、薄い畳が作れるのだ。
なので、隣の半畳部分と合わせた1枚分のスペースに、補強根太を入れながら畳表面とのレベル差が30mm程度になるように、12mm合板を入れる。せっかくなので、ついでに床を切って床下の健全性もチェックしたりもする。
そして、その寸法でオーダーしてあった、周囲の畳の半分の厚さとなる、30mm厚の断熱畳を入れて出来上がりである。
壊しがないと工事は早いし綺麗、さらにお安く上がりますのよ奥様。
そして、今まで活躍してくれた炬燵テーブルから間取りが自由になることで、ベッドのレイアウトに余裕ができ、さらに車いすなどでのベッド横へのアプローチが可能になった。車輪の転がり抵抗はあるけど、その空間がないよりずっとマシである。
実はこちらの件、ご家族より先ごろ、今年の春に利用者さんのお望みの通り、ご自宅より送り出しました、とご連絡をいただいた。炬燵を改修してから1年間その部屋で、ご家族と一緒に最後の時間を過ごせたとのこと。
この1年間の詳しいお話は伺っておらず、いろいろなご苦労もあったかと想像するのみなのだが、それを可能にするためには、例えばポータブルトイレを導入するなど、様々なスペースが必要になる局面があったはず。
たとえその工夫がこれまでの暮らしを良く支えたものであっても、その方の身体の状況等に合わせ、タイミングよくその後を見通した改修をおこなう大切さに、あらためて気付かされたのであった。
ちなみにこの件、堀り炬燵の穴の部分は段差とみなせるとのことで、住宅改修における段差解消に該当するとの判断をしてもらい、介護保険を使って工事を行っている。
保険者によっては判断が分かれるかもしれないが、こういう事例の積み重ねが、次のボーダーラインケースの糧になるのである。
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