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踏み込む前にアゲる 〜車いす転回部と敷居段差の話


こなれた技術として確立しているかに見える、車いすというデバイスだが、実はいまだに克服できない弱点がある。キャスター、すなわち前輪の操舵である。

これは車軸の前に縦の旋回軸を配置して、操作された方向にトレール(追従)するようになっている。主の行く方向に沿ってなすがままの、忠実な僕(しもべ)であり、普段は自己主張に欠けた奴でもある。

ただし、その性質は平地に限る。そして、勾配で奴は突然牙を剥く。奴は主を裏切り、あっさり地球に従う。重力の僕であることを選ぶからだ。


なので、車いすは広い傾斜路が実は苦手だ。傾斜に対して正対しているならまだ制御できるが、斜めになると、下向きに首を向け始める。介助者はハンドルをこじって踏ん張り、自走ならハンドリムから手を離せなくなる。

これと同じことが、屋内では廊下と部屋の入口の段差で起こる。廊下から直角に曲がって部屋に入る場合である。擦り付けのスロープを付ければOK、と思ったらさにあらず。

介助用なら、強引に後ろからハンドルをこじるか、前輪を浮かせる(ティッピング)技術などを駆使すればまだコントロールできるが、自走だと本当に辛いのだ、これ。

進路を曲げようとしても、片側の前輪がスロープにかかると戻ってくる。ハンドリムを、戦車の超信地旋回のように、強引に左右逆位相で動かせばやれるかもしれないが、筋力の低下した高齢者や、神経難病の方には無理だろう。


なので、自走車いすでの、一段低い廊下の段差解消の正攻法は「廊下全体を他の部屋に合わせて上げる」なのだ。高い方を下げるよりははるかに安くつくが、それでも、予算的にちょっと大変だなと尻込みする方も多いと思う。
でも、間取りによっては部分的な床上げで済むことがある。踏み込み、という空間を利用できる場合である。

半畳の狭い空間で転回をしなくてはならないような間取りであれば、その半畳を高い方に合わせて平坦にすると、上がる部分は直進で対応できるので介助力が少なくて済む。


地元産ひのきフローリング ワトコオイル仕上げ

トップ画像のところがこんな格好になります。

この事例、最初の相談は洗面所の洗面台交換の話から始まり、せっかくなら床もやりたい、という話になったところで、こちらからその床をもう少し延ばしませんか、とご提案した形である。

あと洗面所は面積が小さいので、こういった材料の冒険もしやすいのも良いところ。単価がそこそこ高めでも、面積はたかが知れているからね。クッションフロア一辺倒でつまらないときはお勧めです、この材料。

改修が終わった後だけを見るとあまりピンとこない、パッとしない改修ではありますが、この手を知っているとかなり介助は楽になりますよ、という小ネタ話でした。

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